頻子
2023-02-13 20:33:59
2716文字
Public KODR二次
 

お預かり期限(KODR)

ニュートからバレンタインチョコレートもらったはいいものの、持って帰れてないベーケス2世
ベーケス2世→ニュートみがある(たぶん)

・時系列がきわどい
(本編中、ハロウィンの半年前だと、再建後じゃないとバレンタインデーが来ない気がするが、
再建後にしては悠長であるし、フランコールを失恋文脈に混ぜたくない……)
ウィンチおねえさん!! 助けてくれ!!
・本気出せば持って帰れてるんじゃないか?
(宝箱に入れて、にやにやしてるから……)

 魔界にぽっかりと浮かぶ城の、そのキッチン。魔物たちのための夕餉の片づけを終えつつあり、小休憩のムードが漂っていた。
 皿洗いを終えたゴブリンが、シンクから手を引き上げる。ぷるぷるとねじれた指先を振って水を切り、乾いた布のきれで手をふくと、隅に積みあがった骨のかごから、いくらかをそそくさと持ち去っていく。調理の際に出る骨にはそぎ落としきれなかった肉がついていて、おおむねは煮込み料理に使われることもあったが、持ち去ることを許されていた。ぜいたくのカスを舐めるのは、城勤めのゴブリンに許された特権の一つだ。人間界暮らしの魔界王がやってきてから、求められる調理は繊細になったが、代わりに彼らの取り分は増えた。次期魔界王といったら、ミノタウロスの目玉をくりぬき損ねただけで、「怖くて食べられない」とのたまい、手を付けないなんてことも一度や二度ではなく……
 これから夜がやってくる。
 眠らない魔物たち、また、夜を昼とする魔物たちのために城の明かりが落ちることはない。宵闇の中にランタンの炎は濃く光る。
 厨房の扉が開き、ゴブリンが高く積み上げた荷が崩れ落ちそうになった。すれ違ったフランコールはひじで扉を押さえながら、片手間に難なく支えてみせた。フランコールは気まずそうにそそくさと逃げるゴブリンの慌てようにも気が付かない。空になった食器を前に、うきうきと浮かれていたのである。
(ニュート様も、すっかりちゃんと食べるようになってくださって、良かったわあ!)
 ニュートは、こっちに来てからというもの、魔界の食事に慣れず泣き言を言ってばかりだった。
 あれは食べられないだとか、これは斑点が怖いとか、生きているものはムリだとか、ニュートの好みは難しかったが、さいきんは少しずつ少しずつ、食べられるものがわかってきた。それに、努力の甲斐あって、食べられるものが増えてきたのだ。デビイやゾービナスのアシストのおかげだ。
 これから忙しくなるのであるから、食事はしっかりとってほしい。お世話係としての望みだ。
 と、そのとき……
 ひとりでに、木製の冷蔵庫の戸が開いた。
 つまみ食いかしら。フランコールはそちらを見ないようにしながら、じっと様子をうかがった。時折こうやって不埒者が出る。幽霊か亡霊か……ここ魔界であれば犯人候補もいくらでもあげられようものである。
 しかし、冷蔵庫からは何も飛び出す気配がない。逆に、である。逆に、銀色の紙にくるまれた包みがどこからかふわふわ飛んできた。
(あら?)
 そうして見ていると、もとから冷蔵庫に入っていたものがぽいぽいと飛び出していき、空中に制止する。
 飛んできた包みは、タテ、ヨコ、タテ、と向きを変え、目測を図るような動きをしたあと、すすす……と奥に滑り込んでいった。それからきわめて几帳面に、何事もなかったかのようにもともと入っていた果物やらが、元通りに詰め込まれていった。鮮やかな犯行だった。
「何をやってらっしゃるんですの?」
……別に?」
 やたらこそこそしていた影は、まぶしそうに顔をしかめた。退屈そうな顔をした、ベーケス2世だ。
 ベーケス2世が指を振ると、冷蔵庫の戸はぱたんと閉まった。
「お城の冷蔵庫を使うのはいいですけれども、一言断ってくださいな。勝手にものが増えているなんて、びっくりしてしまいますわ。毒殺でもされたらと警戒してしまいますもの」
「俺の私物だから、気にしなくていい」
「そうですか」
 ちょっと何か考えていたらしいベーケス2世が、また早口に口を開いた。
「フランコール、きみに……きみに頼みがある。何も言わずにあの包みを預かってくれ。俺にとってとてもダイジなものなんだ。何とは聞くな。ニュートを裏切るようなもんではないから。個人的な。そう、個人的なものなんだ……
……
 あれが何かは分かりきっている。
 チョコレートだ。
 人間界でいうところの、バレンタインという催しがあるそうなのだ。好きな人にチョコレートを贈るのだとか、なんだとか……。いつも再建を手伝ってくれるみんなにお礼を、ということで、ニュートはせっせとチョコレートを作っていた。フランコールも手伝ったのでよく知っている。……フランケンはチョコレートが好きだろうか……
 それで、この吸血鬼は、にっこり笑顔で、「おうニュート、すっごくすっごくおいしかった! ありがとな!」とか言っていたはずだ。「今までで食べたチョコレートの中で一番おいしかったぞー!」とかも言っていたのだった。
 しかし、ベーケス2世がチョコレートを食べられるわけもなかった。今の彼は実体ではないのだ。
「持って帰ろうと努力はしたんだ。父上の目を盗んで、なんとか……
「不自由な身の上ですわね」
……俺がこっちに戻ってきたら食べるから、それまで保管しておくように」
 それはいったいいつになるのだろう。今日明日明後日ではないのはたしかだ。
「おなかを壊しますわよ」
「ニュートに嘘をつきたくないんだ」
 あとからつじつまを合わせればよいというものではない。
 しかし、指摘するのはやっぱり酷だろうか。食べたくっても食べられないのだ。
「来年、新しいのをもらえばよいのではなくて。事情を話せばニュート様だってわかってくださると思いますよ。きっと……
「事情……事情か……
……
「気が付くだろ! 普通! こんだけ一緒にいたら……! 俺が虚像だって分かるだろう。 これだけ一緒にいるのにっ! チョコレートなんてくれるくせして、思わせぶりなくせして、ニュートは俺に興味が……興味が……
「貰えただけいいじゃありませんか」
 何やら最近ケンカ(?)したらしく、チョコレートを貰うまで、ニュートに嫌われたとか、俺だけ貰えないとか、ずーっとブツブツ言っていたのだ。貰えたら貰えたでこれである。
 ベーケス2世は咳払いをした。
「よいか、この中身を損ねることは許されない」
「はあ」
「これがなにかを問うのも禁じる」
……承知いたしました」
 フランコールはそれ以上追求せず、慎ましく引き下がることにした。
(でも。そうねぇ……ずっととっておけるものかしら?)
 たぶんそうもいかないだろう……。この魔界に、安全な場所などはない。あっという間に見つかって、食べられてしまうのではないだろうか。
 もしもベーケス2世がニュートに事情を打ち明けられる日が来たら。そしてベーケス2世が魔界にやってくることがあれば、改めてプレゼントすることを提案してみようか……
 フランコールはそんなことを思ったのだった。