頻子
2022-08-28 19:50:58
2984文字
Public TOH二次
 

当たりくじ外れくじ

ほのぼのしたやつ

「それじゃ~、勝負っ!」
 あたりは7つ。赤い印のついた、はずれくじが3つ。HANOIたちはああだこうだと話し合う。それでも決まらなかったときは、くじで決めるということになっている。
「みんな~、どっちから引きたい? 僕はどっちでもいいけどね!」
「覚悟を決めるっスよ……、ああやっぱり待って! もうちょっとキアイを」
「悩んだって仕方ないわよ! 勢いよ」

 監察官のコーラル・ブラウンはにこにことそれを見守っている。
 コーラル・ブラウンはこの当たり前の光景が好きだ。誰かに損を押しつけまいとする優しさが、とても好きだった。他の本部だったら、たぶんこう上手くはいかないはずだ。
 だからいつも思う。みんなの監察官で、よかったなあ~! と。

***

 食事当番と掃除当番。それから、水槽の餌やり係。
 コーラル・ブラウンは、102本部の当番表をながめるのが好きだったりする。
 食堂のホワイトボードにはそれぞれのHANOIの色の磁石が割り当たっていて、基本的には順繰りに回しているらしい。
 当番表は最初は線と文字だけのシンプルなものだったけれど、いつしか、クレヨンやメリーティカ、ノロイがやったと思われる装飾がされていた。重くなってきたホワイトボードがはがれないように絶妙な位置にくっついているギラギラした透明なピンは、たぶん、キャメロンのものだろう。
 食事当番のジョルジュのところに、よほど楽しみなのか旗が立っている。この圧と線の太さはローランドだろうか?
 こうやって見ていると、コーラルはしみじみと思うのだった。
 みんなの担当でよかったなあ、と……
(でも、うーん、どうしようなあ……
 なるべく公平に。
 TOWERの編成もなるたけ公平に、みんなの邪魔にならないように……となるように気を付けているのだけれど。攻略上、誰かの手を借りたいときにはローテーションを崩してしまう時がある。そんなときは矢印(⇔)だとか、マーカーの出番が来るのだった。
 これが申し訳ない。
 けれども今日、監察官が悩んでいるのは誰を連れていくか……ではあるのだけれど、誰を連れていかないかということだった。

「やあ監察官! どうしたの?」
 アダムスがひょっこりと顔をのぞかせる。
「やあ、アダムス! なんでもないよ」
「いや、あるよ!」
「え?」
 アダムスの目が細められてまじまじとコーラルを見た。猫のように瞳孔が揺れて、それからアダムスはにんまりと笑った。
「やっぱりね。なんかあるって顔だね! 次期HANOI教の教祖の目はごまかせないよ」
「あ、今。かまかけたね? ……開祖じゃなかったっけ?」
「じゃ、元祖! 元祖! HANOI教……どう?」
「うーん」
『元祖! HANOI教』のぼりを想像して、コーラルはへらりと笑った。
「あー、うん、でもねぇ……どっちかというと仕事のお話だからなあ」
「そうかい? まあ、話すだけでもラクになったり、考えがまとまるってこともあると思うし。役に立てるか言ってごらんよ。今だけタダで聞いてあげるからさ!」
「ええとね、うーん、そうかも?」
 コーラルはアダムスに押し負けた。こういうときアダムスはものすごく強引で、とても頼もしい。
 監察官がポケットからとりだしたのは、小さなSDカードだった。
「へぇ~! それはなんだい?」
「これね、経験値SDっていって、みんなが強くなるデータが入ってるみたいなんだ」
「いいねえ。便利アイテムじゃないか」
「でもね、パーティーにいるHANOIには効果がないみたいなんだ」
「ええっ! つまり君は選別するわけだ!」
「強くなったら、ケガが減るだろうし、みんなも、出来ることが増えて嬉しいでしょ?
……でも、みんなデータ上では同じくらいの強さだし、誰かを選ぶっていうのがどうしてもねー……
「なんだ、そんなんで悩んでたのかい! おーい、みんなー!」
 アダムスの呼びかけで、なんだなんだとHANOIたちが集まってきた。

「え、何? レベルアップ? なによ、お得感あっていいわね! 体力も付くかしら?」
「パワーアップアイテムってやつね☆ すっごく魔法少女みたいじゃない?」
「うむ。ラクをして結果を得るのは良いことなのだぞ。要領が良い、というのだぞ」
「こ、これを使えばたくさんお役に立てるっスか!? もっと……がんばるっス!」
「お、俺にいただけるのであれば活躍をお約束します!!!! いやしかし、安全にというのはな……。ここは、仲間を優先するべきか……? ……司令官殿! どうあろうとも、俺に異存はありません!!」
 クレヨンはぴょんぴょん跳ねているせいで何を言っているのか読めない。
「クレヨン、着席」
 ナナシにいわれてしゃがみ、ようやく文字が読めるようになった。
『つよくなるして おてつだい したい! でもたりない? ならがまんできる』
「ああ。なんだよ? がまんって。宝の持ち腐れでしょ。……いいって。俺はいいですよ」
「うう……
「Monsieurブラウン……全ての料理を一枚の皿に載せることは出来ないというわけだな。選ばなくてはならない……構わない。
配膳を、悩む時間にこそ価値があるのだ」
 これ、どういう仕組みなんだろう、とコーラルはちょっぴり考える。勝手に強くなるのって結構怖いんじゃないかな……と思っていたがそこはHANOIたち、とくだん抵抗はないらしかった(バーチャルだからというのもあるかもしれないが)。
 HANOIのみんなは、思ったより乗り気のようだ。
「うーん……それじゃあ、くじでどうかな? あたりが7本、外れが3本で……
 やっぱり使わないのはもったいないし、それで防げた事態があったらもったいなさすぎる。コーラルは意を決っして言ってみた。
「わたしはいいかな……
「あれ?」
 メリーティカは髪の毛の先をくるくる丸めながら言った。
「遠慮してるのかい、メリーティカ。いいんだよ?」
「うーん、そういうわけじゃないけど……
「いいじゃないですか? じゃあティカと俺と……ジョルジュでどうすか、入れて下さい。それで、あとのみんなでヨロシクってことで」
「ナナシ、いいのか……!?」
「ええ。構いません」
 それで、平和に決まりかけたころ――
「待て。それでラクをしたら、つよくなったぶん監察官が構ってくれなくなるのではないか?」
「え?」
 ノロイが言った言葉で、事態は再度硬直した。
……!』
 クレヨンがぽろっとスケッチブックをおっことす。
「ええ。それはも、盲点だったっス! なんたる罠アイテム……!」
「あーあー……せっかく黙ってたのになぁ」
「あ、メリーティカ、それで!?」
「ばか」
 メリーティカはうつむいて監察官の袖を引っ張った。
「いやあ~。まさか監察官ならカップヌードルみたいなお手軽さで強くなったからって僕たちを放っておくなんて薄情なことしないよ! そうだよね?」
「し、しないよ」
「あやしいのだ……ノロイは連れていってもらうのだ」

 結局、くじで決めることになった。
……ラクして強くならない権利。監察官に平等に、たくさん構ってくれる権利。
 赤い印のついた、当たりくじが3つと、外れくじが7つ。