頻子
2022-06-18 17:56:56
2949文字
Public KODR二次
 

おなかいっぱい!(KODR)

ほのぼのベケニュ!
あんまり表情にでなくなったけどでなくなっただけでベーケス2世のコトが好きなニュート
結婚後のベーケス2世なんて呼べばいいんだ

「ニュート、もういいのか? 腹がすかないか?」
 食卓の向かいに座ったニュートはにっこりと笑って、半分以上は残った血のスープを横に押しやった。もうお腹がいっぱいだ。じぶんはベーケス2世が食べているところを見ているから、と、どこかで聞いたようなことを言った。
……そうか」
 ベーケス2世は無理矢理にスープを喉に流し込んだ。
 さして食欲はわかない。けれども、ニュートが見ている手前、食事の手本を見せてやらないとならないと思ったのだ。
 ニュートはあまり食事をとらなかった。
 ベーケス2世と結婚し、吸血鬼になってからというもの、ニュートはすっかり大人しくなってしまった。無種族であったときはあれだけ元気だったのに、比べれば、生気を失ったようにも思える。
 もう、あちらから露骨にくっついてくることもない。目を見つめてもそっと視線を逸らされるのだ。
 いや、もしかしたら、もともとそんなものだったのかもしれないけれど、人間だったニュートとベーケス2世は実体でふれあう機会はほぼなかった。
 魔物になったから、人の心を失ってしまったのだろうか?
 いずれにせよ、確かめる機会はもうなかった。

 寝室に戻ると、むくっと起きたニュートが後ろをうろうろしていた。ベーケス2世が手を差し出すと、ニュートは身を守るようにきゅっと目を閉じる。触れてやりたいな、という密かな勇気は急速にしぼんでいった。でも触りたい。そろそろと頭に手のひらを差し入れてやって、頭に沿って撫でる。大きくなった今となってはずいぶんと勝手は違うが、これは昔やったことだ。でも、嫌がられてはいないだろうか。これ以上拒否されるとちょっとしんどい。顔をのぞき込もうとしたが、不意に、「うそつき」、とつぶやかれた声がぐさっと胸を刺した。

 吸血鬼になったことを後悔しているのか。
 いや、それとも自分との結婚を――
 真意を問いただすことはできない。ニュートはもう布団をかぶって寝てしまった。

***

「魔界王ご夫婦はラブラブでうらやましいですわー!」
 フランコールからの言葉を飲み込むのに、ベーケス2世は若干の時間を要した。
……そう見えるのか?」
「あらー! とぼけちゃって! 朝、髪を梳かして差し上げるときに、ニュート様が毎日お話ししてくださるんですのよ。毎日実体のあなた一緒にいれてウレシイ……ですって!」
 ?
 ……思っていたのと違う。
 慎重なベーケス2世のことである。フランコールが気を遣ってお世辞でも言ってるんじゃないか、と思わないでもなかったが、フランコールだ。彼女はウソをつくような人物ではないのだ。
「ニュートは……俺のことなんて言ってるんだ?」
「ええ。それはもう、実体があるあなたといられて、毎日たくさんウレシイって言ってますわ。……なかなかオヤスミのキスをしてくれないらしいから、寝た後にこっそりしてるんですってー! もうっ! ニュート様ったら!」
 ベーケス2世は思わず頬を押さえた。
 右の頬なのか左の頬なのか。それとも、……唇だったりするのか。というか、自分は悩んでいた割にぐっすり寝過ぎだったんじゃないか。全く気がつかなかったのだ。
「ニュート様はねえ、一緒にお風呂に入ったあと、あなたが『風邪を引くぞ』って言って、自分の方から拭いてくれるのがことさらにウレシイって言ってましたわ。じぶんも前髪から水がぽたぽたしてるのにって。もう、……耳に毒ですわね」
「そりゃあ、……別に自慢になることじゃあないだろ? 昔だって……
「無自覚でして?」
 フランコールにそのような話をさせてしまうことに少々の罪悪感を抱きはじめたが、ちょっと気分が上向いてきた。
「でもっ、さいきんあいつ、笑ってないような気が……
「ああ、吸血鬼になってから、血色が分かりづらくなりましたものね。吸血鬼の流儀にのっとって、厳粛に、おしとやかになろうと努力しているそうですのよ。ふふふ。よおく見るとお耳の先が赤いんですのよ!」
 そうだったのか。
 顔を見るとそっと目をそらされるのがつらくて、こちらもなかなか見れずにいたのだ。こんどガン見しよう、あとオヤスミのキスもしてみよう。
「さいきん、飯をろくに食べてないみたいで……
「それはさあ、なんでかしら?」

***

 もしかしたらニュートに嫌われているのかも、というのは自分の勘違いで、途方もなく愛されているというやつなのではないか?
 ベーケス2世はちょっと浮かれはじめていた。
 とはいえ、まだ断定できるわけではない。
 ちょっと悪いな、と思いながらも、政務の合間にこっそりとニュートの後を付けてみることにした。ちょうど休憩時間のようで、ニュートはぐいーっと伸びをして、散歩に向かうようだった。たまに立ち止まって、ちら、ちらっと普段なら自分がいるほうを見上げている、ような気がする。
 ちょっと希望が見えてきたらやたら浮かれた思考になってきた。自分もニュートはいまごろ石炭を増やしているのかな、と思ったりしていたのだ。
「ニュート様、僕またごはんとってきたんですけどーっ」
「お前かー!!」
 ベーケス2世は獲物を引きずってきたウルハムを念力で押さえつけた。
「だってえ、ちょうどいいですし! 僕が肉を食べてニュート様が血を抜いてくれたら下処理の手間が……
「お前、普段は栄養満点だって言ってそのままかぶりついてるだろ!」
「だって、ニュート様にご飯……
「俺がちゃんと飯を食わせてないようなコトいいやがって……
「あ、ニュート様!」
 顔を上げると、ニュートがじっとこっちを見ていた。
「ニュート、すまん! 今たてこんでて。ちょっとウルハムと話してるから……今日は一緒にご飯食べような!」
 ニュートは頷いて行ってしまった。……相変わらず表情が乏しいのだが、良く見ると「なんだ、今日はおやつが貰えないのか……」という顔だったような気もする。
「あーーーーっ、ニュート様、いかないでぇ……
「せめてコップに移せ。あと俺の許可を得ろ! お前がニュートに食事をやるせいで、俺はニュートが飯を食っている姿がロクに……
「僕だけじゃないですよ……
「うん?」

***

「ニュートー! はいこれ! 大好きなジュースだよ。お疲れ様ー!」
「ニュートちゃま~! 一緒にお茶会はいかがですか♪ わたしー、新しいカップを用意したんですの!」
「ニュート様、こちらをどうぞ」
 なんてことだ。ニュートは行く先々で魔物たちから、血だの臓物だのを押しつけられている。あれではお腹がいっぱいになるのも道理だ。ぜんぜん食べていないわけではなかった。むしろよく飲んでいる、飲みすぎってくらいだ。
「ニュート、めっ! ……そんな顔してもめっ、だめ!」
 ベーケス2世が割り込むと、ニュートは悲しそうな顔をした。眉をひそめて、「朝から罰を受けて何も口にしていません」、というくらいの顔に見えなくもない。
 揺らすとたぽたぽ音がした。
「しばらく間食は禁止! 俺だって……ニュートと飯が食いたいの!」
 ベーケス2世は、ニュートの耳先がちょっぴり赤くなっているのに気がついた。