頻子
2021-03-07 02:38:30
3918文字
Public TOH二次
 

ドローン1号機と2号機の仲が良い

コーラルさんがローランドさんと
ドローンを介していちゃつくな
私はローランドさんのときの監察官はちょっと小悪魔だと思います!!!

 飛び上がった戦闘用ドローンは、ホバリングしながらゆっくりとあたりを見回した。生まれたての世界を目一杯吸い込むように、カメラをぐるりと一周させた。
「やった……!」
 難なくドローンを起動できたことに、監察官はぱあっと笑みを浮かべる。ローランドは深く頷いた。
「流石です、監察官! やはり機械にはお強いようですな。……それではそのまま着地命令を出してください」
「ええと、こうかな?」
 監察官はローランドの助言に従い、パソコンを通じてドローンに簡単な命令を与える。
 ドローンのプロペラは、ゆっくりと動きを緩めた。ランディングパッドに向かって、ドローンは慎重に降下していった。瞬間、少し強い風が吹いて、二人の前髪を揺らした。
 そして、静止する。
 命令を待ち受けるかのようにこちらを見据えているように思えた。
「いかがでしょうか」
「うん、これで僕ももっと君たちの役に立てるはずだね」
……!」
 監察官が何気なく言う姿に、ローランドは心を打たれる。
 もっとこの人の力になりたいと思うのは職務を超えた個人的な部分に違いない。
「帰ったら、もっとドローンの操作を教えてもらえるかな?」
「はい。お任せください! 1号機とともに、俺もお役に立って見せますよ!」

 崩壊しかけた塔を、二台の軍事用ドローンがすいすいと登っていく。もう既に溶解されている塔の敵は、手強いとはいえない。
 HANOIたちほどの高性能のものではないが、ドローンたちにもAIが搭載されている。戦闘は、学習を積み重ねて最適化されていくはずだった。そのための試走だ。
……これが上手くいけば、第三の塔に向かう予定だ。そして、それが済めばシューニャを……
「それにしても、僕が軍事用ドローンを操作できるようになるなんてなあ……
「ものは使いようですよ」
 ローランドの操作するドローン1号機は、ローランドの指示に従い、危うげなくターゲットに接近する。一方で、監察官の操作するドローン二号機はまだ動きがこなれていない。
「ドローン、攻撃できる?」
 一号機の勢いに押されて、二号機は遠慮がちに上空をぐるぐると回っていた。シルエットだけ見れば二台はよく似た見た目ではあるのだけれど、動きだけでどちらがどちらかわかる。吹き飛んだ敵の衝撃につられて、二号機はよたよたと凧のように揺れた。
「うわ、風に煽られちゃった……
……司令官、もっと接近させて大丈夫です。こいつらは自動で衝突を回避しますし、軍事用はそれほどやわではないですよ。ここで遠慮していては、余計に危険というものです!」
 ローランドは、監察官にドローンの接近命令を促した。一号機もコマンドの了承を返し、ずいと二号機のために場所を空けた。
(ふむ……
 ローランドの忠実なドローンである一号機は、なんだか張り切っているように見える。いや、錯覚だろう。最適を演算して出力しているに過ぎない。
 二号機が見事に接近し、一斉掃射を行った。クリティカルではないが、牽制できればいい。もうもうと上がる土煙と舞い散る0と1の破片。
……よし!」
「その調子です! まだ、油断せんでください! 行きますよ!」
 まだ強くなれる、そう思いながらもローランドはひとまず可を与える。
 監察官はパソコンに手を伸ばし、ローランドは火炎放射器を構える。監察官が支援に徹して、ローランドが敵を一掃するのがいつもの戦い方だ。
「下がっていてください、監察官!」
 ドローンを操作している時。ほんの少しでも同じ光景が見えた気がして、ローランドはこの上ない充実感を得ていた。

 出撃の前と後には武器を点検する必要がある。ドローンの整備が二人の日課となりつつあった。ローランドが実弾を抜き、武装を外してから監察官に渡す。すると、コーラルが丁寧に乾いた布でドローンを磨き、エアダスターを吹き付けるのだ。
 服が汚れないように監察官の上着と監察官の証はハンガーにかかっていて、それがなんとなく個人的なものを感じさせるので、ローランドはそわそわそ落ち着かない気持ちになる。一言でいうなら、たぶん好ましいものだった。
「しかし、別に俺にすべてお任せくださってもいいのですが……油で手が汚れますよ? といっても聞き入れてはくれんのでしょうなあ、貴方は……
 この忠告ももう何度目かだ。お決まりのものになっていて、監察官がうんと言ったことはない。
「武器の整理整頓だって監察官の仕事だよ。よしよしドローン、たくさん働いてくれてありがとうねえ~~」
……はあ」
 膝の上で撫でられているドローンを見つめていると、ローランドはなんだか妙な気持ちになる気がする。ローランドの傍らで、一号機がちかちかとお手入れランプを点滅させる。
「あ、こら、お前は俺が拭くんだ! 甘えたことを言うな。俺にそういう優しさを期待するなら大間違いだぞ!!」
 しゅん、と項垂れたように一号機のランプの明滅は止まる。
「ローランドはドローンがなんて言ってるか分かるんだね?」
「ああいえ、なんとなくですよ?」
「いいよ、一号も拭いてあげるよ。おいでおいで」
 監察官はぽんぽんと膝を叩く。
「ぐっ……
「ダメなの?」
「もちろん構いません! 助かります! が、個人的にはなんだか、嫌、いや……嫌というわけではないのですが。司令官殿、手ずからというのはですね……立場をわきまえていないというか……ずるいでしょう!?」
「そうかあ。そうかあ……。あ、ローランドのほっぺにも汚れがついてるよ」
「っと。お見苦しいところを……
 ローランドが監察官は布をきれいなものにもちかえると、ローランドの頬をぬぐった。
「ちょっと、それはあまりに……
「ごめんね」
 と言いつつもやめる気はないらしく、一号機を引っ張ると新聞紙の上に置いた。一号機は膝に乗せるには少し重いのだ。呆然としていたローランドの思考回路は再起動を果たし、手元に戻ってきた。
「そうです……本気で嫌だったら俺は避けられますよ。ええ! ご命令されればそうもいかんでしょうが!」
「命令はしないよ」
「避けませんよ俺も」
 ひととおりの校正(キャリブレーション)が終わったところで、ローランドは戦闘ログを確認する。
「ふむ……
「どうだろう?」
「まだ、改善の余地ありですな。二台ある割には……発揮された効果は、期待値ではありません」
「そっか」
 二号機を気遣って、一号機のパフォーマンスが明らかに落ちているようだ。これまで一台で稼働してきていたのだから積み重ねたものがそういう学習となっているのだろう。
 とはいえ、二台編成はそれを補ってあまりある力ではあった。
 二号機のログでは、二号機を別の場所で運用することが推奨されている。しかし、一号機の解析結果は、「さらなる学習が必要です」という示唆にとどまっていた。
……特訓あるのみです。こればかりは慣れですからなあ」
 ローランドがしみじみと言った。
「いいか、二号機! あまり一号機の足を引っ張るようだと鉄クズだぞ! しっかり運用してもらいたくば、きびきび動けよ!」
「うーん、なんていうかローランドは、身内に対しては、結構ビシッとなるようなことを言うよねぇ……?」
「! あ、いや、すみません。監察官殿のドローンに……
「ええ、いや!? ちょっと羨ましいなあと思っただけだよ!」
「え、は?」
「こう、喝を入れて貰うっていうの、僕、あんまりこれまでの人生で無かったから、ちょっと憧れがあるよね」
「そ、そうですか?」
「この年になると、あまりきびしく怒られるなんてこともないから……
 ローランドは視線をしばらくさまよわせていた。監察官は、手入れに戻る。
「ゴホン。……きびきび! 動けよ!」
「?」
 監察官はぱちくりと瞬いた。
「すみません……
 何もしないでいると、ローランドは小さくなっていった。
「あ、言ってくれたんだね! 無理させてごめんね!? ストレス値、上がってないかな? ちょっと測ってみようか」
「すみません……はあ、いや、なさけない」
 ローランドは静かに腕を差し出す。
「今朝から若干あがってはいるけど、まあ、通常の変化の範囲内かなあ……うーん……
「雑談とは難しいものですなあ……

 数度かの戦闘訓練を積むと、ドローン一号機の動きはずいぶんとこなれたものになってきた。
「庇うなどとは考えるな。一号機の方が頑丈だ! 自分のことだけに集中しろ!」
「ははは……耳が痛いなあ」
「あ、いや、別に監察官のことではありませんが! 二号機、一号機と同じ動きができると思うな! 後継機のお前は軽量だ。その代わりに小回りが利くはずだ!」
 ローランドの叱咤を解析し、二号機の軌道はしっかりとした直線を描いた。戦闘ログを解析する監察官はぱっと顔を輝かせる。
「うん、だいぶ改善されたみたいだね!」
「しかしあれは目に毒といいますか……仲が良すぎるのではないでしょうか? なんだこの提案は……充電ドックを隣に設置する必要がありますか?」
「でも、情報交換のためにはその方がいいみたいだね? たしかに、ドローン同士で蓄積データを交換したら精度は良くなるし、いいことだと思うけどな」
「確かにそれは大事だとは思いますが……いやしかし……時代か……?」
 ローランドはしきりに首をひねる。まあ、いいか。いや、よくはない。流されてはいけないような気がする。よくはないということを伝えるとドローンたちは不満そうにちかちかまたたいた。