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頻子
2017-10-31 20:17:19
6587文字
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『幽霊を信じるか?(TES5)』
ミステリー風味ホラー。
※Interesting NPCs (Skyrim 非公式MOD)に登場するキャラクター、
ルマーリンさんと付呪師の悪友ドヴァキンのお話です。
このお話自体に腐要素はありませんが、同工場内でそれっぽいものも生産しているのでご注意ください。
「いい天気ですね」
ルマーリンの皮肉通り、極寒のウィンターホールドの大地にはとめどなく雪のつぶてが降りそそいでいた。
どんなに良い装備を整えたとしても、厳しい自然の前に魔術師は無力である。
いや、ひょっとすればサイジックなどというような規格外の存在なら天気すらどうにかできるのかもしれないが。いち付呪師とブレードバインダーとあっては、おとなしくたき火にあたり、凍死をうんと先に延ばすのがせいぜいだ。
吹きすさぶウィンターホールドの吹雪を避け、私とルマーリンは大地の裂け目にできた小さな洞窟に縮こまっていた。
「炎のマントって温かいと思うか?」
「さあ、どうなんでしょう。私はブレードバインダーなので、破壊魔術師のきもちはわかりませんね。氷のマントっていうなら、きっとこういう気持ちなんじゃないですか」
雪に埋まってみるまでもなく、外は相当に寒かった。
「しくじったな」
「何が?」
「易々と魔力の武器を扱うハイエルフが、まさか本当にその呪文しか使えないとは
……
」
「何度も言ったでしょう、私はブレードバインダーだって」
ブレードバインダーとはルマーリンが自称する職業だ。
主に、剣と弓を召喚して戦う。
私は付呪師だ。付呪師であるがゆえに、魂を縛る召喚術師と組めれば相当に都合がよいと思ったのだが、ようやく見つけた召喚術師は、剣と弓しか呼べないブレードバインダーときたものだ。
しばらくは何か事情があって使わないのだと思っていたが、最近になってようやくほんとうにルマーリンがそれ以外の呪文を知らないし使えないのだということが分かってきた。
「私の身にもなってください。偉そうなローブを着ているからどれだけすごい魔術師かと思ったら付呪師で、しかも付呪しようとして着てる服がはじけ飛ぶような付呪師と一緒なんですから」
「着替えを持ってる」
ルマーリンはあいまいな笑みを浮かべて、それからそのままの口の形でくしゃみをした。私はじわじわと小さくなったたき火の火をささやかに足した。
ウィンターホールド大学の入学試験に三度落っこちた私であっても、初歩的な火炎魔法ならば扱える。それに、ブレードバインダーは意外と火を保つのが上手い。
ブレードバインダーだからなのかは知らないが。私の知る限りブレードバインダーなどと自称する輩はこのハイエルフの男だけだ。ブレードバインダーは100パーセント暖炉の番が上手い。
「これ、寝たら死にますかね?」
「実は鞄の中に<死霊支配の杖>がある」
「私、最近あなたを示すダイイングメッセージを考えたんですよ」
「ほう?」
「地面に両手をつくんですよ。アルケイン付呪器のポーズです」
「闇の一党のしわざと思われそうだ」
洞窟は思いのほか暖かく、吹雪は勢いを弱めつつあった。暗い洞窟はどことなく寒々しく、ごうごうと吹き付ける不規則な音が不安を誘う。
「ちょっと
……
」
しばらくの沈黙に耐えかねて口を開いたのは、珍しくルマーリンではなく私のほうだった。
「なにか、面白い話はないのか」
「眠れなくなる話ですか? 私は以前からあなたのことが
……
」
「杖がある」
「まあ、冗談はさておき。なにかあったかな」
ルマーリンは、ポケットをひっくり返すようにあれこれ考えているようだった。たくさん候補があり、どれにしようかと悩んでいる風だ。
私は、面白いことなど何一つ思いつかなかった。つくづくつまらない人間である。そうしているうちに、ルマーリンはにっと笑った。
「ああ、ひとつとっておきがありますよ。これは以前、友人ととんでもない宿に泊まったときのことなんですが
……
」
ルマーリンは乾いた木の枝を半分に折り、手元を見もせずにたき火に放りこんだ。
やはりブレードバインダーは火の扱いが上手い。私はぼんやりと揺らぐ炎が壁に映し出した陰影を眺めながら、ルマーリンの話に耳を傾けることにしたのであった。
体よくたき火の番を任せ、ごろりところがると、妙な焦げ臭さと乾いた土のにおい、それから苔むしたにおいがした。
はっきりとした記憶はなかったのに、それがなんだか懐かしかった。
◆◆◆
「結構前の話なんですが。今みたいにあてもなく何かお宝でもないかと遺跡をうろついてた私と友人は、吹雪で道を見失い、ちょうど今みたいなことになりました。
今と違うのは、フロスト・トロールと出くわさなかったことと、ふらふらさまよっているうちに運良く小さな明かりを見つけたということですね」
ルマーリンはゆっくりと話し出した。私は、ハイエルフの結構前がどれくらいになるのか考えていた。
「そこはおあつらえ向きに小さな宿で、宿の主人がちょうど外の薪小屋から薪を運んでいるところでした。私たちはこれ幸いとばかりに、その宿に宿泊することを決めました」
人里離れた場所のせいか、宿にはほかに客はなかった。宿は薄暗く、ところどころほこりが薄く積もっており、どことなくわびしい雰囲気がした。
だが、ずいぶんと長く迷っていたので、屋根があるだけましという状況だった。宿に入り、パンとあたたかいホーカーのシチュー、そしてホーニングブリューのハチミツ酒にありついたころには、どういう宿かなんては全然気にならなくなっていた。
「ただまあ、料理は悪くはなかったんですが」ルマーリンは小さく手に持った酒をあおった。「その宿の主人がまた、奇妙な男でした」
主人は、やってきた男たちをみて嫌な顔を隠しもしなかった。まあ、雪でびしょぬれになった冒険者など疎んでも無理はない。かと思えば、次の瞬間にはにやにやしながら部屋を案内するので、その変わりようがまた気味が悪かった。
「荷物を運んでくれると言ったので、友人は荷袋を預けました。もちろん私は当時もほとんど荷物らしい荷物なんて持っていませんでしたし。
……
魔術師かと聞かれたので、違うと答えました。嘘にはならないと思うんですが」
「ブレードバインダーだって言ってやればよかったのに」
「いちいち説明するのもめんどくさいんですよ。それで、案内されるときに気がついたんですが、宿の主人は、指に大きな宝石のついた指輪をしていたんです」
「指輪?」
私は岩場から身を起こした。ルマーリンの声は少しばかり得意げに弾んだ。
「ええ、とてもまがまがしい血の色をしたルビーの指輪でした。あー、ちょっと大げさに言いましたが。
何気なく聞いたら、地下室のスキーヴァーに腹を立てた主人が腹立ちまぎれに作ったものだというんですよ。”どんな獲物でも余すことなく使い切るのが、付呪師の腕前の見せ所”なあんて言ってね
……
」
「ってことは、宿の主人は付呪師だったのか」
「意外とどこでも出くわすもんですね」
「ブレードバインダーはそうそういない」
「私なんかは、探すときには鏡をみますけどね。ええと、どこまで話しましたっけ
……
」
「スキーヴァ
―
」
「そうでしたね」
ルマーリンはふっと笑った。
「我々は食事をとり終わり、ぐっすりと休もうかと部屋に戻りました。階段を上がる最中で、ふと、友人が声を潜めて私に言ったんです。”なあ、あの指輪。あの付呪はかなり高度なもので、まかり間違ってもスキーヴァー程度の魂でできるものじゃない”って言うんですよ。あんな付呪をするには、もっと大きな、そう。”黒魂石に入った、人間の魂くらいないとならない
……
”」
「
……
」
「つまりね
…………
人殺しってことです」
ルマーリンは間をたっぷりととって言った。
「こうなるとルビーの血の色も、あながち間違いではないんじゃないですか? まあ、そうはいったって、単に無礼な山賊でもリサイクルして作ったものかもしれませんし、私はまだ半信半疑でした。吹雪の中、外に出たくなかったというのが大いにあるんですけどね。
ただ、のんびりしていられるほど性善説を信じているわけでもありません。そそくさと部屋に戻り、さっさと荷物をまとめたんですが、友人の斧がありませんでした。扉に手をかけると、鍵が外から閉められていました。それで改めてこれはまずい、と思ったわけです。
そんなに心配そうな顔をしないでください。私は生きてますから。この話は、朝が開けたら同行者がいない
……
なんてオチではないはずですよ」
「
……
だといいな」
私はちらりと外を見た。夜明けにはまだありそうだった。
「私が麻痺の嵐を唱え、勇敢にファイアーボールを
……
まあ、これは私の脚色なので、つまるところ、真実はいつものあれです」ルマーリンは空中から剣を取り出す仕草をした。「不意打ちですよ」
ふと、何気なく語るルマーリンの指先に、薄青い刃先を幻視した気がした。しかし実際にはルマーリンが持っているのはただのナイフで、ルマーリンはおとなしくたき火に加える枝の先をそぎ落としていた。
「こういう時、私はブレードバインダーで心底良かったと思うんです。まあ、最終的に宿の主人を取り押さえたのは友人だったんですがね。
そうこうしているうちに夜が明けて、衛兵が宿にやって来ました。
なんでも、その宿の主人はたくさんの旅人を殺していて、行方不明者がわんさといたそうです。我々も疑われましたが、鍵のかかった地下にある結構な量の人骨をみつけたからには
……
もう何も言われなかった訳ですけど」
「悪くない。作り話にしては」
「ありがとうございます。ぜんぜん作り話じゃないんですけど」
ぞっとするような寒気があって、火が一瞬形を小さく変えた。
「おやすみ」
それから、私たちは無言でベッドロールを引き、互いに仮眠をとることになった。
しばらく寝ていた。
たたん、という物音で少し目が覚めた。吹雪はいつのまにか弱まっていた。風の音だ。空は明るくなりかけていた。
私はどうにも眠れず、そのままごろりと寝返りを打った。
「指輪
……
」
うめくように言うと、ルマーリンはルマーリンで起きていたらしい。
「あの、脅かしすぎましたか?」
「指輪が」
「指輪、ね。残念ながら埋めてしまいました。迷惑料としていただいても罰はあたらなかったと思いますが、友人がどうしてもというので
……
。迷信深いたちでしたから、気味が悪いものを持ちたくなかったんでしょう」
「血のように赤い
……
指輪
……
」
「大げさに言いましたよ」
ルマーリンはそろそろ呆れていた。
「実際のところそんなに高そうではなかったし、石にもヒビが入っていました。血のように赤かっただなんて見間違いかもしれませんし、もしかしたらピンクだったかも。まだ何かあるんですか、ピンクにしましょうか? ピンクだったと思いますよ」
私が気になっているのは、また別の点だった。
「指輪。そもそもルビー細工が高価だが
……
、黒魂石はもっと高い。黒魂石で作られた品は、かなり高い。まあ人ひとり殺してなしうるくらいの強力な付呪となると、できたら結構なもので
……
」
「私だってちょっとちょろまかそうと思いましたよ。ええ、ほんのちょっと。9割って意味ですけど」
「
……
それでもその指輪を埋めた」
ルマーリンは半身を起こした。
「まさか、今から掘り出しに行くとか言わないでしょうね。場所なんて覚えていませんよ。宿ももう、取り壊されてしまったでしょうし」
それからまたしんとした。
天井の隙間の影。小さな水滴がつららの先からしたたり落ちる音。寝返りを打った瞬間に冷たい水滴が目蓋に当たる。
「まだ起きてるか」
「ぐっすり寝てます」
ルマーリンは眠そうな声を出した。
「もう、いい加減にしてくださいよ」
「君に友人はいたんだよな」
「恋人同士だったとでも?」
「いや
……
」
「ねえ。なにか言いたいことがあるなら、はっきり言ったほうがいいですよ。私もぐっすり眠れると思うし」
「ご友人は主人の指輪を見て、宿の主が殺人鬼かもしれないという疑いを抱いた。なら、なんでそのまま飲み食いなんてしたんだろう? 食べ物に何か入ってるかもしれないのに」
「それは。ええっと、
……
一度見た時にはわからなかったんでしょう。あとから見て、疑いが確信に変わった、といったところじゃないですか」
「見ただけじゃどんな付呪なんて見分けられないんじゃないか。まあ、できたにしてもなにかかってるな、くらいで
……
えーと、実際に手に取ってみなけりゃならない。まして、どんなに強力なものかなんて
……
手に取ってみてみないと
……
どうなんだ?」
答えは返ってこなかった。
寝てしまったか、と思ったところで、ルマーリンが返事をした。「
……
たしかに友人はちょっとばかり手癖が悪いところもありましたが
……
うん。結局は埋めたんですよ。あとで掘り返した、かもしれませんが
……
ふああ」
「
……
」
「納得してない顔ですね」
私は少し迷ったが、やはり口をつぐむことはできなかった。魔法使いはみなしゃべりすぎる。
「おまえも言ってたけど、いくらそんな指輪を持っていたって、持ち主が殺したとは限らない。殺人は罪だけど、べつに黒魂石を使った付呪の品を持っていたって、まあ、見とがめられるわけじゃないしな」
「高価な品を狙う山賊は大いに見とがめるでしょうけれどね」
「誰かからもらったものかもしれないし、先祖代々の伝来の品ってこともある。だからそれを理由に、宿の主人が殺人犯と断じるなんて早計だ、早計すぎる」
「でも、実際に殺人犯だったんですよ」
「そこなんだ
……
」
私はぐしゃぐしゃと髪をかきむしった。
「ご友人はあらかじめ、その主人が殺人犯であると知っていたとしか思えないじゃないか」
「
……
はあ」
ルマーリンは要領を得ない返事をした。
「だからといって、友人がグルだったとか、悪い奴だとも思えない。後ろから殴る機会はいつでもあっただろうし、ブレードバインダーだってことを知ってたら不意打ちもきかない。そもそも忠告したのはおまえのご友人だ」
「しゃべり出したらしゃべりっぱなしなのは悪い癖ですよ。私のほうが登場人物のみんなよりすごく強くて屈強かもしれませんよ」
「それが100年は前の話で、登場人物がみんな栄養失調で、君がすごく強くて屈強だったとしても。お友達には、なぜか会ったばかりの主人が人を殺したとわかっていた。現にそれは事実だった」
「
……
」
「
…………
けれど、男に荷物は渡したし、食事はとったんだ」
「
……
どうして?」
「どうして
……
」
「私まで眠れないじゃないですか」
息をすると、つんとした冷気が鼻をついた。一つ思い当たることがあった。
「幽霊の仕業だろうな」
「はあ?」
「宿には殺された者たちの怨念が染みついていて、ご友人はそれを聞いたんだ」
「
……
正気ですか?」
「おやすみ」
横になったが、しばらくすると今度はルマーリンがぶつぶつ言いだした。
「ねえ、気になって眠れたもんじゃないですよ。あなた幽霊なんて信じる性質じゃないでしょう」
「意外と迷信深いんだよ」
「そんな人が付呪師になりますか、私と会った時のこと、覚えてます? あなた墓荒らししてたでしょう」
「
……
真に受けないでほしいんだが。たとえば、私だったら。料理にホーカーのものじゃない肉なんて入ってて、客にそれを出してたら、十中八九そいつが犯人だと思うだろうな」
「
……
ええと」
「少なくとも強力な付呪のかかった指輪を持ってるより、客にそんな料理を出すほうがずっとまともな人間ではない。でも友人の手前、まさかその味を知ってるとも言えない。
だから適当に言いがかりをつけたんじゃないか。友人と自分の身のために。黒魂石での付呪なんてされてなかったとすれば、指輪にもたいした価値はないだろうし、捨てるに惜しくはなかった
……
あー。
……
まあ、それか、酔っぱらって小便でも行ったときに、地下で死体をみたんだろう」
「ねえ、私は幽霊の存在を信じる気になりました」
恐ろしいくらい黙っていたルマーリンがぼそりと言った。
「いろいろと死人のせいにしておいたほうが、ずっと都合がいいことだってあるみたいですね」
朝はあけかけ、すっかり空は晴れていたが、どちらもしばらく立ち上がろうとはしなかった。
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