頻子
2018-07-09 22:38:18
3690文字
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サレオスさん転生おめでとう!

サレオスさん転生日おめでとう!!!!
ただただアジトでわいわいしているところのお話。
メギドの日のイベント最高でした!!!!!!!!!!
サレオスさん!!! 好きだ!!!


 梅雨の宿題をすべて片付けるように一気に降り注いだ豪雨は、七夕の昼頃になってようやくなりを潜めた。
 それから数日もした頃には、すっかり天気は晩夏となっている。
 久しぶりの快晴だった。
 屋根の上からでも、湿り気を帯びた草の匂いが漂っている。
 嵐で吹き飛んだアジトの屋根をどうにか自分たちで修理しようと、追放メギドの何人かは、アジトの屋根の上、青空に一番近い位置にいた。
 ブネは朽ちた板材を屋根から引っこ抜き、脇へと置いて汗をぬぐった。じりじりと焼けるような暑さだ。
 空を見上げれば、不吉な赤い月はもうどこにもなく、ただ照り付ける太陽だけがこちらを見返している。
「結構やられちまってるなぁ」
 イポスは剥がれた屋根の板の隙間をこじ開けてみた。朽ちているから、取り換えた方が良いだろう。
 空いた穴からは、ちょうど食堂の様子が見える。人影が、せっせとあちこちを行き来している。
 力仕事に向かないメギドたちはメギドたちで、溜まった洗濯やら、その他の雑事やらで忙しい。
 食堂の中央付近では、モラクスが椅子にもたれかかってぐったりと休んでいる。屋根の修理のための木材を伐採し(なんたってアジトには、潤沢な資金というものはないわけだから)、運んできたのはモラクスである。
 きつい仕事を終えた後なので、文句を言うものは誰もいない。……かと思えばフラウロスが後ろからそろそろと近づいていき、イポスとブネが声をかけるまもなく、思いっきりモラクスの座った椅子の背もたれを引っ張った。
 椅子から転げ落ちたモラクスは当然怒り、フラウロスを追いかけようと立ち上がる。屋根の修理が行えない間、雨水をけなげに受け止めていたバケツが、びしゃりとひっくり返る。
「あーあーあー……
 フラウロスはげたげた笑って、モラクスがさらに怒る。机を盾にして追いかけっこが始まった。
「おぉい、直したばっかりだ! 壊すんじゃねえぞ」
 イポスが屋根の穴から呼びかけると、二人は一瞬ケンカの手を止めて、なぜか同じタイミングでやべえと言う顔になった。やたら息がぴったりだったので、ブネはくわえていた釘をぽろりと落としかけ、慌てて片手で受け止める。
 小さい穴からは転げ回る二人は、穴からでは視界の隅に行ってしまってもう見えないが、それでもやたら元気な物音だけは聞こえてくる。
「どれ、こののぞき窓はなかなかもったいないが、また雨漏りしたら台無しだからな。新しいのに張り替えよう」
 サレオスがひょいと金槌を片手にやってきて、てんてんと板を打ち付けていく。
「手慣れてるな」
「舟の修理で慣れてるからな!」
「オマエも災難だな、こんな日に屋根の修理とは」
「ああ、ま、せっかくの晴れだ。おとといだって織り姫さんも彦星さんもぎりぎり間に合ったろうさ、いいんじゃないか」
「あ? ああ、……そうだな」
 ブネの奇妙な沈黙に、サレオスは妙なかみ合わなさを感じた。だが、とりたてて追及するほどのことでもない。しばらく無言で金槌を振るっているうちに、ふと思い出したことがあった。
 そういえば、今日は自分の転生日というやつだ。

***

 秘密というのは、知るものが多ければ多いほど守られないものだ。そして、アジトもこれほどの大所帯となってくると、そんなものはあってないようなものだ。
 しばらくしているうちに、サレオスは、どうやら、ささやかなサプライズパーティーをしようとしているらしい気配に気がついた。
「おっつかれー!」
 屋根の上でのひと一仕事を終えたところに、ストラスとゼパル、そしてハルファスがやってきた。偶然を装ってはいるものの、なにやら企みを隠し切れていない、そわそわした気配がある。
「よお、掃除は終わったのか?」
「ばっちりばっちり!」
「お前さん、そんな服で掃除なんてしたら、汚れちまわないか?」
「だって一番あたしが好きだし、楽しいんだもん! っていうか、イポスも暑くないの?」
「傭兵だって、身なりには気を使わなくちゃな」
 きゃっきゃと帽子をかぶせたり被せ合ったりの茶番があってしばらくして、本題を切り出したのはストラスだった。
「あの、サレオスさんってすごく落ち着いてますよね?」
「ん? そうか?」
「いくつから舟頭さんをやってるの~?」
「そうだな、18のころくらいからか」
……
……
「?」
「ほら、ハルファス!」
 ハルファスが、ゼパルに肘でつつかれて口を開く。
「えっと……、サレオスさんは、舟渡しの仕事をしてどのくらいになるの?」
 どこかしら棒読みな語調にシナリオの存在が見えて、3人は思わず吹き出しそうになったが、なんともなしにこらえる。
 年の甲というやつだろうか。
「そうだなあ、もう7年くらいかなあ」
「ふーん……ありがと! じゃあね~!」
 それから後ろから、極限まで声を潜めたらしい、「26だって!」と密談と呼ぶには小さいゼパルの声が聞こえてくる。
「あれだな、俺は予言に目覚めた気がするぞ」
 イポスがにやにやと笑みを浮かべている。
「なら俺もだ。今日のデザートには、26って書いてある気がするな」
「さあて、どうかな」
 ブネが軽くサレオスの背を叩いた。
 なにはともあれ、気が付いていないふりは続行と行こうと決めた。とりあえず、26として。

 アジトでは、転生日というのは意外とおおっぴらに祝われるわけでもない。
 タイミング良く平和かどうかというのもあるが、なにもアジトで世界平和のために戦っているのがメギドたちの生活のすべてというわけでもない。
 特別な日ともなれば、家族や友人のもとに帰るメギドも多いのだ。
 そして、そうでない場合は、あまりおおっぴらに騒がれるのが嫌だというメギド達も多い。
 もっとも、サレオスはにぎやかなのは歓迎するタイプだ。宴のきっかけは何でも良いし、みんなが楽しそうならなお良しだ。
 別に、好きにやってくれればよいとは思っているのだが。

 どんなメギドであっても、転生日の周辺に夕食が少し限り豪華になるのは避けられない。「何か食べたいものはあるか?」に「何でもいい」と口にすれば最後、「何でもって何なの?」「それが一番厄介なんだよね……」と(理不尽に)怒られる羽目になる。
「今日の晩飯ってなんなんだ?」
「ん……おにぎりよ」
 フルフルが眠たげに答えた。
「ここは足りてるから、手が空いてるなら別のところに……ふああ……行くといいわよぉ」
 とりたててメニューに注文を付けた覚えはない。サレオスは首をひねりながら、何か聞かれたか、何と答えただろうかと記憶を手繰り寄せていて、ふと、数日前のアンドラスとの会話に思い至った。
「丸と四角と三角、選ぶならどれがいい?」
「なんだそれ。心理テストか?」
「深い意味はないんだ。ピンときたものを選んでくれ」
「そうだなあ、今日は三角だな」
「三角か」
 それで、握り飯か。ぽんと合点がいって、なんだかおかしかった。たしかに三角だ。

「ただいま!」
「おう、戻ったぜ」
 しばらくあれやこれや手伝っているとソロモンとともに、遠征組が帰って来た。
「なんだ、今日はずいぶんにぎやかだな」
 1,2,3,4,5。仲間が帰ってくると、なんとなく無意識に数えている。ソロモンと5人、きちんといる。
 無事は良いことだ、と、サレオスは頷いた。
「そういやテメエ、今日は転……
(おっと?)
「ガミジンさん!」
 マルコシアスがすんでのところで叫び、ガミジンはずりずりと部屋の奥に引っ張られていく。
「オイ、引っ張るな!」
「サプライズなんですよ! 人の楽しみを奪うのは、悪ですよ!」
「いや、お前の声の方が大きいだろ……!?」
 アンドレアスフルが肩をすくめて、几帳面にガミジンがはずみで落とした武器を拾った。
 奥からは、相変わらずガミジンとマルコシアスの言い争いの声が聞こえてくる。
「っていうか、よく人の転生日なんて覚えてましたね!」
「あれだろ、成人組の転生日ったら、酒だろ」
「同感だ」「最低ですね!」
 アンドレアスフルとマルコシアスが同時に言った。妙に合わないコンビだ。
 最後にやってきたガープが扉を閉めることで、ようやく声は小さくなった。
 しばらくすると、心配そうな顔をしたゼパルが顔を覗かせる。
「聞いちゃった?」
「ん? いや、ちょうど考え事をしていたからな……なんだったか?」
「ならダイジョーブ! なんでもなーい!」
 サレオスがとぼけてみせると、ゼパルはぱっと顔を輝かせ、騒々しくひっこんでいく。一行のあとからゆっくりとやってきたダンタリオンが、にこにこと去っていくゼパルを見送っている。
「うむうむ、若いもんに気を遣うのも年長者のつとめじゃてのう……今日の夕飯は、余分なスペースを残しておいた方がいいかもしれん」
「だなあ」
 甘いものは好きでも嫌いでもないが、みんなで食べるのは悪くない。ちょっと散歩でもしてくるか、と立ち上がった。