頻子
2022-04-07 23:57:30
2812文字
Public KODR二次
 

インタビューウィズ(KODR)

ベーケス2世×ニュート。
婚約について取材されてるベーケス2世とニュート。

 この魔界にも、人間界と同様、新聞などというものがある。
 次期魔界王と次期吸血鬼の長の婚約を広く知らしめるべく、インタビューが行われることとなる。



 ニュート様は緊張した面持ちをしている。背筋を伸ばして、両ひざに手を揃えていた。お行儀は良いが、威厳はあまりないといえよう。隣にいる次期長のほうがよほど威張って見える。次期長こと我らがベーケス2世は、長い足を組んで横柄に椅子に座っている。
 暗室から出てきた撮影係が、木製のカメラをセットした。ガラス板に薬品を塗るタイプの古いカメラ。アコーディオンのような蛇腹がくっついているのを、ニュート様が目を丸くして見ていた。
 レンズを向けると、カチコチだ。
 次期長は、おもむろに次期魔界王の二の腕をきゅっとつまむ。
「そんなに緊張しなくていい、失敗しても取り換えがきくから」
 撮影係はたしかにぴしりと凍り付いたし、わたしはごくりと唾をのんだ。進退窮まれりである……
 次期長はニュート様の洋服の襟を直してやって、隣からすっと離れる。写真に映るのは、ニュート様だけだ。
 不意に、ニュート様がにこっと笑ったので、後ろに立っている次期長の表情も想像がつく。……おそろしくて振り返る気にはならない。

 数十秒。

 人間界には、もっと手軽に写真を撮ることができる機械もあるらしい。けれどもどうせモノクロになるのであるし、吸血鬼たちにとってはこちらのほうが馴染みやすいことだろう。
 写真の撮影が終わると、次期長はニュート様の隣に座り直す。ニュート様が、次期長の袖を掴んだ。
 ぽんぽんと確かめると、隠すように両手で持って膝の上に添えた。
「なんだ、ニュート、俺はここにいるぞ……うん、これからもずっと、だ!」
 愛想を振りまく長は、なんとも形容しがたいものがある……。なんたって、ベーケス2世はいつも不機嫌である。
 何を聞かれるのかな……と、ニュート様が緊張した面持ちでこちらを見ている。直視するわけにはいかない。次期長のすっと冷えた視線が、こちらを見すえている。

Q:これから我々の一族に加わることをどう思っていますか?
A:吸血鬼になっても大丈夫なように、いまのうちにご飯をたくさん食べている。

 ……思わずメモをとる手が止まった。
 次期長は咳払いをすると、羽筆を手に取った。さらさらと紙に書きつけて、メモを寄越す。

『吸血鬼になることはこの上ない喜びである。新たな文化に慣れるため、努力を惜しまないつもりがある』

 なるほど、こちらを採用しろということらしい。わたしは頷いて、メモを慎重に取材のノートに挟んだ。ニュート様は真剣にお気に入りのチョコレートについて語っている。わたしはウンウンと頷き、熱心にメモをとっているフリをした。
 すると、ちょっと緊張がほぐれてきたのか、ニュート様はいっしょうけんめい話している。……人間界の、リボンのついた箱に入ったトリュフチョコレートがお気に入りだった。テストの成績が良かったりするとご褒美に、毎日一粒一粒……。ふと、長の方を見るとじいっと聞き入っている様子があったのだが、はっと顔を上げるとこちらを睨んだ。
 暗に言っている。『そんな阿呆みたいなことは載せるなよ』、と。

Q:これからの魔界について教えてください。
A:みんなのためにがんばりたい。
いろんな種族がいるとにぎやかで楽しいのでうれしいと思う。
よろしくお願いします。

 こんどは、わたしはメモをとることはなく、なるほど……という顔をしながら隣の吸血鬼の返答を待った。さらさらとメモの上に神経質そうな文字が走る。

『裏切者どもを片づけたことで、この魔界は盤石なものとなった。
首を垂れるなら、たとえ吸血鬼以外であれど、席は相応に用意する意向はある』

 次期長が長々と紙に書きつけるのを、ニュート様はじっと見ている。ただ、読んでいるのかは不明である。意訳をすっとばしてほぼ自分の意見となっているはずの長の書きつけは、自身の発言よりも明らかに長いはずなのであるが、字がきれいですごいなあ、という目をしていた。それか、羽ペンが珍しいのか。
 これからの支配はベーケスのものになるのだろう。

 いくらか政治的な話題のやりとりをしたあと、個人的な興味を尋ねてみる。

Q:どのように求婚をし、また、受け入れられたのか。

 あきらかな政略結婚に違いないから、聞くも無駄だとは思っていたのだが、気になっていた。
 この結婚は、どうにも親同士の決め事ではないらしい……。無論、大いなる意図が働いているのは間違いがないのだが、魔界王はどうやら望みの相手と結婚させてやりたいという方針だった。
 話を振ると、ベーケス2世は大げさにかぶりをふった。
「ああ、それについてはダイジだ! 俺はニュートと結ばれたことを知らしめねばならない。それというのも、城にやってきた俺が……
 ニュート様は頭に「?」を浮かべている。婚約というのが、言葉もおぼつかないような幼児の頃の話なのだ。
「ニュートが俺の申し出にムニャムニャと頷いたとき……
 なんとも返答に困るセリフではあった。だが、とりあえず頷くことはできる。ニュート様も首を傾げながらも、コクコクと頷いているのだった。
 次期長の演説は長々と続き、取材のノートは彼の言葉で埋め尽くされていった。

 最後に……聞こうか迷ったことがあったが、とりあえず、口にしてみることにする。

Q:この婚姻をどう思うのか。

 ニュート様は耳を赤くして、言葉につまった。こんどは次期長が身を乗り出し、雄弁に口を開く。
「かねてからこうなることは決まっていた。俺はこれが魔界の住民のためにも、最良の形であると確信している。これ以上の選択はありえない。……そうだろう、ニュート?」
 うん、と、ニュート様は頷いた。
――愛している人とずっと一緒にいられるから、とっても優しい。
 目の前で羽ペンがしなり、びしゃっとインクが跳ねた。手を触れられてもいないのに羽ペンの軸は不自然に曲がった。
「ああ。ああ、俺も愛してるぞ! モチロン!」
 間髪入れずに、よどみなく返してはいたが。
 あ。今、長は、なにか間違ったのだな……わたしは思った。一つずれたテストの解答欄に気がついたかのようだった。
 ニュート様ははにかんで、ぎゅっと次期長の腕を取る。大好き、というと、次期長もまた呆けたように同じ言葉を返した。

 さて、この下りについてはどうまとめたものか、そもそもまとめるべきなのか、いや、まとめるべきではないのは確かだ。しかし、いったいどういう意味があるのかも知れず、まるごとにお蔵入りとなったのだ。
 ただ、そのページにはインクの跳ねたノートの染みが残っている。吸血鬼の『失敗』が。血痕のように飛び散って、こびりついている。