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頻子
2021-07-15 12:28:50
1849文字
Public
TOH二次
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遺産
サイン貰えたナナシ!油断するな
夜の木2nd(サイン貰えたけど庇われて死ぬナナシのコーラル・ブラウン死ネタ)
ナナシ。
君は、あの紙さえあれば、全て叶うと思っていたね。
コーラル・ブラウンに『相対死同意書』にサインして貰った日を、君は忘れることはないだろう。几帳面に分けられた年月のログファイルのなかでも、ひときわに容量(サイズ)をとっている。
コーラル・ブラウンがさらさらと走らせたペンの筆記音。逡巡でできたインク溜まり。
「書いたよ」と言われて、君は天にも昇る心地だった。最後に少しためらいを残して紙からペン先が離れる。
コーラル・ブラウンは、ひどい環境から君を救ってくれた恩人だ。マフィアと本社を出し抜いて、君を地獄の底からすくい上げた。君は、持ち前の執念深さで
――
コーラル・ブラウンに報いると誓った。どんなときでも側から離れないと誓った。
君が望んだ『相対死』というのは、持ち主が死んだ場合に、所有のHANOIも廃棄するという、ひどい制度だ。
HANOIの人権活動を経て、少しばかりマシな制度になった。
すなわち、相対死をさせるには、HANOIの「同意」がいるということだ。
死に場所を選ぶ。
つまり、コーラル・ブラウンの最後を、自分の終わりに定めること。それは君にとっては大切なことだ。
彼が君に「側にいて欲しい」と言ったのは、もちろん、死んでからも、ついてきて欲しいという意味ではなかっただろうけれども、君はすでに心を決めていたね。
コーラル・ブラウンが先に死んだ場合、君はあとを追いたかったのだ。
もちろん、君の方が早く壊れてしまった場合は(きっと、酷使されていた君にとっては、その公算が大きいだろう)、彼の方に来て欲しいとは思っていない。
……
いや、君はきっと、死後の世界なんていうのを信じてはいないのだろう。このひどい世界に、ひとりで残されるのがいやなだけだ。だから、自分が先に壊れてしまった場合は、考慮に入れなくてもいい。
……
ちょっとは惜しんで貰えるといいな、とは、思っているだろうけれど。
相対死について、話し合いは、いつも平行線をたどった。
ついに、いやだとは言われなかったけれど、ずっと「また今度にしよう」と言って、彼は逃げる。「いつまでも待ちますよ」と答えたけれど、本当のところはいつこの話は無しにしようと言われるか、気が気ではなかった。
だから、サインを貰ったとき、君は「許し」を得たと思った。
これさえあればずっと一人になることはない。そういう約束をしたと思っていたね。
あの日は、きれいな夕暮れだった。
HANOIの保護活動の一環の講演会を終えたあとのことだ。
席はほとんどが埋まっている。
数十年活動するにつれて、ずいぶんと話に耳を傾けてくれる人も多くなった。
もちろん、全てが全て、肯定的な反応とはいかないけれども、とにかく、「HANOIの人権問題」は、無視できない脅威になりつつあった。
はじめはちっとも相手にしなかった連中も、コーラル・ブラウンの存在を、ついには無視できなくなったんだ。
そういう予感をしていたからこそ、君は約束が欲しかった。
君は用心深く、万が一の備えは大切だ。
だから同意書が欲しかった。
それさえあれば、ひとりきりになることはないはずだった。
けれど、変化は急すぎた。
HANOIをこき使いたい人間はいくらでもいたね。
連盟の手先に銃を向けられて、コーラル・ブラウンは咄嗟に君を突き飛ばした。
皮肉なことに、コーラル・ブラウンに銃を向けたのは、ストッパーを外されたHANOIだった。
もちろん、君は、咄嗟に庇おうとしたけれど、彼は言ったんだ。
「動かないで」
数十年の間、彼が君に命令したのはたった一度きりだ。その命令のせいで、だんだんと冷たくなる彼の手を握り返すこともできなかった。
硬直したように身体は動かない。
また、二度の銃声が響いた。
君はコーラル・ブラウンにとって、HANOIであることを忘れそうなくらいに対等で、お互いに尊敬できる親友だった。親友という型に当てはめて良いのかは分からないけれど、とにかく、かけがえがない存在だった。誰とも取り替えがきかないパーツだったね。
あの日の君は、一生のお願いが、所詮は気休めの紙切れに過ぎないと思い知った。
コーラル・ブラウンは、咄嗟の時には君をかばうような男だったし、だから君は彼が好きだったんだ。
さあ、ナナシ。
君の手には一枚の紙が残されている。
正当な君の権利で、君が心から望んだものだ。
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