頻子
2022-12-29 18:34:20
2936文字
Public KODR二次
 

金色ガチョウさん(KODR)

ベーケス2世×ニュート(結婚エンド)
*ベーケス2世呼び
*ゾービナスもみんなもいるハッピー時空だよ(マーメルンとジャンタンは帰った)

元ネタ:グリム童話『金のガチョウ』

「まあ……?」
 呼び出しを受け、王座の間に入ってきたフランコールは思わず目を丸くした。
 それもそのはずだ。
 何度見ても、王座には光り輝くガチョウが座っている。
 正確には、光り輝く金色のガチョウが、ニュートのひざのうえで羽を休めていた。そして、そのニュートを抱え、ベーケス2世は憮然と王座の肘置きに寄り掛かっていたのだった。
「いったいどうされましたの?」
 とれなくなっちゃった……
 ニュートがガチョウを持ち上げると、その場にとどまろうと伸びたガチョウの足がぐぐっと伸び、水かきのついた足で頬を押しのけた。
「まあ、わけがあってな……
 ベーケス2世は咳払いすると、ニュートの足りない説明を補い始める。

 ニュートが湖のそばを散歩していると、切り株の上に、光り輝く金のガチョウがどっしりと座っていたのだった。
 なんとも珍しいガチョウだと思って、ニュートが張り切って持ち上げると、なんとまあ、羽に手がくっついてしまったのだという。
 びっくりしたニュートはベーケス2世のもとに駆け込んできて、それを引きはがそうとしたベーケス2世もまた羽の魔力にとらわれてしまった、ということらしい。

「盗難防止かなんか知らないがな、こいつの羽に触ると手がくっついて離れなくなるらしい」
「そうなんですか……
 ガチョウを手放すのをあきらめたニュートが、そっと膝にガチョウを戻す。ほんとうにくっついているらしい。
 膝の上に置かれたガチョウはとたんにおとなしくなり、魔界の最高権力者をゆうゆうと尻に敷き、くちばしを羽の間につっこんで、くいくいひっぱって羽を繕っている。
「ニュートはまっさきに俺にガチョウを見せてくれようとしたんだ。珍しいガチョウだったから……最近、構えてやれてなかったから……
……
 ちょっと嬉しそうな声色に聞こえるのは気のせいだろうか。フランコールは頬に手をやる。
「で、こいつはくっついたやつに触ってもくっつくようでな、このとおり……。おかげでこのありさまだ」
 ベーケス2世がため息をついて、ニュートをそっと抱きしめた。
……そうですか」
「違う! わざとじゃない! わざとじゃないからな。知らなかったんだ。二次被害が起こるってのは……。頭の輪っかを見るに、どうやら、天界から迷い込んだらしいが……
 そう言って、大げさにため息を吐いた。
「そうですね。なんとかしないと困りますわよねぇ……
「それは別にいい。後回しでいい。このままでも仕事はできるからな」
「え?」
 え? と、フランコールと一緒にニュートも声を上げる。
「まあ、特に深刻に困っているわけじゃないから、今日が終わるくらいまではこのままでいい」
 ひとりでに動くペンが、器用に書類にサインする。
……半年ものあいだ、念力ですごしてきただけある。
 困るからなんとかしてほしい。
 ニュートが泣きそうな声を上げる。
……。午後くらいにはなんとかしろ」
「ええと、かしこまりました。天界に使いをやりますわね」
「あとからでいいからな。きみだって忙しいだろうし……

 ぱたんと扉が閉まって、フランコールが出て行った。
 さっきから、どうにも他人事というか、いまいち真剣さがない。
 絵面としては間抜けなのはわかるが、伴侶なんだから、もっとちゃんと一緒に困ってほしい。ニュートはほんとに困っているのだ。
 ベーケス2世はたぶんそ知らぬ顔でニュートを抱き寄せ、頬をぺとぺとくっつけてくる。
……トイレに行きたくなったらどうするのか。
「なんだ? そんなことが心配なのか? 連れて行ってやるから大丈夫だぞ! 幼いお前の世話をしてきたのは俺だし、俺の気持ちはちっとも変わってないんだぞ……
 それはそれで問題がある。
 ベーケス2世はいまいち困っていない。
「ああそうだ。昔からお前は、何かあると俺に見せに来てくれて……
 グアッグアッとガチョウが同意するような声を上げる。
「でも、そうだな。ニュートは困ってるんだな。無事にこいつがとれたら、しめて、一緒に血を飲んでやろうか。ははは」
 急に物騒な方向にかじを切ったベーケス2世に、ニュートは慌てる。
 そこまでしなくていい、殺しちゃうのはかわいそうだ……
 きみもピンチだから、ちゃんとピンチみたいな顔をするといいよ。ニュートがガチョウをゆすぶると、ガチョウは相変わらず「?」という顔でぽけっとしている。
 光輪がまぶしい。
「やっぱり、魔界の生き物じゃないな。あったかいから……
 ベーケス2世がくっついているのはじぶんのほうであって。ガチョウではない。
 ニュートが指摘すると「……ニュートもあったかいな」とベーケス2世は言った。

***

(ゆっくりでいいとはおっしゃっていましたけれど、ニュート様がおかわいそうですわよね……
 あの様子だと、着替えだとか、用を足すにも一苦労しそうだ。
 お宅のなにがしかが迷子ですよ、と、天界に使者を送った帰り道、王座の間が何やらさわがしくなっていた。

「まあ……
 扉を開けて、フランコールは再度声を漏らした。王座の間は、家臣たちでぎゅうぎゅう詰めになっていたのだった。
「馬鹿犬! 触ったらくっつくっつったろうが!」
「いや、だからはがしてあげようと思って……
「離せ! お前とはくっつきたくないんだ、俺は!」
「やーっ! ニュートちゃまーっ!」
「だから、離れないんですって……。2世! 今僕をつったら2世も……わーっ!」
 ウルハムだけではない。
 いつのまにか家臣たちが数珠つなぎになっている。
「ニュートちゃま! ごめんなさいー! わたし、馬鹿だから、馬鹿だから、助けようとおもってぇ……
「お許しください! お許しください! ニュート様。その……。ああっ、一生の不
覚です! 申し訳ありません!」
「スケルナイト! 違うのよこれは! わざとじゃないの……これは……違うわ! 私そんなつもりじゃ!」
「死んで詫びます! ああっ、剣まで手が届かない! ああー!」
 こんがらがった家臣たちの中、ガチョウが悠々とあくびをしている。
「ね、ニュート。助けてほしい?」
 唯一、無事なデビイはにっこり笑って言うのだった。
 ラクになりたい……
 埋もれたニュートが涙声でなんかささやいている。
「ニュート! よせ。だめだ。やめておいたほうがいい。フランコール、きみがなんとかしろ……
「ええと、それは、いつまでに……
「いますぐなんとかしろ!」
「そうおっしゃいましても……
 とにかく、小さいニュートとゾービナスをつぶれないように引っ張り出した。

 すぐに天界からのお迎えがやってきて、金色のガチョウは薄い布にくるまれ、丁重に天に昇って行った。
 なんとか、食べられるのは回避したようである。
 ベーケス2世は表面的にはかなり腹を立てているようではあったが、お使いが持ってきた麦にガチョウが見向きもしなかったところを見ると、おそらくこっそりとご飯をもらっている。
 なんだかんだ言いながら、ベーケス2世はすっかりごまんえつだったらしい。