頻子
2018-11-25 21:31:37
1479文字
Public その他こまごました二次
 

チャーリー・ノヴァに寄せて

2064: Read Only Memories (リードオンリーメモリーズ) エンド後の二次創作 
主人公とチューリングが正月にしんみりだらだらしている

 何故だか自分はクイズ番組の回答席に座っていて、職業はタクシー運転手だと名乗った。目の前にはチャーリー・ノヴァがいて、カメラの向こうに白い歯を見せて笑った。
「さあ、最期のクイズだ! これに正解すれば、君はセレブへの階段を一歩上がることになる!」
 チャーリー・ノヴァの言葉は、もちろん自分ではなく周りの観客に向けられている。
 これで一段となると、ずいぶんとセレブへの道のりは遠いらしい。
 クイズは4択。スクリーンには、「チャーリー・ノヴァの母親の旧姓は?」と表示されていた。こんなのわかるはずがない。
「ハーイ! これまでの話をよく覚えていれば、きっと正解できるはずだよ」
 チャーリー・ノヴァが笑顔を振りまいているせいで、なんだか自分の記憶力の責任になった気がする。選択肢の一つは、チャーリー・ノヴァが箱をひっくり返した猫の名前だ。だが、あとの三つは……
「どうすればいいと思う、チューリング?」
「ええと、分かりません。それが人生かも知れませんね」
 自立思考型ロボットはもっともらしいことを言った。
 そうしている間にあっけもなくカウントダウンは進んでいく。適当に押すかと回答ボタンを押すと、回答ボタンは強い意志を持って自分の決断を跳ねのけた。
「くそっ」
「ああ、そうとも」チャーリー・ノヴァの顔が剥がれ落ち、デッカーに変わる。「人生に答えなんてない、そうだろ?」デッカーは我々に銃を向けて……

***

「大丈夫ですか?」
 事態に反してやけに呑気な声は、夢の中ではなく現実から聞こえた。チューリングが布団越しにお腹の上に乗っかって、心配そうな顔でこちらを見ている。
 何かを思い出しそうな光景だ。
 目覚まし時計を見ると、今日は1月1日だった。あの事件から、もうずいぶん時間が経った気がする。意思を持ったROMたちのいくばくかは、正月は仕事をするべきではないと考えていて、そのせいで町はひときわに静かだったとレクシーが言っていた。
「世界的セレブが初夢に出てきたときの運勢はどうなんだろう、チューリング?」
「ええと……正確には、初夢は、1月1日から1月2日にかけてみるものとされています。だから、そう気を落とさないでください」
 ということは、チャーリー・ノヴァはチューリングにとって悪い夢なのか。いや。死人が夢に出てくるのはあまり縁起が良いとはいえないのかもしれない。
 チューリングは一連の騒動での犠牲を、ともすれば人間の自分よりも気に病んでいるように思える。トムキャットもそうだ。自分はちょっと冷たいのかもしれない。
 テレビをつけると、どのチャンネルも等しくチャーリー・ノヴァの死について報じている。クリスマスを過ぎてやや落ち着いてきてはいたものの、チャーリー・ノヴァの影響力は計り知れない。
 なんだかテレビを見る気にもなれず、どっさりVRじゃないドラマを借りてきた。正月を怠惰に過ごすにはいいだろう。海から上がってきた巨大な怪獣が、3度目の爆発に備えて点滅を繰り返す。
「これ、面白いのかな」
「私は芸術的だと思いますよ」
 どうやら、チューリングにはこのドラマの機微が分かるらしい。ビルに映し出されたチャーリー・ノヴァのスクリーン広告をみつけて、早送りのボタンに手をかけようとすると、チューリングが申し訳なさそうに止めた。
「心配しないでください」
 もしかすると、反応したのは提供の「パララックス」の文字だったかもしれない。けれど自分たちは真意を確かめることはなく、ただ面白いか分からない画面をじっと見ていた。