頻子
2018-10-23 23:33:09
2199文字
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同窓会したいよね

ハッピー! ネヴァジスタで都合の良い同窓会。

無理だろうな。無理だろうなあ……とくに久保谷くん……。なんか気がついたら姿消して疎遠になってそうだもんな……。頼むみんなの個別エンドをまとめて幸せな方向のままこう上手い感じであれそれ……やりくりを……。

「マッキー、こっちこっち」
 駅前には久保谷君と茅君がいて、改札をくぐる僕を迎えてくれた。茅君は背が高いから、人込みの中でもすぐわかる。
 今日は成人式の日の、次の週の日曜日だ。誰ともなしに企画された飲み会は、いつの間にか、幽霊棟を卒業したみんなが集まる同窓会になっていた。
「お久しぶりです」
「久しぶりだね」
 茅君はちょっと間をおいて、礼儀正しくお辞儀をした。それからどうしたらいいか分からないようにこちらを見る。
 手を差し出すと、黙って握手をしてくれる。久保谷君は左手で僕の手を、右手で茅君の手をとって上下に振った。
「あはは、なにこれ」
「意味が分からないのですが……
「分からない」
 茅君は困惑していたが、嫌そうではない。僕と久保谷君は、顔を見合わせて笑った。

「大きくなったねえ」
「別に、変わりませんよ」
「へへー」
 途中で白峰君と合流することになっていたが、白峰くんは、駅前で女の子に囲まれていた。
「ごめんごめん、連れがいるから」
 白峰くんは、ゆったりと手を振って女の子たちと別れる。
「もったいなくない?」
「メアドもらったから」
「なんか……良いお店だね」
 僕はたどり着いたお店が、思ったよりも上等な店だったことにびっくりした。狭いビルに入って、エレベーターに乗ってという過程を想像していたのに、結構良い感じの居酒屋だ。
「ここ、鰻がおいしいんだって」
「鰻?」
「茅サンの好物」
「そうだったの?」
「まあ……どっちかと言えば好きですね」
「どっちかと言わないとどっち?」
「好きですね」
「なんと清史郎のお兄ちゃん推薦」
 その名前を聞いて、僕は咄嗟に顔をしかめたみたいだ。久保谷君が笑った。
「あっはっは、嫌がってるマッキー」
「清史郎も来るって言ってましたよ」
「清史郎くんは別に嫌いじゃないよ! 大好きだよ!」
「好き」
「俺も好き」
「はい」
 屈託なく頷く彼らを見ていると、僕は本当に幸せな気持ちになる。いろいろあったけど。いろいろ、でまとめるにはつらいことや、悲しいこともあったけれど、僕らは自分の足で立って歩いている。
「あれ? それじゃあ、津久井君も来るの?」
「来ないって言ってた。清史郎が連れてくるって」
「じゃあ、連れてくるんじゃない」
「来そうだよね」
「来るでしょ」
「人数分の予約は入れておきました」
「茅君、抜かりないね」
「よお! 槇原!」
「きたの」
 店の中にはいると、辻村君がビールの入ったジョッキをあげた。和泉君は、下を向いてスマートフォンをいじっている。意外にも彼らはうまくやっていたらしい。
 酒を飲んでいる様子を反射的に咎めそうになって、笑う。彼らはもう二十歳だ。
「槙原はほどほどにしとけよ」
「あはは、そうするよ。生徒の前だからね」
「和泉君は何を見てるの?」
「エゴサ」
「エゴサ?」
「煉慈の」
「俺かよ!」
 辻村君は、この前また本を出した。なかなか売れているらしいと聞いている。
 しばらく座って、一通り注文を取られると、辻村君がそわそわとしだした。
「やめといたら」
「ちょっと、レンレン、あれ本気だったの?」
「先生が嫌がるわけないだろ」
「なになに?」
「プレゼント」
「ばらすなよ! あー、ほら。やるよ!」
 辻村君がくれたのは、辻村君の新作の小説だ。
……あー、いや、あはは」
 言葉を濁すと、辻村くんが怪訝そうな顔になる。急に不安そうな顔だ。僕は慌てて鞄を探ると、茶色い袋を取り出した。
「二冊目になっちゃった」
「マッキー、買ったの?」
「本屋で見かけたから、ついさっき……。なんだか嬉しくなっちゃって。すごいよ、山積みだった」
「売れてねぇみたいな言い方すんなよ。二冊もどうすんだ」
 と言いながらも、辻村君の頬は分かりやすく紅潮している。
「サインしてあげれば?」
「オークションで売れるよ」
「さっちゃんったら!」
「そんなことしないよ」
「宛名書いとくからな。転売したらぶっ潰す」
「二冊もどうすんの、マッキー。彼女にあげる? 彼女とより戻した?」
「あはは……
「ダメそう」
……うん、まあ、一冊は学級文庫にしようかな。それで自慢するの」
「へへ」
「っていうか、サインペン持ってるの」
「マッキーじゃんマッキー」
「先生大好きかよ」
「うるせえよ」
 慣れた様子で、辻村君は本にサインしていく。その様子をみんなが面白そうに眺めていた。
「へえ」
「うっわ、煉慈。まじめ」
「つまんな」
「ねえ、俺たちもサインしようか」
「おい、やめろって……くそっ、片方だけだぞ、落書きしていいのは。一個はきれいな状態にしろ」
「レンレンどっちにもサインしてるじゃん」
「著者のサインはいいんだよ」
 みんなのいたずらで、まるで寄せ書きみたいになった本の真ん中に。辻村君の丁寧な字で『槙原先生へ』、と書いてある。
「へへ……
 それが嬉しくて、僕は無限にニヤニヤ笑ってしまう。辻村君もにこにこ笑っていて、僕の背中を軽くどついた。はずみで、僕は笑ってしまった。
 5人の名前。各々の落書きには、スペースが一つ空いている。
 そしてその空白はすぐに埋まるだろう。一人はとても積極的で、もう一人は手を引かれてやってくるはずだ。みんなの期待に応えるように、元気よく個室の扉が開いた。