頻子
2021-09-13 02:06:25
1833文字
Public TOH二次
 

ナナシは意外と映画が好き

利き小説の贈呈品。
博物館勤務のナナシとローランドです!(諜報員はやってなかった)
私的には友情の範囲だな~と思います。
あと、ローランドがナナシに諜報員になりなよ!っていったことをぱっとは思い出せないほど忘れてる解釈があります。なんかこうやってぽんと惜しみなく投げかけた言葉で誰かを救って文字数

 ナナシは意外と映画が好きだ。
 軍事用博物館での仕事が休みの時は、たまにふらっと映画館に行く。
 座る席はいつも入り口に近い隅っこだった。真正面よりもここが落ち着く。
 そうやって、ナナシは休日の一日のうちのおよそ二時間を割って過ごす。
 大抵は一人で、飲み物はホットコーヒーを選ぶ。機嫌が良い時はホットドッグを頼んだ。はやめに席につき、ケチャップとマスタードの利いたホットドッグを早々に平らげる。後は、黙って画面を見つめる。
 改めて「好きか」、と言われると、また少し違うような気もする。
 ナナシは映画というよりは、このような空間が好きなのかもしれなかった。周りの人間が話しかけてくることもないし、黙っていても不愛想とは言われない。
 これはたんなる習慣であって、スポーツ観戦をするローランドのように熱くなることはないのだ。
 いちどたりとて、泣いたこともない。
 だから、好きな映画、と言われても戸惑う。聞かれることはめったにないが、聞かれた時は、世間的に評価の高い映画を挙げてしのいでいた。ナナシは、自分が「いいな」と思ったことを、誰かに悟らせることがあまりない。もし、好きの証明がじゃぶじゃぶ金を使うだとか、ものすごく熱っぽく語るとか、時間を費やすとか、そういうことであるのなら、ナナシは好きなものがないのかもしれなかった。
 今日のアクション映画はそれなりだった。作りは粗っぽく、続編ありきで、ところどころに笑っちゃうような「いや、それはないだろ……」というところがあったけれども、爆発は派手だし、悪いヤツはぜんぶ死んだし、ナナシの中では及第点だ。生きるべき奴が不条理に死ぬよりはずっといい。
 ……あと、協賛の連中は親HANOIを標榜していて、それに違わず長々とした映画のクレジットにはきちんと名字のない、おそらくはHANOIと思しき名前がずらりと並んでいる。懐かしい名前を見つけて少し嬉しくなった。
 ナナシはクレジットを最後まで見てから、適当な喫茶店に立ち寄って、スマートフォンを操作する。
 ついでに、レビューを確認すると、結構散々な評価だった。
…………
 別にそれはいい。ただ平凡に、ナナシはごく普通の感性を持っていると思っていたので、自分が世間とやや違うらしいというのが多少ショックだった。
 わりと、そういうことがある。
 ナナシの好きな映画とは、アクションで、つまるところ……人混みがあるほど人気じゃない映画である。

「ナナシ……なんだ! また映画を見に行ったのか?」
……
「お前が好きそうな映画だな、いかにも」
「いかにも? そうですか……
 うんうんと頷くローランドにナナシは眉をひそめた。ナナシが軍事博物館のスタッフとなって、10年くらいの付き合いになる。ローランドはくくりがおおざっぱというか、雑というか、結構な確率で当たらないはずだった。
 コイツにばれるほど露骨だったかな、とナナシは考えるのだが、まあ、偶然だろうということにして片付ける。
「それにしても、スパイ映画ばっかりだな。お前、諜報員にでもなりたいのか?」
「は?」
「ん? どうした?」
「いや、そりゃアンタが言い出したんでしょ……
……俺が? 言ったか!?」
 ナナシは、なぜだかものすごく脱力した。
 たしかに、そんなことをローランドに言われたのは、もう10年も前になる。そして、たしかにアクションというか、……ナナシはスパイ映画が好きだった。
「自分で言ったことくらい覚えとけよ。もうボケたのかよ」
「なんだ、女々しいな!!」
「め……
 怒られろ、とナナシは自分のことを棚に上げて念じた。誰にだ。でも怒られろ。
「あーあ。最悪だ。最悪だホントに……
 ローランドの言葉を気にして、ちょっとはしゃいで、しかも軽率に人生の方向性まで変えてしまった自分に気がついて、ナナシは本気でいやになった。ついでに、自分の方が長いこと覚えているのにもうんざりするものである。
「ああ、待て。まあ……なんとなく思い出してきたぞ! たしかそう、俺は教本を読み込んだ記憶が……
「もういい。クソ」
「まあ、俺が言ったからには向いているんだろうな。お前は何を考えているかわからんし、動じないし、口が上手いからな!」
 どこかで聞いたようなセリフ、それでもってじぶんに深く根差した言葉だ。ナナシは、額を押さえて「はあ~~~~」と長い長い溜息を吐いた。