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頻子
2021-09-13 02:57:15
2220文字
Public
TOH二次
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ちょうどよいケガ
施設長にひざまくらされるナナシ(宇宙猫)と言う感じのアレ
コンコンという軽快なノックの音が施設長室に響き、合図だけして扉を開けたナナシが、つかつかと施設長に歩み寄っていった。
「施設長」
「あ、どうしたの?」
「席外しますか?」
「いい、10秒で済むから。施設長、俺、書類で指切りました」
ナナシは手袋をとって、手の平をずいと施設長に押し付けた。けがをしたらしい指先にはきっちり絆創膏がまかれていた。
「あっ
……
、痛そうだね」
「痛かったです。それじゃ、それ言いに来ただけなんで」
「お大事に~
……
」
ぱたん、と扉が閉まる。
「
……
? え、なんですか、あれ? なんか、ケガだけ見せびらかしていなくなりましたけど
……
」
「ああ? ええと、あれはね。
昔ね、ナナシがすごくケガをしてるのに、我慢してたことがあってね」
ふーっとコーラルは息をついた。
「それで、僕、ナナシ君にお願いしてるんだよねぇ。何かケガしたときはどんなにささやかでも、ぜったいに僕に報告すること、って
……
。まあ、半分くらいは命令なんだけど
……
」
「なんか重い恋人みたいですね」
「え゛」
***
ナナシだって別に、ケガを見せびらかす趣味があるわけではない。施設長様の言う通り、ナナシは施設長様から、ケガや、身体の不調はどんなささやかなことでも報告して欲しいとお願いされているまでである。
なので、こういうケガでも一応報告はするようになっているのだった。
ナナシは、ちょうどよいケガをするのがわりと好きだった。
正確に思うところを述べると、コーラル・ブラウンに心配されるのが好きだ。
痛いのはふつうに嫌だし、ケガをして役に立てなくなるのも嫌だ。心配にならないくらいの、ちょうどよいタイプのケガが最適である。
引き取られて数カ月、根を詰めてばったり倒れた時、コーラルがものすごく半泣きになりながら、「君に何かあったらどうすればいいの。どんな小さなことでもぜったいに言うって約束してくれる?」と言ってきたものだった。
基本的にナナシは注意深いので、滅多にケガはしない。
わざとってこともないので、ほんとうにたまにしか起こらないイベントである。さらに運が良ければ、夕食の時にでも「そういえばさあ、あれ、大丈夫?」とあとから心配されるときもある。というわけで、感情の収支はプラスだった。
それにこの取引にはナナシにとってもちょっとしたメリットがある。
「それならアンタがけがしたときは俺に報告してくれますよね? 俺にそうしろって言うんだから」という条項がたいへんお得だったからである。
実際のところ守っているかは怪しいものだが、そういう事態が発生したときにひどいじゃないですか俺はちゃんと約束を守ったのに、と脅す武器ができるのが実に良いのだ。
「それでねっ、そのときコーラルちゃんったらねっ!」
「っ」
考え事をしながらボーっと歩いていたせいだろうか。扉を開けようと思って手を伸ばすと、扉が向こうから思い切り開いて、鼻っ柱にぶつかった。
それはもうものすごい勢いで、叩きつけられる勢いだった。
「あらやだナナシちゃん!? ゴメン~! って
……
ちょっと!? 大丈夫!?」
「
……
どんだけ力強いんだよお前
……
」
なぜか同じ雑務用なのに、キャシーはびくともしていない。
「やだっ! 鼻血出てるわよ!? 誰かティッシュ!! ティッシュ持ってきて~!?」
これはちょっとちょうどよいとは言えない。
「ナナシ、大丈夫?」
「ムリです」
経緯を説明して施設長に言いつけたナナシは、コーラルに膝枕されていた。いや、ほんとうに膝枕される必要があったかは定かではないが、キャシーに頭と膝を抱えられ(お姫様抱っことは言われたくない)コーラルのところに持ってこられたナナシは、流れでうっかりソファーに座る施設長の膝に預けられてしまったのだった。
「まさかキャシーで鼻血を出すなんて
……
」
「扉です扉! 誤解を招くような言い方やめてくださいよ」
この体勢は実に間抜けであまりかっこよくはないだろう、と思うとほんとうに情けない。施設長をじっと睨んでいると「大丈夫だからね~」と頭を撫でられたついでに、そのまま施設長の手は机に乗っているおやつに手を伸ばそうとする。腕を伸ばしてびしっと叩きつけるととても情けない顔をした。
「わかった。それじゃ半分こね」
「何が
……
ちょっと、俺はおやつが食べたいんじゃないんですよ俺は
……
むぐっ」
思わず口止め料を貰ってしまった。なんだこれはと思いながらもナナシはドーナツを齧った。チョコの部分が入っているいいほうのドーナツだ。嬉しくはないが。
じっとしてみると、異様に居心地が良かった。頭を支える感じが非常にいい具合で、なんというかしっくりくる。時々我に返りそうになって後頭部に力をこめるとはいはい~と言う感じで手の平がおりてきてぽんぽんされ、動作をキャンセルされるのだった。
(何やってんだ俺、情けねぇな
……
)
いや、よく考えたら、押さえられているわけでもないし、フツーにはねのけて起きたらいいんじゃないだろうか。よし、起きよう、とナナシが決意したときだった。
「施設長」
ガチャっと扉が開いたかと思ったら職員が「間違えました」と言って帰っていった。
「あれ? 今あの子施設長って言ってなかった?」
「
……
」
なんかどうでもよくなったのでナナシは施設長の膝に頭を預けて寝た。
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