頻子
2021-08-20 12:53:59
2472文字
Public TOH二次
 

当たりくじ外れくじ

本編中ほのぼのオールキャラ(タワハノ)

 食事当番と掃除当番。それから、水槽の餌やり係。
 コーラル・ブラウンは、102本部の当番表をながめるのが好きだったりする。
 食堂のホワイトボードにはそれぞれのHANOIの色の磁石が割り当たっていて、基本的には順繰りに回しているらしい。
 当番表は最初はシンプルなものだったけれど、クレヨンやメリーティカ、ノロイのものと思われる装飾がいつしかなされるようになっていた。重くなってきたホワイトボードがはがれないように絶妙な位置にくっついているギラギラしたピンは、たぶん、キャメロンのものだろう。
 食事当番のジョルジュのところに、よほど楽しみなのか旗が立っている。この圧と線の太さはローランドだろうか?
 こうやって見ていると、コーラルはしみじみと思うのだった。
 みんなの担当でよかったなあ、と。
(でも、うーん、どうしようなあ……
 なるべく公平に。
 TOWERの編成もなるたけ公平に、みんなの邪魔にならないように……となるように気を付けているのだけれど。攻略上、誰かの手を借りたいときにはローテーションを崩してしまう時がある。そんなときは矢印(⇔)だとか、マーカーの出番が来るのだった。
 けれども今日、監察官が悩んでいるのは誰を連れていくか……ではあるのだけれど、誰を連れていかないかということだった。
「やあ監察官! どうしたの?」
 アダムスがひょっこりと顔をのぞかせる。
「やあ、アダムス。なんでもないよ」
「あるよ!」
「え?」
 アダムスの目が細められてまじまじとコーラルを見る。猫のように瞳孔が揺れて、それからアダムスはにんまりと笑った。
「やっぱりね。なんかあるって顔だね! 次期HANOI教の教祖の目はごまかせないよ」
「開祖じゃなかったっけ?」
「じゃ、元祖!」
 元祖!HANOI教というのぼりを想像して、コーラルはへらりと笑った。
「あー、うん、でもねぇ……どっちかというと仕事のお話だからなあ」
「そうかい? まあ、話すだけでもラクになったり、考えがまとまるってこともあると思うし。役に立てるか言ってごらんよ。今だけタダで聞いてあげるからさ!」
「ええとね、うーん、そうかも?」
 コーラルはアダムスに押し負けた。ポケットからとりだしたのは、小さなSDカードだ。
「これね、経験値SDっていって、みんなが強くなるデータが入ってるみたい。
……へえ~! なんだ、便利アイテムじゃないか」
「でもね、パーティーにいるHANOIには効果がないみたいなんだ」
「え、そうなの?」
「それで、3人は経験値がもらえないってことになるみたいなんだ。
強くなったら、ケガが減るだろうし、みんなも嬉しいでしょ? ……でも、みんなデータ上では同じくらいの強さだし、誰かを選ぶっていうのがどうしてもねー……
「なんだ、そんなんで悩んでたのかい! おーい、みんなー!」
 アダムスの呼びかけで、なんだなんだとHANOIたちが集まってきた。

「え、何? レベルアップ? お得感あっていいわね! 体力も付くかしら?」
「パワーアップアイテムってやつね! すっごく魔法少女みたいじゃない?」
「こ、これを使えばたくさんお役に立てるッスか!?」
「お、俺にいただけるのであれば活躍をお約束します!!!! いやしかし、安全にというのはな……仲間を優先するべきか……? ……どうあろうとも、俺に異存はありません!!」
「! !!」
 クレヨンはぴょんぴょん跳ねているせいで何を言っているのか読めない。
「クレヨン、着席」
 ナナシにいわれてしゃがみ、ようやく文字が読めるようになった。
『つよくなるして おてつだい したい! でもたりない? ならがまんできる』
「ああ。なんだよ。いいって。宝の持ち腐れでしょ。……俺はいいですよ」
「うう……
「Monsieurブラウン……全ての料理を一枚の皿に載せることは出来ない。選ばなくてはならない……構わない。采配を、悩む時間にこそ価値があるのだ」
「ラクをして結果を得るのは良いことなのだぞ。要領が良い、というのだ」
 HANOIのみんなは、思ったより乗り気のようである。
 どういう仕組みなんだろう、とコーラルはちょっぴり考える。勝手に強くなるのって結構怖いんじゃないかな……と思っていたがそこはHANOIたち、とくだん抵抗はないらしかった(バーチャルだからというのもあるかもしれないが)。
「うーん……それじゃあ、くじでどうかな? あたりが7本、外れが3本で……
 やっぱり使わないのはもったいないし、それで防げた事態があったら仕方がない。コーラルは意を決した。
「わたしはいいかな……
「あれ?」
 メリーティカは髪の毛の先をくるくる丸めながら言った。
「遠慮してるのかい、メリーティカ。いいんだよ」
「うーん、そういうわけじゃないけど……
 ナナシがちらっとメリーティカを見た。
「いいじゃないですか? じゃあティカと俺と……ジョルジュでどうすか、あとのみんなでヨロシクってことで」
「ナナシ、いいのか……!?」
「ええ。構いません」
 それで、平和に決まりかけたころ――
「待て。それでラクをしたら、つよくなったぶん監察官が構ってくれなくなるのではないか?」
「え?」
 ノロイが言った言葉で、事態は再度硬直した。
「ええ。それはも、盲点だったッス! なんたる罠アイテム……!」
……!』
 クレヨンがぽろっとスケッチブックをおっことす。
「あーあー……せっかく黙ってたのになぁ」
「あ、メリーティカ、それで!?」
 メリーティカはうつむいて監察官の袖を引っ張った。
「いやあ~。まさか監察官ならカップヌードルみたいなお手軽さで強くなったからって僕たちを放っておくなんて薄情なことしないよ! そうだよね?」
「し、しないよ」
「あやしいのだ……ノロイは連れていってもらうのだ」
 結局、くじで決めることになった。……ラクして強くならない権利。当たりくじが3つである。