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頻子
2022-01-06 20:34:12
4909文字
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ないしそんな日の過去
*じゅじゅつ
*現パロ
*九相図+引き取られたての悠仁(脹+虎)
*ハッピーぜんぶ存在しねぇ
(Config)
・だいぶ打ち解けてきた頃
・脹相は割と弟たちの独立に肯定的(正月に帰ってこい程度)・お兄ちゃん判定配偶者まで・世話を焼きたい・世話を焼かれるのも可・弟に奢りたい
ビニールプールを透かした日光が、うろこ雲のようにちぎれて芝の上でゆらゆらと波打っている。
弟たちが戯れるたび、水はとぷん、とぷんと揺れ、狭いプールから水があふれている。
何もしなくても汗が額を流れ落ちるほど、ずいぶんと暑い日のことだ。麦茶を用意したものの、ちょうどにつりあった均衡を乱すのはなんだかもったいない。
脹相はただぼんやりとその光景を見ている。ずっと飽きない。窓枠は額縁に似ていて、どの瞬間を切り取ってもいつくしむべき光景だった。
もう少し見ていようか、と思ったところで、「にいちゃーん」、と呼ばれた。企んでいるふうの血塗と悠仁は、こらえきれずににまにましている。それから、後ろ手に何か
――
、たぶん、水をためた手の平を隠しているのだろう。
何も言わないところを見ると、壊相も共犯らしかった。
腕時計を外して床の上に置いてから、「どうした」とゆっくり歩み寄っていった。ちょうど、脹相からは手が届きそうな間合い。弟たちからは手を伸ばしても足りないかという距離で、ばしゃっと水をかけられる。
「やってくれたな」
額から滑り落ちる髪の毛は、水分で貼り付いてぽたぽたと水滴を垂らした。
庭のホースを構えると、三人はわあーといって逃げ出すそぶりをする。狭いプール。顔をかばいながらも、それでもちらちらと水をかけてほしそうなそぶりをるので、期待に応えてやることにした。ほんとうに、暑い日だったのだ。
「やられたー!」と、悠仁がわき腹を抑えて倒れ込む。もう一回、もう一回とねだる弟たちをなだめて、いったんの休戦を告げる。
「麦茶を持ってきた。水分補給はしないとだめだ」
三人はそれぞれ、コップを受け取ったが、じいっと、珍しいモノでも見るように麦茶を見つめている。なぜだか、一向にコップを持ち上げようとしない。
「
……
どうした?」
「にいちゃんのは?」
という幸せな夢を見て起きた脹相はそれなりに幸せな朝を迎えている。
若干の寝坊をした悠仁が寝癖をそのままに「はよーっす」と起きてきた。兄の上機嫌の理由を知る由もなく、また、そもそも上機嫌であるかも知らなかった。黄色い歯ブラシをくわえて、眠そうに洗面台へと向かっていった。
短パンとTシャツの部屋着は、どことなく水遊びしていたころの格好を思い起こさせる。細い手足はずいぶんとたくましくなった。
「そうか。悠仁ももう高校生か
……
」
「会ってからずっとそうですけど???」
小さい頃の思い出こそないが、弟たちと平和に暮らすこの光景こそが宝であると確信している。悠仁がびしっと軽いツッコミを入れてくる気安さに少し嬉しくなった。ただ、まだ遠慮があるのか、手のひらをそーっと自分の位置に戻していた。
悠仁は最近になって見つけることができた、かけがえのない弟である。
いろいろなことがあって分かれて暮らしていたが、最近ようやく一緒に暮らしている。
「こんど、プールに行かないか?」
脹相がそんなことを言い出したのは、やはり今朝の夢が原因だ。昔の思い出(※実在しない)に負けないくらい、新しい思い出を作っていきたい。
だが、弟たちの反応はあまりよくはない。
「プール? 嫌ですよ。兄さん。私のコンプレックスはご存じでしょう」
「兄者、俺も寒いからパース!」
「悠仁
……
」
弟たちににべもなく断られ、頼みの綱は末っ子、悠仁のみとなった。
「え、泳ぐ? いいけど」
むぐむぐとご飯を平らげると、テレビに気をやっている。人なつこそうな目は、快活なお天気のお姉さんを見つめている。
「いいのか」
「兄さんこそ、水は苦手じゃないですか?」
「あ、そなの。え? なんでじゃあプール。」
「苦手ではないが、俺は別に泳ぎたくはない。泳いでいる悠仁に麦茶を持っていきたいだけだ」
「何そのマニアックな感じの希望!」
「そんなに言うなら。はい。兄さん、麦茶、悠仁の分注いでください」
壊相から、やかんを受け取った。ただし、今は真冬なのでホットの麦茶である。こんな時期にプールに誘うのだから、わりと季節外れではあった。取っ手はタオルにくるまれており、なかなかぬくかった。
脹相はしずしずとコップに注いだ。
「あ。どもっす。んじゃ、脹相の分は俺が
……
俺が
……
ちょっ、離さねぇなあこの人!」
無言ではあったがものすごい力だ。
兄としての仕事をやりとげると、ようやく手を離した。ちゃっかり自分の分のコップはからっぽだ。そっと悠仁が表情を見ると、おかわりを注いでくれた。それでもってまたテレビに戻っていく。
「兄弟そろっての食事は良いものだな。あと何回この貴重な機会があるかと考えると、さみしくもなるが
……
」
「そうしんみりしなくてもいいじゃないですか、兄さん。貴重な機会っていっても、ほとんど毎日ですよ。誰かしらはいるんだし」
どうやらこの手は付き合いの長い弟には通じなくなってきた。
「悠仁
……
いつか独立しても、正月には顔を見せてくれないか」
「ういっす」
「正月とゴールデンウィークと盆休みには帰ってきてほしい」
「兄さん、悠仁がろくに聞いてないからって要求を増やしましたね」
「ん」
悠仁の目はあいかわらずテレビに向いている。
「兄者ぁ、俺、今年のゴールデンウィークには友達と旅行行くからさぁ」
「
……
。気を付けてくれれば俺から言うことはない」
「俺寝坊したから洗うんよー」と言って、食器を集めた悠仁をみて、しみじみ思った。
「大きくなったな
……
」
脹相がつぶやいたのは単なる実感だったが、エプロンを畳んでいた壊相は別にとったらしい。
「そうですね。突然家族が増えましたから。最初は緊張していたみたいですけど。
でも、最近はだいぶリラックスしてくれているみたいです。
良いことだと思いませんか、兄さん。ここが悠仁にとって安心できる場所であることが私の何よりの望みですから」
「そうだな」
とりあえず適当にうなずいておくと良いほうに取ってくれるのが壊相の良いところである。
「私も、正月くらいは兄弟たちの顔を見たいものですけれど。もしかすると、正月っていうのもなかなか難しいかもしれません」
「
……
どういうことだ」
『正月には顔を見せてほしい』というのは、正直に言うと脹相にとってはだいぶ妥協した上で出した希望である。
できれば近所、可能なら隣に住んでくれればなにかと力になれるだろうし、なんならこのまま引っ越してくればいい。ただ、それはさすがに過保護が過ぎると思ったので、控えめに希望を伝えていたつもりだった。それすらもぜいたくなことなのか
……
。
「結婚したら、あっちにも家族が増えますからね。そうなると、うちばっかりってわけにもいかないかもしれません」
脹相は真面目に家系図を思い浮かべていた。
「悠仁」
「あ、何?」
「俺はお兄ちゃんだが、お兄ちゃんとしてふるまえるのは悠仁までだ」
「何の話?」
「相手の親族にはあまり期待しないでくれ
……
」
「いや、ホントに何の話? 脹相、ケッコンすんの?」
「どうしてそうなる?」
(俺が悪いのこれ?)
「やれやれ、仕方ないな」という兄仕草が板についているせいで言い含められているような気になるのだた。
「オマエが選ぶからには、相手は立派な人なんだろう。
俺もそれなりに敬意を払うつもりはある。
……
だが、悠仁がジェニファー・ローレンスと結婚したら、俺がお兄ちゃんとして付き合うのはジェニファー・ローレンスまでだ」
「東堂から聞いた?」
「
……
我ながら度量の狭いお兄ちゃんだな。こんな兄を許してくれるか?」
「国際結婚かー、そしたら滅多に帰ってこれなくなっちゃうね」
「その場合は月に一度はSkypeをする義務がある」
「兄さん、さいきん妙な知恵をつけましたね」
***
(この人、相変わらずどういう絡みすればいいかぜんぜんわかんねぇ)
壊相と血塗が出かけて行ってしまって、兄と一緒にとりのこされてしまった悠仁だった。
ただ、なんとなく歓迎されているというか、ともかく、嫌われていないのは流石にわかる。
しかし、どういう人間なのかは相変わらずわからない。最初は、身寄りのない高校生を放ってはおけないほど情にあつい人物なのかとも思ったが、見る限り明らかにそうではない。理由を尋ねると、「俺は悠仁のお兄ちゃんだからな」という行き止まりに行き着くので、まあ、ウン。と思いながらその都度引き返してきた。
その奥にある真意を突き止めようとしても、徒労に終わることでもあろう。お兄ちゃんだから。それ以上に弟をいつくしむ理由は特にない。
暇だから掃除でもするか、とコロコロを動かしていたのだが、立ち上がったところで何かにぶつかり、ばさっと落ちる。カレンダーだった。画びょうを持って戻そうと立ち上がると、ふと、カレンダーの裏側に、なにやらお札のようなものが貼ってある。
「うわっー、オカルト」
「どうした? ああ。それか。いや、お札ではない。単なる和紙だぞ。懐かしいな」
よくよく見ると、お札に見えたものはたしかにセロテープで貼りつけられた和紙で、子どものような字がのたくっているせいでそうみえたのだった。悠仁の腰くらいの高さに、おぼつかない字で「えそう」「血ちず」と書かれていた。
「悠仁、立て」
「へい」
「背筋を伸ばせ」
「うぃっす」
「
……
ピース」
「いえい。え? 何?」
脹相はぱしゃり、スマートフォンで写真を撮った。それから、ふせんをとってきて頭のうえに印をつける。
「
……
昔、兄弟でこうして背を比べたんだ」
「あ、そうなんだ。なんでピースさせたん? あと撮ったの? いや、いいけどさ」
『脹相』はないものかと探すと、自分の肩くらいの位置に、薄い鉛筆で書かれた和紙があった。背が届かなかったのだろうか。
血塗はなんとなく想像がつくのだが、自分よりも小さい頃の脹相や壊相というのはなんとなく想像しづらいものがあった。
「血塗は、昔から大きくなりたいと言っていた。
逆に、壊相は身体が大きいのがコンプレックスでな
……
。それでなかなか測らなくなってしまった。
……
どちらも生まれたときは大きくなれないかもしれないと言われたくらい小さかったから、俺は二人の成長が嬉しかった
……
」
「そっかあ。
……
俺、こっからはあんま伸びねぇよ?」
「悠仁は小さいころから大きいほうだったか」
「ま。それなりには
……
」
「Siri。小学一年生男子の平均身長」
「それは俺の身長じゃなくて純粋な統計なんだよなあ」
「
……
幼いころの悠仁がたしかこのくらいだったか」
「想像の俺かよ」
脹相はゆるゆると勝手に印をつけていくのだが、やたら確信をもってそうそうこのくらいだった、みたいな顔で付けていくのがかなりブキミではあった。害はない。
「悠仁にも身長が138cmだった時期はあるだろう」
「そりゃあんだろうけどさあー!?」
何度でも言うが、悠仁が引き取られたのは高校生になってからだ。それまで会ったことはない。兄には、一体何が見えているのか。脹相はじっ、と壁を見つめる。
「
……
175cmか」
「ジェニファー・ローレンスはいいって。いや。よくわかったな俺。
……
調べたん? ジェニファー・ローレンス」
脹相がフッと笑みをこぼした。満足したのか、それとも肯定の笑みなのか、いまいち理解しがたい。
「それじゃあ、剥がすか」
「剥がすんだ?」
「ああ。もともと、そろそろ剥がそうかと思って忘れていたモノだ。
……
始末する前に、前に全員揃ってよかった。
……
悠仁?」
悠仁がしゃがんでへらっとピースをするので、咄嗟にカメラを構えてシャッターを切った。弟を写そうと思っただけで、張り紙のことは忘れていたが、見てみれば、悠仁と兄弟みんなの名前が枠の中に収まっている。
「プールはあんまだけど、銭湯行こうぜ。んでフルーツ牛乳おごって、兄貴」
「兄へのおねだりが上手になったな。悠仁。大きくなれよ」
「これ以上デカくする気かよ」
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