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頻子
2022-12-18 04:05:09
2771文字
Public
KODR二次
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ベーケス2世とスケルナイトが仲悪い奴(KODR)
過去あおられた分現在で煽り返しておくスケルナイト氏
スケルナイト視点
「姫様
……
」
窓からはうららかな日差しが差し込んでいた。レースのカーテンからは漏れる光は、姫様のあどけない頬の上に複雑な模様を作っている。
ここは、魔界の城。
次期魔界王として生まれた姫様は、多くのものたちに囲まれていた。魔物たちの中であってもそれは変わらない。
「お会いしたく思っていました」
姫様の瞳が、じっと、こちらを見返す。
――
姫様。
俺が愛した姫様が、そこにいらっしゃった。
俺を盾に逃げた、無力な姫様。
俺ではなくあいつを選んだ、愚かな姫様。
けれども、俺は、再び姫様に相まみえることができるなら姫様のすべてを許すつもりでいた。
自分こそが間違っていたと懺悔し、ただ、俺のもとに戻ってきてくれればよかった。
そうでなくたって、よくやってくれたと言ってくれたらよかった。あるいは、
――
俺が姫様のもとを離れたことをなじったとしても、よかった。それだってよかった。
ただ、この瞳をこちらに向けてくれればよかった。ただ、俺を見てくれればよかった。俺が望んだのは、それだけだ。それだけ
……
。
けれども、姫様は、無邪気に微笑むと、小さな手でぎゅっと俺の指を握った。
あどけない顔で。何もかも忘れた顔だ
――
。
息が詰まった。
手を差し伸べようとしたが、俺からは姫様に触れる勇気がなかった。姫様はあまりに華奢で柔らかく、つぶしてしまいそうだった。
それでも触れたい。
「はい、おしまい」
俺が勇気を出して姫様を抱き上げる前に、俺の後ろから伸びてきた手が俺から姫様を取り上げる。
「次期魔界王は人気者、だからな! 謁見の時間は限られてるんだ! とっとと散れ、とっとと。さあニュート、お昼寝の時間だぞ!
……
いやったって、お前、あとから泣くんだから
……
」
次期吸血鬼の長に表立って文句を言う魔物はいなかった。
姫様はいつでも愛される。愛を注がれる。
***
姫様が魔界に生まれ落ちたのは、それは、もちろん、天界にも冥界にも行けなかった自分と再会するためだ。俺が姫様をここに呼び寄せた。俺たちは再び出会う運命だった。
ベーケス2世が、ゆっくりと姫様を揺すっている。ベーケス2世は姫様に取り入ろうと送り込まれてきた吸血鬼だ。いつの間にか姫様の世話を担うことになっていた。姫様はおとなしかったが、ベーケス2世が下ろそうとすると嫌がってベーケス2世のタイを引っ張っている。ほんのりと疲れた顔をした吸血鬼は、はずみをつけてもう一度抱えなおす。
「ちと腕が疲れたよ、ニュート。そうだな。ニュートは俺が好きで仕方ないからな
……
俺がいないといけないんだよな、ニュート?」
俺は無意識のうちに持っていた木剣をへし折っていた。姫様は勢いよく泣き出した。俺は、俺の失態で姫様の機嫌を損ねたことに慌てる。吸血鬼は俺を睨むわけではなく、泣いている姫様をあやし始める。どこか上機嫌ですらあった。
「おお、そうだよなあ。姫じゃないもんな? ニュート。ニュートはニュートだもんなぁ
……
ったく、わけのわからんことを言うやつがいるもんだ
……
」
ベーケス2世は、腹立たしいことに俺が一度「姫様」と漏らしたのを覚えていた。どこからか
……
おそらくはウィンチからか、俺と姫様の真実を知った。許しがたいのは、それを姫様に対して偽ることだった。
ベーケス2世は大げさに耳を寄せて、姫様の言葉を偽った。そして、それを否定できるほど姫様は大人ではなかった。ほら、嵐だぞ、とカーテンを引くと、雨粒がぱらぱらと窓を打って、姫様はさっきまで泣きそうだったことも忘れて、きゃっきゃと無邪気に笑る。
「ニュート様
……
」
俺が今生での姫様の名前を呼ぶと、ニュート様は笑みをこちらに向けた。
姫様。
あの瞳が、こちらを見ている。
けれども、それでは足りなかった。
こちらを見てくれればよかっただけだなんて、そんなことはない。
本当は、俺は、姫様が欲しかった。
ふん、と鼻を鳴らし、勝ち誇った顔で、ベーケス2世が嗤った。
「ああ、そうそう。お前にも教えといてやるが、
……
俺、ニュートと婚約したんだ」
「は?」
低い声が出た。それでまた、上機嫌になりかけていたニュート様がふえ、ふえ、と息を漏らし始め、それから思い切り泣き始める。
「ニュートが大人になったら、俺は、ニュートを一族に迎え入れる。だから、お前はとっととあきらめるんだな」
ニュート様が「無種族」に生まれたのは、俺のためだ。俺が人間だから。釣り合いを取るように、人間に近いすがたで生まれたのだ。
魔物になるためではない。
けれども、それを姫様に伝える方法はないのだ。
「姫様
……
」
俺は、ひとり廊下に取り残される。
雷鳴が鳴る。
……
城の窓には俺の顔が映っていた。情けなく、野暮ったい顔。
たしかにそうだ。みっともない田舎者。
……
もしも、もしも俺があの男のような顔だったら
……
。
***
「はあ。そうですね
……
。ニュート様は魔界王を継がれるお方。難しいお立場ですから
……
」
15年が経った。
中庭でブランコに腰掛けたニュート様は、どうしたらいいんだろう、と、俺に漏らした。ベーケス2世からもらったという赤いバラの茎をくるくる指先でもてあそびながら、ふいっとため息をついた。
まさか、自分に婚約者が二人もいるなんて思わなかった。
ニュート様は俺にこぼす。
成長されたニュート様はやはり姫様であることは間違いなかったが、少しずつ俺の記憶の姫様とは違う。頬に手を当てて首をかしげる代わりに、少年のようにぷらぷらと足を動かしている。俺もまた、あの頃の俺ではない。
「
……
捨ておいてよろしいかと。断りづらいなら私から断って参りましょうか?」
それは、二人に悪い気がする
……
と、ニュート様は言った。ニュート様は以前の姫様とは違うが、優しく愚かであることに変わりはないのだ。
「それに、婚約のことなんて、幼いニュート様は覚えていらっしゃらないのでしょう? どうせデタラメですよ。ニュート様が幼いのをいいことに、ないものをあったと言い張っているのでしょう。魔物の言うことですから」
がさりと、茂みが風ではなく揺れる。
こんどは、ベーケス2世がこちらを睨む番だった。ニュート様はもちろん気が付いていない。ベーケス2世は、出てくることもできずにただぽつんと立っているしかない。
……
刺すような殺意だけを感じる。
俺は、それを鼻で笑う。
殺意ならかわせる。喰ってかかるような度胸もない。
「ニュート様には、純白の百合の方がお似合いですよ?」
ニュート様は、息をのんで頬を染める。今の俺は、きちんと姫様の騎士だ。こんどは、引き返すのはベーケス2世のほうだった。
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