頻子
2023-08-17 05:23:49
2494文字
Public KODR二次
 

つよ吸血鬼(KODR)

結婚後ベケニュ
ほのぼの

「ニュート」
 目を覚ますと、ベーケス2世に手を握られていたので、夢ではないかとニュートは思った。いい夢だな、と思いながら、そのまま二度寝を決め込もうとすると、思いがけず夢の側に引き留められたのだった。
「ニュート、おい、ニュート」
 軽く揺すられつつも、枕とシーツに点々と散った血を見て、ニュートはようやく思い出した。ニュートはベーケス2世と結婚したのだ。彼に噛まれて吸血鬼になったのだった。そう簡単に無種族から吸血鬼に変わるものではないようで、婚約式から、ばったりと寝ていたのだった……今の今まで。
「うん、枕とシーツはフランコールに換えてもらおう。どこも痛くないか? 起きられるか? ……血は飲めそうか?」
 お水が飲みたい……
 ニュートがそう言うと、ベーケス2世は苦笑して、手に持ったコップを置いて、置いてあった水差しをとろうとしてくれた。
 そう、とろうとはしてくれたのだった。
 瞬間、ガラスが砕け散った。
 あれ、と、何事かつかみ切れない中、視界がぐるりと回る……

***

 ニュートの部屋は、箱をひっくり返したようにしっちゃかめっちゃかになってしまった。
 どうやら、それは、強すぎる念力のしわざだった。
 何者かの襲撃かと勘違いしていたベーケス2世は滑稽である。原因の方をかばい、いもしない暗殺者を睨みつけていたのだから……
 何かを持とうとしてはぶち壊し、扉を開けようとしては破壊し、パニックになったニュートは、加減をまちがって念力を振り回してしまったらしいのだ。
 ニュートはまじまじと己の手のひらを見つめた。
 敗北を知りたい。
「お前、戦ったことないだろ」とベーケス2世はツッコミをして、とりあえずニュートを無事な椅子の上に置いた。
 ニュートは、魔界で最強の吸血鬼になってしまった。

 新しい朝とともにやってきたニュートの力に、魔物たちは非常にわかりやすく反応したものだった。
 魔界王の目がない場所ではきもちていどにちょ~っと会釈するだけだった一部の魔物が、そろって膝をついている。くしゃみをしたはずみで、石柱をひとつぶっ飛ばしたのでしかたのないことかもしれない。
 フランコールをバラバラにしてしまっては気の毒なので、ニュートは下がってもらうことにした。ウルハムは折り悪く病欠したらしい。
「ピクシーに直してもらわないとな。……ニュート、力を持て余して扉を出すのをやめなさい。こら。どこにつながってるんだ……
 ベーケス2世は、目を離したすきに生じていた色とりどりの扉を見て文句を垂れた。ニュートが人間界に来るときに開いていた扉である。一つだけ開けて顔をしかめて元に戻す。どんな世界につながっていたのか。尋ねても首を横に振るだけだった。
 傍にいるのはベーケス2世だけだ。とはいえ、世話をするのも二人きりなのもまんざらでもないようすで、食事を持ってきてくれたり、わりと甲斐甲斐しかった。
 ベーケス2世は、じぶんがおっかなくないのか。
 ニュートは聞いてみたのだが、ベーケス2世は、「ニュートはニュートだろ」と呆れたように言うだけだった。
「俺はずっとずーっとニュートが小さいころから世話をしてきたんだぞ。怖いということはないぞ」
 ベーケス2世の言いぐさは、意図的に空白期間を無視していた。ベーケス2世がニュートの世話をしていたのはほんのさわりの部分だけのはずだ。とはいえ、なんだか魔物たちに避けられ、フランコールもいないしで寂しくなってきていたのでニュートは頷くにとどめた。しかし、ベーケス2世はある程度は強がりのようで、勢いあまって食事用ワゴンを壁に突っ込ませたとき、盛大にびくっとしていたのであった。
 天井からぱら、と石の欠片が降ってきた。壁がガラガラと崩れ落ちてくる……そんな光景を思い描いてニュートはすごく心配になった。生き埋めになったらどうしよう……。寝ている間に念力が暴発して、城を壊してしまったらどうしよう……
「落ち着け、ニュート。余計なことを考えたら余計にぶっ壊すぞ」
 心配になっているとベーケス2世がやってきて、あやすように抱き留めてくれるのだった。
……俺は平気だぞ。ちっとも怖くないからな。……ところでニュート。自分のほうが強いからといって、まさか、浮気したりしないよな? なあ?」
 な? とぐいぐい頬を挟まれ、別の方向から圧をかけられたニュートであった。

***

 この力をどのように使うべきだろう。
 ニュートはニュートなりに考えた。
 せっかく強くなったのだから、新魔界のような敵が攻めてきたときでも今度は一緒に戦える。ベーケス2世のこともきちんと守ってあげよう。その分、わがままを当然たくさんきいてもらうとして……
 この力をどのように使うか真剣に考えていたニュートだったが、そうしているうちに、疲れ果てて寝てしまった。
 そして、寝て起きたら、鋭い念力はうそみたいになくなってしまっていた。
「慣れない力を振り回すからそうなるんだぞ、ニュート。……これは俺の推測なんだが、あれは十五年分だったんじゃないか」
 無種族でも貯蔵することになるのだなあ、とベーケス2世はしたり顔で頷いている。すっかりアドバンテージを失くしたニュートは、なだめられるように侍らされ、吸血鬼の膝に転がされている。あまり寝心地は良くない。
「まあ、俺はどうせそういうことだと思ってたけどな、ははは!」
 弱くても見捨てたりしないか。がっかりしたりしないのか。ベーケス2世だって、本当は強い吸血鬼と結婚したいんじゃないのか……。ニュートが弱気になって聞いてみると、「ニュートは昔から弱っちかったし、別に、たいして……」という返事だった。
「魔界の石炭を増やすのに念力の強さは関係ないだろ? まあ、しばらくは、ハッタリでもかましときゃいいさ。新しい魔界王サマは、ホンキで怒るとおっかないってな」
 そのしばらくは長いことは続かなかったが、思い返してみると、十五年を飴玉に固めたような、それなりに幸せな平和だった。