頻子
2023-12-24 19:46:49
2134文字
Public その他こまごました二次
 

ショートコント・隠し扉(Fanastasis)

[DE:]Fanastasisショートコント

「なんだこれは!」
 私は怒り狂っていた。付き合いの長い執事は黙って怒鳴られていたが、しばらくすると私の要求にこたえ、責任者を連れてきたのであった。
「へえ、お初にお目にかかります。旦那様。こらでの生活はいかがですか?」
 帽子を前に抱えた小男が、卑屈そうな足取りで我が家のしきいをまたぐ。腹がたつほどニヤけた面だ。それにいっそう私は腹を立てた。
「おまえが工事の責任者か?」
「はあ、ありがとうございます」
「ありがとうございます、だと。なんだ、この家は?」
「ええと」男はもごもごとして言った。「奥様とお坊ちゃまにはたいそう気に入っていただけたと自負しておりますが」
「ひどいありさまだ。柱がやたら邪魔な位置にあるし、それに夜中になるとゴゴゴと妙な音がするんだ。それに何よりもこの請求だ。私もこちらでの商売にはまだ慣れていない。きちんと計算し直すまで分からないと思っていたが、……高すぎる! 同じ値段で平屋が建つぞ!」
「ああ、そりゃそうです。実際に一軒ぶんくらいの平屋は余計に建ててますから」
「は?」
 男の言い分は耳を疑うものだった。
「隠し扉の分です、旦那」
「隠し扉?」
 言い訳にしては意表を突かれた。男は何もないところに、いや、邪魔な柱の凹凸に手を伸ばしてランプをひねる。カチ、という音がした。
「そうだ、そのランプもつかないんだ」
「そういうもんでさあ」
「いいかげんにしろよ。家主に無断で隠し扉をつけたっていうのか」
「はあ、特に注文もありませんでしたし」
「注文がなかったら隠し扉が付くのか!?」
「へえ、付きますが」
 まるで熱々のシチューを頼んだら当然パンも二切れくらいは出てくるというような口調で言うものだから、私は呆気にとられた。
 小男は二度、三度と家を行ったり来たりして複雑な操作をする。しばらくすると、ゴゴゴゴ、という音とともに知らない空間がぽっかりと口を開けていた。
「こちら、旦那様の私室でさあ」
 私は絶句した。
 開いた隠し扉の向こうには立派な机と椅子があった。おおやけに窓が付けられないから、そこは工夫されていて、天窓がある。悔しいことに、椅子は表にある私の私室にある椅子よりも座り心地がよかった。
「やたらと外観と一致しないと思っていたが」
「あっしのほうも、まさかわざわざ説明しなきゃならねぇとは思ってませんでしたが。奥様なんぞ家を一目俯瞰で見て、道のつながってない部屋を見つけて、そうしたら心得たもんでさあ。コンコンと壁を叩いて、ゆとり空間を見つけたもんですぜ」
「収納か何かみたいに言うな。屋根のある家をどうやって俯瞰で見るってんだ。一階だぞ」
 私の発言はスルーされた。
「旦那様の私室は手順を知らなきゃ絶対に開きませんや」
「まだあるのか?」
「そりゃあ、立派なお屋敷ですし、扉は一つじゃすみませんよ。坊ちゃんのと、使用人のと……あ、使用人のほうは部屋というよりか、抜け道ですが」
……
「旦那、隠し扉っていうのはベンリなもんです。何かあったときに隠れ家になりますし。それに、ある程度の大きさ以上の家には隠し扉がないとかっこが付きません」
「そういう決まりでもあるのか?」
「はあ。実際に決まりがあるわけでもねぇですが」
「うん?」
 小男はもったいぶったように、声を潜めたのであった。
「とある金持ちがですぜ。工賃をケチって、隠し部屋をつけなかったんです。泥棒に入られたら困る、ってね」
 何か腑に落ちないものを感じて、私は黙るしかない。
「するとどうなったかっていうと、案の定、家主の留守を狙って、賊が忍び込んだんでさあ。でも、一向に隠し部屋が見つからない。それもそうでしょう。ハナから隠し扉がなかったんですから。賊はそんなはずないと探し回って、壁を叩きまわり、ついには家主と遭遇して、刺し殺しちまったんでさぁ。ああ、ここできちんと隠し扉の一つおいておけば何事もなく済んだってハナシで。ね、ほら、隠し扉は大事でしょう、旦那?」
「それは……本末転倒じゃないのか?」
「何かある、と思われるのが金持ちの義務ってやつですぜ」
「やめちまえ、そんなもん」
「ところが、こんな事情で、やめるにしても誰かがやめるわけにはいかねぇんです。もう『何かある』とは思われてますから。全員でいっせいにやめないとならない。もはや抜け駆けはゆるされねぇってこって」
「隠し扉に呪われてないか?」
「それにね、旦那。カノン王国の男児っていうのはね、旦那。隠し扉とともに大きくなるんです。息子さんがあんたの不正経理に勘づいた時の日記を書くとき、どこに隠せばいいってんですかい?」
「めったなことを言いやがって! 俺にそんな秘密はないし、隠し部屋に置くほどたいそうなものもない」
「でしたらどうです。奥さんを褒めた日記のひとつ置いて置くんでさあ。好感度上がることまちがいなしです」
「それは……。いいかもしれない」毛皮の値引き交渉ならお手の物だが、私は結構シャイなのだ。「待てよ。絶対に開かない隠し扉なら、妻もみれないはずじゃないのか。だれからの好感度が上がるって言うんだ?」
「そりゃ、後の世からの」
「いい加減にしろ!」