頻子
2022-04-12 21:11:30
4281文字
Public KODR二次
 

ジャンタンとニュート推し活(KODR)

ジャンタン×ニュート。
ジャンタン・ニュート夫妻を推す一般吸血鬼A、ゾンビB、人狼C。
ほんのりベーケス2世、ウルハム→ニュートを含みます。
※本編未登場名無しキャラクターが大変ウルサイです。

 新たなる魔界王が、魔界の裏切り者の息子を……つまりただの「人間」を伴侶に選んだことは、魔物たちを大きく驚かせることとなった。
 急激な魔界の嵐である。
 一時は城は騒然としたが……思いのほか、歓迎ムードに落ち着いている。
 なんたって、この結婚は――付け入るスキしかないものだからだ。
 ニュート様は相変わらず種族を持たないし、もしもお子様が誕生したとしてもそうだろう……。誰も得をしないが、損もしない。勢力図はそのまま、争いは次のステージへと持ち越しである。

 しかし、まさかあの人間が伴侶に選ばれるとは……
 大誤算とはこのことで、ランタンづくりのために城に詰めていたジャンタンをいびった覚えのある連中は、みな、死にそうな顔をしている。
 かくいう僕もその一人。現・魔界王の伴侶に威張り散らしていた、しがない下っ端吸血鬼なのだった。
 ジャンタン様……ああ、もう様をつけて呼ばなくてはならない。
 どんくさく廊下のランタンを取り替えていたから、あろうことか、「けっ」なんて吐き捨てて足を引っかけた覚えがある。次期長の真似をして「拾っておけよ!」なんてのも言った。それで、周りがクスクス笑ったのも、うん、覚えている。ああ、覚えている……

 廊下を談笑する魔界王夫妻を避けようとしてのことである。
 僕が運んでいた燭台の端っこがカッツーンと当たって、置いてあった花瓶が粉々に砕け散った。あーやっちまったーと、ぐるぐると走馬灯が浮かんでいて、それがくだんの、ジャンタン様をいびっている場面だったというわけだ。
 さいきんちょっと昼勤が続いていて眠くて……なんてのは言い訳にもならない。ああ、これは、死んだな、と思っていると、魔界王がぱたぱた駆け寄ってきて、しゃがんで花瓶の欠片を拾おうとしたのだ。慌てたジャンタンが、魔界王ニュート様を引っ張る。
「あ、ダメ! やめて! せっかくきれいな手なのに! ケガするでしょ。もー、ほら、これ使って」
 と、手袋を差し出したのだ。

「気を付けてよね、もう!」
……と言われただけで、おとがめはナシだった。
 何が起こっているかわからず、「あ、虚像かな?」と思っていた僕は、現実逃避をして城をさまよっていた。
 ぐうっと、何かが胸に突き刺さっている。それは、およそ格下だと思っていた者に侮られた憤りなのか。それとも自分への情けなさなのか。とにかく、「こんな明るい場所にいるなんてとんでもない」という全く不可解な後ろめたさを覚えて、逃げ出した。暗がりへと暗がりへと。城の奥へ、奥へ……
「おい」
 にゅっとでてきた人狼の野郎に、明るいところに引きずり込まれる。あ、これからか、これから怒られるのか。そうだったのか……と納得していると……ついて来いと言われて、いつのまにか、かつてはパンプキンのひしめいていた地下工房にやってきた。
 とってつけたような椅子には、もう一人、ゾンビ野郎が座っている。
「おちついてどう感じたか言ってみろよ。ええ?」

 どう?
 どう思ったかって?

 何が起こったか分からない。ラッキーだったとか、九死に一生の一のほうでほんとうにいいのかとか、あんなの上に立つものがやることじゃないよとか。
 僕はいろいろ、いろいろ、考えていた。ゾンビと人狼がじいっと目を光らせてこちらを見ている。ああ、一族に言いつけられて殺されるのかな、結局。でもやっぱり最期に良いモノが見れたかな、とか、いろんなことが頭の中を駆け巡った。

「尊……

 絞り出すようにいった一言に、がしっと二人は硬い握手を求めてきた。

***

 仮に、僕たちのことを吸血鬼A、ゾンビB、人狼Cとしよう。
 悲しいかな、まだまだ城内ではこの信仰は異端である。特に吸血鬼の立場からいうと、この話題はかなり危うい。新たなる長は、この件にはたいへんご傷心であられる。
 だからこっそり、地下工房で……めいめい、ものものしい飲み物とお茶菓子を手に、僕たちは高度な政治的談話に興ずる。
 ちなみに、フランコールさんが用意してくれたやつらしい(協賛)。

「だから、そのときにですよ……。僕が花瓶にぶつかって。ああもうダメだってなって」
「ソレ、もう何回目だよ」
「俺はいいよぉ、忘れたから!」
「俺は聞いたって! 割れた花瓶をジャンタンが拾ったんだろ。新ネタないのかよー」
「違う! ニュート様と『一緒に』拾ったんですってば!」
「変わんないじゃねぇか」
「違うの! ぜんぜん違う! たしかに破片を拾う様子は魔界王のほうが手際が悪くて比率にしたらまあ3:7くらいのもので~」
「あああ~~~吸血鬼めんどくせぇ~~~」

 ゆくゆくはみながこの二人の素晴らしさに気が付くだろうし、この考えは魔界を席巻するだろうが、今はまだ辛抱の時だ。静かに土壌を開拓して、じわじわと人を引き込んでいくときなのだ。
 というわけで、どこが『良』だったかを定期的に話し、確かめ合っている。

 貴重な同志なのだが、一枚岩、とも言えないかもしれない。
 僕らはニュート様とジャンタン様の組み合わせを心から崇拝しているが、結構スタンスが違うのだ。
「タンにさあ、服とか、宝石とか、一つしかない贈り物を渡すと『あ……』って顔をするんだよなあ」
 この人狼、なんとジャンタン様のことを「タン」と呼ぶ(ジャンタン推し)。このデケェなりで「タン」である。逆に、この会話を聞かれても言い訳できていいかもしれない。
「ニュート様はそうでもないけど。タンはそうなんだよ! 『あ……』ってなるの!」
「人狼Cは、ジャンタン様を悲しませたいってことぉ?」
「違う! 逆に、ニュート様はね、良かったねーって顔をしてるんだよ! そこがいいの! ニュート様にあげるとさあ、どっちもニコニコ! わかる!?」
 人狼C(やっぱり名誉のために伏せておくべきだろう)は、ジャンタンが、ガツガツ男らしく決めるパターンが好きである。
 ちなみに僕はどちらかと言えばニュート様が翻弄しているのが好きである。
「ああ、都合の良い障害になりてぇなあ~~~! 俺のことを誤解して、何してんのって割り込んでこねぇかなあ~んふふふふ」
……油断すると俺が絡んで関係性を進めたいとか言い出すので、ちょっと苦手だったりする。
 僕は別にピンチとかいらないでのびのびしてほしい派なのである。
 黙って壁にめりこんでろ。
「タンはさあ~~~、俺がすれ違うときにちょっとこっちを睨むんだけど、さりげなくニュート様を庇うわけだよ! どう考えても俺の一撃でひとひねりなのにさあ~~~はははは!」
 人狼Cは、どんとコップを置くと机に突っ伏した。
「かませになりてぇ……
……
 どうやったらこのデケェ人狼に「タン」が勝てるんだ。
 ちなみにゾンビBは2人の組み合わせなら何だって愛好しているし、もっとえげつないことも言う。どうやったらジャンタン様の首が落ちて~ニュート様が泣きじゃくってぇ~とかになるんだよ。そのせいでたまにペンダントから倫理ストップがかかる。どっちかというと「それは会話が漏れたら死罪を免れないからアウト」というやつである。
 ゾンビの長というのも忙しいものだなあ、と僕は思った。
「お前ぇ、ゾンビB。なんかねぇのかよ。お前忘れっぽいからいつでもネタが新鮮だもんなあ。ゾンビのくせして、イヒヒ」
「うーん。……この前さあ」
「お、お、あるの?」
 僕は思いきり身を乗り出す。
「お二人が、庭を一緒にお散歩してたんだけどね。『今までにニュートにやられたことぜんぶやり返すからね!』って言って、ジャンタン様がさあ、ニュート様に帽子をかぶせてたんだ。『だめだめ。昔オレが、ダイジョブって言っても聞かなかったでしょ。オレ覚えてるし。ムーダ!』って背伸びしててぇ。ニュート様は帽子を被せようとするんだけどね、届かなくてさあ」
……っ!」
 人狼Cは銀の弾丸で胸をぶち抜かれたように胸を押さえてうずくまった。たぶんあの、背伸びして「オレ」って言ったところとかに。
 僕もだ。がっきーんと杭が刺さっている。ちょっと翻弄されるニュート様も実は好きなのだ。

 ……
 尊い。

 まるで真夏の中でも丁度よい木陰のように、気持ちが安らぐのであった。

 それからゾンビBの「朝起きたらジャンタン様が女の子になってて~」というきわっきわの不敬をかまし(ストップがかからなかったので、ゾンビの長的にはアリらしい)、僕たちはまたああでもないこうでもないと議論を始めた。ちなみにそのネタはもう10回くらい話しているが、話は尽きることはない。同じ学校に通っているとしたらどの部活動か……。どうやって絆を深めるか……。いくらでも考えることがあるからだ。
「やっぱりさー、俺たちの発想だけだと限界があるよね」
 と、いちばん発想が限界突破しているゾンビBがふーっとため息をついた。
「ああ……もっと仲間が欲しいなあ~」
「広めてこいよ、吸血鬼たくさんいるんだからよ」
「ダメ! 吸血鬼的にはね! ホントにね!? 魔界王の伴侶の話はだめなんです! ダメダメ!」
「元婚約者だもんねぇ……
「でもね、魔界王ご夫妻の悪口言うと消されるんですよ。いいじゃんいいじゃん、どっちも吸血鬼にしちゃえ~って言った人もいつのまにかいなくなってて……
「あれじゃないの。お前のところの長って、すごい解釈にコダワリがあるタイプなんじゃねぇの?」
……。そういえばそっちのジャンタン追い回してた奴はどうなったの? いましたよね?」
「あのチビはさあー元気ないっていうか、あれだろ。タンが小さいほうの派閥だったんだろ」
「「ああ~~~」」
 ああ、という空気が満ちる。魔界再建、もうちょっと後でもよかったね~タイプ。
「再建してなかったらねえ……姿も小さいままだったのにねぇ……
「まあそのうち目覚めるんじゃね、タンよかアイツデケェし」
……
 それはそれで平穏を乱しそうな気がするのだが……

 不意に、人狼Cがぴたっと動かなくなった。じっと何かに耳をそばだてている。
「!」
 ゾンビBも僕も、必死に、耳を澄ませた。
 階段の上から声が聞こえる。

「ニュート様、何してるの? あ、神様に祈ってる? 父さんに届くように……? ふーん、そっか……、それじゃあ、一緒に祈る?」

 僕たちは知らず、三人で突っ伏して祈りを捧げていた。