頻子
2023-03-06 21:28:11
2784文字
Public KODR二次
 

吸血鬼のマント(KODR)

ベケニュ
*付き合ってそうだが糖度はそんなにない
友情出演:マーメルン

「今日はいい天気だよなぁ」
 うそというのは本当じゃないということだ。
 ぽつっと落っこちてきた水滴に、ニュートはブランコを漕ぐのをやめた。
 誰が悪いかというとたぶん誰も悪くはなくて、ただひたすらにお天気が悪い。
 ベーケス2世は虚像である。怪訝そうな顔をして念力でブランコを押すが、ぱらぱらとしだいに強くなった雨足に、ニュートが答えずとも察したようだ。ほんの一瞬だけひどく傷ついたような顔をしたような気がする。
……。戻ろうか!」
 ニュートは今日はそっちはいい天気なのかと尋ねてみたけれど、ベーケス2世はそれについては返事をしなかった。
 不機嫌そうに空を見上げるベーケス2世。ニュートは、この吸血鬼はほんとにじとじとしたのが嫌いなのだなあと思った。
 かたつむりみたいな生態のくせして。
 見えてないところでは、もしかしたらニンジンとか、葉っぱしか食べないかもしれない。なんたってうそつきだ。

***

「ちょっと、なによそれ?」
 ばさーっと両手を広げ、ニュートはマーメルンに新しいマントをアピールする。
「見せびらかせって言ったんじゃないっ! なによなによっ、別にぜんぜん、立派に見えないんだからね!」
 ニュートも、魔界にやってきてしばらく経った。だんだんとマーメルンの扱いがわかってきた。マーメルンはいつもニュートを喰ってやる、というけれど、水から這い上がってくることはないから、ある程度距離を取っていたら大丈夫……そう思って油断してたら足を滑らせて水に落っこちたことがある。しかし、ニュートは膝を擦りむいただけですんだ。どころか岸べに押し出され事なきを得た。
「あんときは! たまたま腹がすいてなかったのっ! たまたま! ……で、なによそれ?」
 吸血鬼のマントだ。
 これは、人間界に帰る吸血鬼からもらったものだ。
 最近のニュートのお気に入りである。
 どうしても人間界に帰りたいと言い出した吸血鬼がいたのだ。「じゃあ、帰っていいからなにかちょうだい」とお願いしたら、これを脱いでいったのだった。
 チョコレートか何かくれればいいかなと思っていたのだが、うっかり身ぐるみをはいでしまった。
 一族に顔向けができないというので、ほとんど夜逃げといった風だった。
 あの吸血鬼は上手くやっているだろうか……
 このマント、触り心地もなかなか良い感じである。
 いる?
 じーっと見ていたマーメルンに、ニュートは裏地を見せつけた。
「いらないいらないっ! 水の中でマントなんて、着れるわけないでしょ! ちょっとは考えろカスニュートっ!」
 ニュートは良い感じの岩に登ってはジャンプ、登ってはジャンプを繰り返していた。
 ベーケス2世はマントでは飛ばないとは言っていたが、さてどうだろうか。さいきんわかってきたけど、ベーケス2世はうそつきだから、何事も自分で確かめてみるべきである。もしかすると飛べるかもしれない。そうしたらわざわざ吸血鬼にならなくても空を飛べるかもしれない。そうしたら、人間界まで飛んでいって、ベーケス2世を連れて帰ってこよう……
 だいぶムリなことを夢想していると、ちょうど、頭の上の高いところを、箒に乗った魔女がぴゅっと滑って行った。
 自分も魔女一族だ。血は引いてないけれども……
「はんっ、そんなんで飛べるわけないっての! ……ケガしたら喰ってやるからねっ」
 マーメルンはそう言っているが、さっき、なんだか風を捕まえてちょっと高く飛べた気がする。もうちょっと高いところから飛んだら、もしかすると、もしかするかもしれない。
「ちょっ、さすがにあぶな……
 思えば結構な高さだった気がするが、ちゃんとふわーっと浮き上がった。
 やっぱり、吸血鬼の秘密はマントにあったのだ。
 ベーケス2世は嘘つきのかたまりじゃないか……
「おっ、ニュート。どうしたんだ? 上手じゃないか。ニュートには吸血鬼の才能があるのかもな。天才!」
 ニュートが失礼なことを考えていると、ちょうど本人がやってきた。同じ目線でふわふわ空を飛んでいる。
「で、ニュート。そんなことは一切なくて俺が浮かせてやってるわけだが」
 ……
 ベーケス2世はにいっと人差し指を立てている。
「降りてきなさいよーっ!」
 足元ではマーメルンがばしゃばしゃしていた。
 降りたいです。
 ニュートは言ったが、ベーケス2世は顎に手を当てて、すうっと目を細め、何やら考える仕草をした。わざわざ空中でしなくてもいいくらいに、わざとらしい仕草だ。
「ニュート、お前、俺の言ったこと信じてなかったろ。ふん。まあ、それはいいけどな……
 振り子時計のごとく左右にぷらぷら揺らされてしまう。マーメルンが湖を潜ったり顔を出したりしている。
「ニュート、それ、誰のマントなんだ? 吸血鬼のっぽいが、誰からもらった? 今正直に言ったほうがいいんじゃないか? ニュート」
 よくわからないが、なんだかやたら圧がある。
 うーん……
……別に言ってもいいけれど、一応、帰っていいよと言ったのは自分だ。
 ニュートが黙っていると、またちょっと吊り上がった。
 さすがにこの高さからたたきつけられたら無事ではすまない。
 でも、ニュートはちっとも怖くなかった。ベーケス2世は、絶対にニュートを落とさないに違いない。残念ながらニュートは覚えていないが、小さい頃も、一度だってそんな意地悪されたことはないはずだ。マーメルンがニュートをペロッと平らげたりしないように。もしもベーケス2世にその気があれば、ニュートはいつでもぺしゃんこになっていたはずなのだ。ニュートを引っ張る力がなくなって、地面に激突する前にゆるーくなる。やっぱりちゃんと着地させられる。
……はあ……

「なーんだなんだ、追いはぎしたのか!」
 ニュートがマントを手に入れた経緯を話すと、ベーケス2世はすぐに機嫌を直した。
 追いはぎじゃない。人を山賊みたいに言わないでほしい。
「いや、ならいいんだ。ほら、ほかの吸血鬼から上着とか借りたりして、ニュートが迷惑かけてたら……俺もそいつに礼をしないとならないだろ? 俺、ニュートの婚約者だし! 次期吸血鬼の長だからな。やられたことは、ぜったいに忘れないのが吸血鬼一族だ」
「迷惑! 迷惑!」とマーメルンがばしゃばしゃ水をかけている。「今迷惑だってのー! きいーー!」
 ベーケス2世はニュートのマントを勝手に広げて、水しぶきを勝手に防いでいる。ニュートはマントをぐしょぬれにされた。
「まあまあまあ。そーんなにマントが欲しいなら、俺からおそろいのを贈ってやるぞ!」
 それはうれしいけれど、1世とお揃いになるのはいやだ。
 ニュートが言うと、ベーケス2世は黙った。