頻子
2022-04-15 20:46:39
2332文字
Public KODR二次
 

髪を一房(KODR)

スケルナイト×ニュート
スケルナイト結婚、再建途中エンド、
戦地から帰ってきたスケルナイトさんが一方的に喋っている。

 ニュート様。
 ただいま戦地から戻ってまいりました。

 ああ……。髪が返り血で乾いております。どうかお手を触れずに。着替えだけは済ませておきましたが、湯浴みすることまでは叶いませんでした。
 お見苦しいかとは存じますが、どうか、ご無礼をお許しください……
 本来であれば、ニュート様の御前に参上する前に身を整えたかったのですが、あなた様のお声だけでもお聞きしたかった。一刻も早く、あなたのご無事を確かめたかった……
 いえ、いえ、そんなことは分かりきっておりました。あなたがここにいないとしたら、私もここにはおりません。あなたの運命は私の運命と同じもの。
 私は、ただ、お姿が見たかっただけ……

 ええ。
 新魔界に迎合し、思い上がった者は、すべて等しくこの槍の錆に。
 敵の大将の首はこちらに。
 ですが、いたずらにニュート様のお心を乱したくはありません! もしかすると、敵の蹂躙を心配されているのではと。そして、死体を見れば安心されるかとも思ったのですが。そのお盆は開けぬが宜しいでしょう。……。あなたが、望まないのであれば。
 ええ。あなたが望むのであれば、また別の死体を、何度でも、何匹でも、持ってきてやりますよ。

 今回は、集落一つ分といったところでしたでしょうか。
 連中も、もう二度と逆らおうなどとは思わんでしょう。
 愚かな住民は鉄柵に串刺して参りました。
 老いも若きも、大きいものから小さいものまで、お望みならどれでも示すことができます。ただ、見本にはなりません。どこかちぎれてたり、破れていたりします。

 褒美、ですか?
 いいえ。もう十分にいただいております。

 ああ、姫様。
 出立の際に、私が〝叶うならばその髪の一房をいただけないでしょうか〟、と願ったことを覚えておいででしょうか?

 いえ! 覚えていないはずがありません!
 愛する人の髪の一房は、兵士たちの守りです。
 ですが、ずっと、私には必要のないものと思っておりました。そのような守りなどなくとも、私はあなたを思うだけで……
 ああ! でも、私は、今、あなたの夫であるのです。つい、過ぎた願いを口にしたとき、私は後悔しておりました。ああ……。けれどもあなたは、ためらいもなくナイフをその手にお取りになりました。
 はっきりと覚えております。私が留守にしている間に、ともにあるようにともたせた、護身用の短剣でありました。柄にはカワセミの細工が施されている。いかにも、刃物を扱いなれていない手つき……。不用意な手つき……
 いや、それは、私のわがままゆえに、あなたに持たせていたものです。傍にありたかった。あなたに授けた。あなたは持っていた。
 それだけで、それだけで良かったのに……。それが使われるところなどありえない……。そう思っていたのに、私はそれ以上を望みました。
 青白くて薄い刃を、あなたはきっとおそれていた。手が震えてはおりませんでしたか。刃のどちらが研がれているほうか、それすらも分からずに刀身を日に透かしました。あの刃に映る姫様の瞳は、どのような宝石よりも美しかった……。美しかったはずなのです。
 ああ、ほんとうに、私は、不用意なことを申し上げるべきではなかった! 私は……。本当に、それに、すこしでよかったのです。ほんの少しで……
 同時に、お許しください。深い喜びに打ち震えていました。
 私は、やはりおやめください、と、言おうとしたのです。そのしぐさだけで、私には十分に分かったから……
 けれども、あなたはちっとも手を引っ込めなかった。美しい髪を、一房掴み取る。
 お許しください。あなたを少しでも損ねるつもりはなかったのです。
 私が姫様に、ニュート様に、どれほど思われているか。その愛の深さに心打たれました。私は、打ちのめされておりました。あなたの夫である喜びを噛みしめておりました。薄い刃が、あなたの首筋をかすめるのかと思ったとき、傷一つない首や、しなやかな指を傷つけやしないものかと、ぞっとしませんでしたとも。
 同時に、空にある、青い星を見た時のような……。冴えわたる星が瞬くような、しんとしたものを感じました。
 それをきっと高潔というのでしょう。慈悲深い献身というのでしょう。それを、純心というのでしょう。
 どのような黄金も、あなたの犠牲には、比べることのできないものです。私はあなたの髪の一本のために、祖国だって裏切るでしょう。

 ああ、今でも、姫様の髪の内側に、短い房があるのが分かります。無論、よおく見ないと分かりませんが。いえ、見なくとも。元通りに伸びたとしても、私にはその欠落は、永久に感じられます。どんなに血の染みついたマントよりも重く感じられるでしょう。
 ああ。ほんとうに、あなたが。貴人のすることではない。どうして……。どれほどの勇気が必要だったのでしょうか……姫様。
 ほまれのために己が傷つくことを良しとしても、ほまれのために己を傷つけることができる戦士は多くはありません。姫様……。あなたは私のために、私だけのために、とても勇敢で高潔でした。

 ですから、どうか姫様。欲しいものをなにもあげられない、などとお嘆きにならないでください。あなたの夫である私はもう、世界のすべてを手にしているのです。
 ああ、姫様。私はあなたのくださる愛を生涯忘れないでしょう。いかなる戦地に赴こうとも戻ります、とお約束いたしました。これがある限り私は永久不滅。
 肉の一片になろうとも、私はあなたを忘れることはないでしょう。私の体温はあなたの温度。私に流れる血は、一滴残らずにあなたのもの。