頻子
2021-03-12 00:26:57
1245文字
Public TOH二次
 

俺の施設長のようすがおかしい

ナナシT1のアレ

俺夢HANOI、いつもにこやかに「何か困ってることはないかな?何でも言ってね」って言ってくる施設長が急にある日から「何でもというわけにはいかないけれども常識的な範囲で出来ることならそれなりに頑張るよ」って言い出してすごくえ、何……?ってなってる

 HANOI保護センター、TOWER of HANOI。
 俺は、この場所のおかげで救われたHANOIのうちの一人だ。
 いちどはひどい職場でメンタルが死に、人間不信に陥った俺だったが、危険値を優に超したストレス値はほわほわ施設長との交友のおかげですっかりなりをひそめ、今では新しい職場で毎日お仕事大好きウキウキステップを踏んでいる。
 俺は、この場所と施設長がいっそう大好きだった。
 いつもにこやかな顔で挨拶をしてくれるし、一人一人名前を呼んでくれる。HANOIに対してこれほど温かい人は他に居ないだろう。
 いつもほんわりした笑顔で、「何か困ってることはないかな? 遠慮しないで何でも言ってね」と言ってくれるのだ。
「あ! 君!」
 今日も俺を見かけて、わざわざ声をかけてくれる。
 そう、こんな風に……
「元気そうで良かった! 何か困っていることはない? 何でもというわけにはいかないけれども常識的な範囲で出来ることならそれなりに頑張るよ」
 俺はぽかんとしてまじまじと施設長を見る。
「あ、違うんだ! ごめんごめん」
 施設長はぱたぱたと両手を振る。
「ええとね、命に関わらないことなら……というか……うん……公序良俗の範囲? なら、僕も全力を尽くすから、困ったことがあったら何でも言ってね」
 施設長……!?
 いったい、その留保はなんなんだ。
 まるで取扱説明書の免責事項のようなそれは、いったい何に対しての予防策なのだろうか。
 まさか、誰かに脅されているのだろうか。
 やれと言われればなかなか断ることのできないつらさは、HANOIなら誰しもよくわかっているはずだ。きっと施設長も、断れない側の人間なのだろう。よく仕事の合間に息抜きと言ってはバーガーだかウーバーだかを配達している。
 秘書用HANOIは欠伸を噛み殺したような仕草をした。
 お前が見てやらないでどうするんだ、と圧を込めたが、ぜんぜんこたえてなかった。若干の圧を込めてはいるが、顔がおっかないのでそれ以上何も言うまい。
 施設長は再び、またほわっとした笑顔に戻る。
「今日はどうしたの? ……何かあったわけじゃないよね?」
 そうだった。俺はいそいそと懐から本を取り出した。
 ほわほわ施設長はほわほわなりに偉い人なので、いくつか本も出している。新しい本が出たときにはこうやってサインをして貰うのが俺の楽しみだった。またサインが欲しい、というと施設長は硬直して本を取り落とす。
 施設長は、いったいどうしたんだろうか。本当に具合が悪いんじゃないだろうか、というと「いやいやいやいや……」と言って、本を拾い上げてくれた。
 おっと、ペンがない。……と思えば抜け目なく秘書が渡してくれる。応援しています、というと、施設長はすごく微妙な顔をされる。
……ありがとう!」
 一瞬の間があってからの握手だ。
 なんなんだろう、その間は。俺の施設長はいったいどうしてしまったんだろうか。秘書用が咳払いをした。