頻子
2022-02-25 02:25:13
5638文字
Public その他こまごました二次
 
335072

金の斧、銀の斧ではなく

ドラゴノーカエンドネタバレ【!!!】
名前変換して!
通常エンド後/グレイブさんと結婚している/
ねつ造過多/特にシステム周りはきっとアプデ入りそうだからいつまでつじつまがあうか……。
いや、書こうと思ったそのときが書き時だ!! チキンレースだ!!

カノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノカノ「おはようございます。ご機嫌いかがですか」
 光竜の加護が地に落ちても、太陽は未だ空にありました。カーテンを開ければ、ベッドの上には柔らかい日光が降り注いでいます。
 私が手のひらで作った影の中、カノ様は目を開けました。窓の奥で、日差しの高さを睨んでいました。
「お変わりありませんか? 今は……そうですね。ちょうど正午ですよ」
 懐から懐中時計を取り出して、私は言いました。
 カノ様は頷きました。
 ところで、これは、それなりの時間を共に過ごした私の推測ですが、カノ様は恐ろしく正確に時間を把握していらっしゃいます。それも、秒単位の正確さで、です。過去に、置いてある時計をちらりと見ただけで、時計が狂っている、と、何も見ずにおっしゃったことがありました。古い時計で、比べてみれば確かに数秒遅れていたのです。なんと、と、私は空を仰ぎました。
 ええ、おそらく、カノ様に時計は必要ないのです。
 それでも、私がこの役割を演じるのは、天気が良いことが分かり切っているときでも、「天気が良いですね」とご挨拶するようなこと。他愛のない日常を愛しているからこそ。
「ユノ様がお見えです。ですが、もう少しお休みになられますか?」
 カノ様は首を横に振り、ぴょんとベッドから飛び降りました。寝起きが大変宜しいのは、カノ様に数多くある美点の一つ。カノ様は、鎖でつながれた時計を取り上げて、お仕事に向かいます。
 必要だと判断して下さっているのを、何よりも嬉しく思います。
「無理はしないで下さいね。何かあればすぐにお知らせ下さい」

 竜を失った我々が地上に降りてから、ずいぶんと長いときが過ぎたように思えます。
 竜の背という安全地帯を失い、地上で生きていくこと……。そのの苦労は筆舌に尽くしがたいものがあります。
 けれど、それなりにしぶとく生きていました。
 害獣の侵入を阻むための柵はいつしか塀となり、「グラントータス」は、いつしか町と呼ばれるまでに成長しました。ようやくひといきつけるだろうか、という時期でしょうか。カノ様は、お眠りになるようになったのです。

 というのも、いままで、カノ様は、睡眠をとるということがほとんどなかったのです。
 これはまだ、我々が竜の背にいた頃。
 付き合いの長いノナ様曰く、「最初のころは寝ていたようだけれど、あとは知りません」ということでした。ふむ。突き放すような物言いではありましたが、その家には、客人を招くためのベッドがいつまでもあったことを考えると、ノナ様のお気遣いの現れでしょうか。
 私がカノ様と出会ったころのこと。私は誰よりも遅くまで働き、誰よりも早く起きるカノ様に深く感銘を受けました。自分もそうあらんと試みておりました。カノ様の家を見て、ランプの明かりが付いているうちは、まだと。
 しかし、まさか、『全く寝ていない』とは、私も予想外だったのです。おかげで、体調を崩し、薬を作らせる手間をかけてしまいました。
「手を動かしていたら時間が過ぎるから」ということでした。
 一晩、目を離していただけで、立派な家が建っている様は、まるで魔法と申し上げてもいいくらいで、いつもながらに驚嘆させられます。
 ともかく、そんなカノ様でしたが、ここのところはぐっすりと眠るようになったのです。ええ、寝袋を抱えて。ところ構わず。
 流石に、どこででも寝るのをやめてくださるように私が懇願しまして、結果、ダブルベッドの壁際が我が伴侶の指定の位置となりました。

 夕暮れ、町を回っていたカノ様が戻ってまいりました。町の運営は軌道にのっていて、町長と呼ぶべき人間は別にいます。カノ様が直接手を煩わせるような事はないはずですが、それでも、カノ様を頼りにする方はひっきりなしです。
「おかえりなさい。今日は、私、パン作りに励んでおりまして。おひとついかがですか。最高傑作と自負しておりますよ」
 バゲットを切るためのナイフは柔らかくパンに沈み込んでいきます。
 焼きたてのパンを一切れ切り分けると、カノ様は受け取りました。
 それから、小麦の匂いを嗅いで……少しだけかじると、「美味しい」と、感想をおっしゃいました。
「ありがとうございます。十分なお言葉です。よろしければ、そのままお持ちください」
 ああ、そうでした。カノ様は、食事もほとんどとることはありません。一日一食、それも極めて小食です。
 食事という食事もとらず、また、眠りもしない(これは過去形となりましたが)カノ様は、付き合いの長いもともとの住民はともかく、町には馴染みづらいようでして、なにかと苦労されているご様子でした。私も力添えしていこうという所存ですが、こればかりは。
 ともすれば、そんなところがきっかけで、皆のように眠るようになったのでしょうか?
 ふむ。どうでしょう……
 少なくとも私にとって、カノ様は間違いなく尊敬できるお方です。カノ様ほどに何でもできる方を、私は知りません。

 いまやグラントータスの住民のほとんどが、必要に迫られてそれなりに何でもできるのではありますが、やはり、カノ様は「なんでも」してしまいます。飛竜に乗って、空を駆けて、ぐんぐんと危険にも向かっていく。私はそんなカノ様を心より尊敬しておりました。眠る姿も、また、眠らない姿も……
 懐に入れた懐中時計が針を震わせる音を聞きながら、私は数えます。
 カノ様が眠る時間は、一時間、また一時間と長くなっているようでした。


 また、ある日のことです。
「出かけてくる」と言い残して、それから、これははじめてのことでしたが、両腕を広げられたので、私はカノ様を腕の中に収めました。しばらくそうすると、するりと抜けて去って行かれました。
 それから、数時間で戻ってこられたのには拍子抜けしましたが……

 それから、カノ様はもとのカノ様のように、眠らず、てきぱきと働くようになりました。以前と同じ働きぶり。どう考えても、このようなことができる方はただ一人だけ。しかし私は、どうにも違和感がぬぐえませんでした。
 そう、カノ様は、笑いそうになかった。

 カノ様は口数が少なく、表情の乏しい方です。
 カノ様が笑っているお姿は、私の心の奥底に沈んでいます。
 今だって幸せには違いありませんが、間違いなく幸せだった、傷一つない宝石のような、輝かしい日々のことです。カノ様が笑みを向けられたのは、私に対してではなかった。あの子に対してでした。
 あの子に、カノ様はっきりと笑いかけたのを見ました。私は、まるで木漏れ日が一瞬だけさしたような光景に言葉を失い、額縁に収めるようにただ立っていたのを覚えています。しばらくして、こちらに気が付いたカノ様の笑みは不意に引っ込んでしまいました。そのあとは、ふわふわの綿毛をくっつけたあの子の口を拭ってやりました。
 たった一度。
 それから、私はその均衡を崩さぬように、そっとその場を離れていました。
 残念ながら、それ以降、カノ様が笑っているのを見ることはなく――それでも日々は確かにあったのです。

カノ様、私と出会ったときのことを、おぼえていらっしゃいますか」
 カノ様は……いえ、他のどなたかは、見事に会話をそらんじて見せました。とても正確に。一字一句違えず。出会いから、仲を深めていく過程をとうとうと述べていきました。流石の記憶力……といいたいところではありましたが、私は確信しています。
カノ様にお会いしたく思います。カノ様はどちらに?」
 カノ様に似た何者かは、少しも驚いた風に見えませんでした。
「グラントータスの山のふもとに」

 にぎやかな町をあとにすると、道はずいぶんと暗くなります。こんな世の中です。害獣の数匹はあしらえる心得を身につけてはおりましたが、それでも賊などというものも出ることがあります。それでも、どのような事にも備えておく自分の性分が役に立ちました。
「観測記録は一通り観覧したのですが……
「それでも、分かりますよ」
「どうして?」
「私、僭越ながら申し上げますと、常にカノ様を目標として励んで参りました。誰よりも見る目はあるつもりで御座います」
「前任者は、経年劣化により任務の遂行に支障があると判断したようです。二号機……つまり私を作り、パーツを託すと、稼働を停止しました。
各種の業務に必要な能力は問題なく引き継いでいます」
 竜の騒動で身に染みて感じたことではありますが、世の中には計り知れないほどのこと、理解しきれぬものがあります。
……素体を運べということでしたら、持って参りますが。墓に埋めるのでしょう?」
 私の望みは一つです。
「いえ、私はお会いしたいのです。カノ様に」
 二号機様はかの人とよく似た無表情のまま、こちらにつかつかと歩み寄ってきました。びゅ、と剣を振るうと、私……ではなく、私の後ろにいた魔物を突き刺しました。
「流石にお見事ですね」
「まだ調整の余地があります」

「我々は一日中十分に活動できるようにできてます。十分な休息が得られない場合は学習システムを停止させて、経験フィードバッグを0にしますが、それでも動けるのが本来の運用です。ですが、一号機は起きていられないほどの劣化があります。竜の保護を得られないこの大地では、人は無力です」
 この方は、カノ様よりもいくらか多弁でいらっしゃいます。記憶喪失ということでしたから、もしかすると、カノ様のほうがイレギュラーだったのかもしれません。多弁なカノ様。それもまた愉快ではあるでしょうけれど。
「私の態度に思うところがあれば、カスタマイズすることも可能です。ひと月もデータを積み上げれば、同じようにふるまえます。望むデータがあればインプットしてください。バッテリーが損傷しているせいで、一日に四分の一も空白の時間が生じています。一号機を起動する意義は薄いかと」
「そうですね。……カノ様が寝ている間にでしたので、ご存じないでしょうけれど、私も及ばずながら飛竜に乗る訓練をしておりました」
……どういうことですか?」
「全く問題ない、ということで御座います」
 そういったときの、二号機様は怪訝そうでありました。
「お会いすれば、目を覚ましてくれますか?」
「ご存じないでしょうけれど、私、カノ様がお眠りになる時を心待ちにしていたのです」
「貴方は、一号機の優れた技術や効率性を評価していたのではありませんか?」
「そうでもありません」

 しばらく歩いて行きますと、瓦礫の積みあがったような、グラントータスの山につきました。あの木の実は甘いのだ、と私は思い出します。さくさくと、ところどころの傾斜を超えて進んでいきますと、岩の隙間に、扉が開いています。
 もうひしゃげてボロボロになった、奇妙な空間。
 カノ様は、奇妙なカプセルの中にいました。
カノ様」
 口を開きこそしませんが、私のもとにあったカノ様だと確信が持てます。手の平でガラス面を撫でます。
 二号貴様が、髪をかき上げてうなじを見せました。
「記憶チップです。一号機に戻して下さい」
「それを失えば、あなたはどうなりますか?」
「問題ありません。ただ、記憶を失うだけです」
「では、はじめまして、ですか」
 それを聞いて、幾ばくか心は楽になりました。どうあろうとも譲る気はありませんでしたけが……

(これが、チップですか)
 訳のわからない、いえ、失礼。とても込み入った機械を取り扱うのは、非常に骨が折れました。私にとっては人生最大の難事、といってもいいものです。
 二号貴様からいくらか簡単な説明はお聞きしましたが、理解しきれるものではありません。チップを抜き取るためには二号機様の電源とやらを落とす必要があり、それはもうこれから先、指南を受けられないことを意味します。
 フクザツに絡み合ったコード。
 宝石を切り出すような緊張がありました。
 チップをはめ、複雑に絡み合った基板に手を差し入れます。修理に必要な宝石は、幸い、身につけておりました。
 ああ、そうだ。そういえばこの二号機様は――時計をもっていらっしゃらない。横たわったカノ様の懐には確かに私の細工があって、なんとも言えず困った感情があふれました。
「その時計を分解すれば材料がそろいそうですね」
 私は、自分が持っていた時計を解体すると、クオーツ水晶を取り出します。しかし、いざ、本体を見るとなると、二号機様の説明はかなり大雑把というほかありません。ここからは、自分の職人としての魂の見せ所、でしょうか。ピンセットで台の上に載せて、どうか、目を覚ましてくれますようにと思いながら、パーツを置きます。
 この世に一つしかない宝石を切り出すような緊張。そして、大役を任される誇りに満ちています。まさか、扱うものが、私の愛すべき人の記憶とは。
 今までのことを超えて、人生最大の難事といってもいいでしょう。元通りに素体を戻すと、目を覚ますまで待ちました。
カノ様、ご機嫌いかがですか」
 ああ。
 カノ様は、実に信じられないという顔をして、私を見上げておりました。その仕草を見ただけで分かります。私の愛するべき人だと。
「私の力及ばず、無用な心配をかけてしまったのは不徳のいたすところです。ですが、次からは一言お申し付け下さい」
 私が――確かに私に向けられたカノ様の微かな笑みを見たのは、初めてのことで。そして、たぶん、これから見る機会もまたあろうかと思っておりました。