頻子
2022-11-01 12:54:43
2640文字
Public KODR二次
 

魔界の風邪(KODR)

ベーケス2世×ニュート
恋人のやつ

「べっくし! べっくし!」
 ぴゅんぴゅん、と、ウルハムが妙なくしゃみをしているな……と思っていると、やつは真っ先に体調を崩した(ベーケス2世にとっては、どうでもいい)。
 続いてゾービナスが体調を崩した。どうやら、魔界で魔界風邪が流行り始めたらしい。
「ふうん」、くらいに思っていたが、ここで次期魔界王も風邪をひいたとなると、ちょっと話は違ってくる。
「ううー、きっと、お食事の時ですわー……
 ゾービナスは片手でティッシュを探すそぶりを見せたが、本人はそれよりもノートをめくって記憶を掘り起こすのに熱心だった。ゾンビであるゾービナスは、ニュートとの思い出をノートに預けている。ウルハムの腕が伸びてきてティッシュを豪快につかみ、それから、ゾービナスに分けてやっていた。
「そう。あの時! デザートはたしか魔界イチゴのタルトでぇー…………ニュートちゃまのとなりに座ってね、わたし、あーんってやったんですの。あのときにうつしちゃったかしらぁ……ニュートちゃま、ごめんなさい……
「気にすることないよ、ゾービナス……たぶん僕からなんだ」
 ウルハムもずびと鼻をかんでいる。
「ニュート様の風邪、きっと僕のせいなんだよね。ほら、僕、先週呼び出されたじゃない。 あれから、ちょっといつもより鼻がきかなくてさ……。気を付けてたんだけどな。先週にお茶したとき、そのときニュート様のほっぺにお菓子のかけらがついてて。あ、でも、そのあと一緒にお昼寝したときかなあ……
 ベーケス2世から圧を感じたのか、ウルハムは慌てて縮こまった。
……あっ、違う、違うんです、2世。いや、なにも違わないんですけど……あの」
「もっと反省しやがれですわ!」
「いてっ」
 ゾービナスが盛大にウルハムの後頭部をひっぱたく。
 ベーケス2世はもっとやれと思った。勢いよくやれ。
「ああ。ちゃんと治ったらニュート様を看病しにいけるのになあ。2世はいいよね、そのー……元気で」
「死ね」

 当然のことながら、虚像のベーケス2世は無傷である。
 風邪なんて望んで引きたいものではないが、ゾービナスとウルハムが、この症状は喉に来るタイプで、ニュートの言ってるのとおんなじじゃないか、だとか、きっとあのときに、だとかを話しているのがうらやましくはないわけじゃなかった。
 さらに、ジャンタンまでもが魔界風邪にかかったと聞いてますます納得がいかない。ニュートが引っ付きまわっていたじゅんばんに家臣が風邪を引いている気がしてならない。
「あ、そんなことはないよ?」
 不意に声をかけられ、立ちすくんだ。……このニュートの幼なじみは、別としても……
(俺が、いちばん一緒にいるのに……
 婚約者なのに! 恋人同士なのに、じぶんはなんともないのだった。

「げほっ……
 ウィンチですらも体調が悪そうで、ベーケス2世は眉間にしわを寄せた。
「ちょっと、違うわ。これはあいつからじゃない!」
 喚くウィンチから薬を受け取り、風邪を引いた家臣に配り歩いている。軽い風邪だったものだから、無種族で体力がないニュート以外はほぼ復活傾向にある。
「あ、これはニュートのぶんよ。トクベツにね。よろしくね?」
「わかった」
 と、言っておいてウルハムにやった。
 まあ、死ぬことはないだろうし、ウルハムならまずいと思ったら自分で何とかするだろう。ウルハムは薬をかいで、舌に乗せるととても、死ぬほど、苦そうな顔をしていた。
 スケルナイトは、相も変わらず見張り塔に立っている。体調を崩した臣下の穴を埋めるため、自ら仕事を増やしていた。
「お前はぴんぴんしてるみたいだな?」
「体調管理は忠臣のつとめですが?」
 感心するべきなのかもしれないが、スケルナイトが相手だとどうにもそういう気持ちはわいてこない。何をしていても神経に触ることこの上ないのだ。どうせニュートは寝込んでいるし、虚無に投げ込まれ続ける異様な献身を知ることはないだろう。
 元気そうである。
 いつもなら腹立たしいことこの上ないが、今回ばかりは、こいつが元気そうなのに少し胸がすいた。ニュートとたいした仲ではない。とっとと花でも見繕ってニュートの見舞いに行こう、と考えたときだった。
「げほっ……
……!」
…………。何か?」
 こいつですら、風邪を……

***

「ニュート、お見舞いに来たぞ!」
 見舞いにやってきたがニュートは花を喜んでくれるような体調でもなく、ぽけーっと宙を見つめている。少し気の毒になってきた。
 額に手をやってみたがとりたてて熱くも冷たくもない。
「ちょっとどいてくださいな。あら、ニュート様。起きたんですの、良かったですわね。お見舞いですって。ねぇ」
 フランコールがせっせと額にのっけた氷をとりかえている。
「きみは、一番ニュートの近くにいるんじゃないのか」
「そうですけれど」
「具合は悪くないのか?」
「ええ。博士が丈夫に作ってくださいましたから」
 ニュート様のそばにいてやってくださいなと椅子を用意して、フランコールは自分は忙しく動き回っている。同じ働き者でも、フランコールには腹が立たない。
「なんだか難しい顔をしてらっしゃるわ」
……。きみは風邪を引かなくていいのか?」
 フランコールはまじまじとベーケス2世を見た。
「もしかして、あなた、それですねてらっしゃるの?」
「すねてない」
「べつに、悪いことばかりじゃありませんわよ。元気ですと、こうやってニュート様をお世話できますし。それにあなた、風邪をひいたら一番長く寝込むのではなくて」
……ニュートは」
「大丈夫ですわよ。ジャンタンもこのくらいのお熱は出します」
 ニュートが怒ったような声でベーケス2世を呼んだ。
「おっと」
 べつに感覚はないのだが、くっついていないと抗議する。目を開けないとわからないくせに、離したら怒るのだ。はいはい、と意味もなくぺったりくっついていると寝る。おかあさん、と言われて眉間のしわはますます深くなった。
 熱が高いようで、ときおり、ニュートはうわごとを言っている。
「もっと歌って、って、俺はお前の母親じゃ……。ん!?……ニュート! 俺のことを……!」
 問い詰めようにも、すやすや寝てしまっていた。あとから聞いても覚えていないと言われてしまった。でも、ベーケス2世がずっといてくれたことは覚えていたそうである。