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やこ
2022-11-11 00:00:12
6029文字
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dcst夢
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プログラマー系仕事人間ヒロインが龍水の誕生日を祝えない話
※ロケット作りあたりのイメージ。知らんけど。
※龍水がほぼ出ない。
※恋人設定。
□□
□□
□□
□□
□□
□□
□□
□□
□□
【1】
思えば私は、所謂「仕事人間」という奴だったので、クリスマスやバレンタイン、誕生日といった「恋人たちのイベント」なんてものはほどんどスルーして生きてきた。
不満顔の歴代の恋人達に、いやだって仕事があるから
……
と言って家を出ては、仕事と恋人どっちが大切なのかと怒られたものだ。今思うに、どちらかというとソレは私が言うべき台詞だったのだろう。
そんな感じで生きて来たので、今、その皺寄せが一気にのしかかっていた。つまり、龍水の誕生日とかいう、超弩級の「恋人たちのイベント」が1ヶ月前に迫っているのである。
え、一体何をやったら良いの? 普通は何をやるものなの?
「
……
こういうときは、知ってる人に聞けば良いんだよね」
いくら考えても答えは出なかったので、私は恥を偲んで友人達に聞きに行くことにした。
「
——
うーん、高級レストランに行ったりとか?」
「お洒落して夜景を見にドライブデートでしょ!」
「無難にプレゼントとかで良いんじゃないの?」
「日付が変わった一番最初におめでとうって言うかなー」
「って言うか、アンタがそういうので悩むの珍しいね? まだひと月あるんでしょ?」
最後の台詞は大きなお世話だったが、なるほどなるほど。フランソワのレストランで茶をしばきつつ、友人達に聞き込みをした結果をまとめたメモを見返す。
高級レストラン、ドライブして夜景デート、相手の欲しがりそうなプレゼント、おっきな花束エトセトラエトセトラ
……
。
「
……
いや、無理じゃん」
呟いて、役に立たないメモ紙をテーブルの上に投げ捨てた。
文明が崩壊したこの世界で、ちょっと良いレストランといえばフランソワのお店だし、まだまだ人工の明かりが少ないから夜になったらどこでだって満天の星が見えるし、つまり日常となんら変わらないのだ。
プレゼントは言わずもがな、物資の貴重なこの世界では大したものは手に入らない。なんなら世界中のお金を発行しているのは、今回、祝いたい張本人なのだ。その上、龍水は究極の「欲しいものはすぐさま自力で手に入れるタイプ」。今、世界で一番物とお金を持っているのは間違いなく龍水だ。
……
ああ、そういえば車はあるな。運搬用の、ムードも何もないゴッツイのが何台か。
「おめでとうって言うのは別にしても
……
詰みじゃん。ないじゃん、私ができる事」
「でしたら、手料理などはいかがでしょうか」
「
……
フランソワ、今なんて?」
「手料理、です。そういえば龍水様は誕生日には、肉料理を所望されておられましたよ。」
「てりょうり
……
」
思っても見なかったフランソワの提案に、私は隠しもせずに顔を顰めた。
「料理ね
……
、ほとんどやった事ないから
……
」
思えば私は、所謂「仕事人間」という奴だったので、家事というものはなるべくやらないようにして生きてきた。
食事といえば外食かお惣菜だったし、洗濯物はボタン一つで乾燥までという謳い文句の洗濯機に任せ、掃除はちょうど流行り出していた全自動の丸いやつをすかさず購入した。
「練習されるのでしたら、この店の厨房をお使い頂いて構いませんよ」
「フランソワ、私の嫌そうな顔見えてる? ほら、眉間に超〜しわ寄せてるんだけど」
「龍水様も、きっとお喜びになると思います」
「でもなー
……
」
「勿論、わたくしもお手伝い致しますので」
「
……
ん。じゃあ
……
ちょっと頑張ってみようかな
……
」
我ながらチョロいとは思わないでもないが、まあ、そういう事になったのだ。
【2】
「あっ
……
!いけません
□□
様
——
!!」
「え
……
あっ?」
忙しい仕事の合間、フランソワから料理指南を受け始めてから今日でおよそ2週間。
なにせ電子レンジもテフロン加工のフライパンも合わせ調味料も何もない。それなのに、カセキおじいちゃんの努力の賜物か、包丁の切れ味だけは異様に良い。
朝は菓子パン、昼はコンビニ、夜のご飯は半額弁当。得意料理は冷凍うどんの私には、ストーンワールドで料理なんて所詮、無理な話だったのかもしれない。
「
……
ねぇフランソワ、もしかしてこの時代ってめちゃくちゃ料理の難易度上がってない?」
もう何個目になるか分からない、かつてハンバーグだった消し炭を突きながら言った。
「そんなことはありませんよ。一つずつ作業をこなしていけば良いのです」
「はー、またこれを食べるのか
……
」
食料が貴重なこの世界では、失敗した食材もひとつだって無駄にはできない。自分が作った、どちらかと言うと美味しくない、有り体に言ってクソまずい試作の料理を連日食べるのは普通に地獄だった。
龍水には、忙しいからしばらく作業場で食べると言って隠していたが、嘘だ。フランソワの美味しそうなご飯の匂いを嗅ぎながら、自分の生み出した産業廃棄物を食べたらおそらく心が折れると判断した。リスク回避。
そしてその後も何度も何度も練習を重ね、さらに2週間が過ぎて。トライアンドエラーとはこうも苦しいものなのかと、人類史を紡いできた先人達に思いを馳せ始めた頃。
「
——
で、できた
……
」
「味も見た目も完璧です。
□□
様、上達しましたね
……
」
「フランソワァ
……
!!」
ついに、ようやく、フランソワの合格が出た時にはもう龍水の誕生日は前日に迫っていた。今の時刻は夜の10時。いつもはきっちり美しいフランソワの縦ロールも、ここ数日は若干崩れている気がする。本当に申し訳ない役目を押し付けてしまった。
「龍水様とのお約束の時間は夜なので、明日は朝から仕込みを始めれば間に合うでしょう」
「よし、頑張る!!」
1ヶ月頑張って、結局、作れるようになったのはハンバーグだけだったので、その他の料理はフランソワが準備してくれる事になった。
まあ、ね。良いでしょう。私にしてはよく頑張りました。人生には妥協が必要だ。あとは明日、本番で完璧なハンバーグを作れば良いのだ。
「あー! ここにいた
□□
!!」
「え?」
思えばこのひと月本当に大変だった、と、ひとりでしみじみとしている所に背後から私を呼ぶ慌てた声がして、私はまた眉間に皺を寄せる事になった。
【2】
「はぁっ
……
これもう
……
っ! 無理絶対間に合わない
……
っ!」
「え
……
! 他に誰か手伝える人
……
」
慌てた様子の知人に「ハードディスクが壊れて明日完成予定のデータが消し飛んだ」とか何とか絶望的なことを言われて、結局私は仕事場に足を運んでいた。
「いやゴメンこっちの話。この作業は間に合わせるから」
「
□□
ちゃん、本っ当にゴメンね
……
!! 今日は休みの予定だったのに
……
!!」
「いやー、しょうがないよこれは」
幸いにも、半泣きのSAIくんや他のメンバーがすでに作業をはじめていたし、途中まではデータのバックアップがあったので、徹夜で作業をすればなんとかなりそうだと少しだけ安堵する。だけど、料理はちょっと遅れるかもな、と少しだけため息をついて、無骨で画素の荒いパソコンの画面に向き合ったのが昨日の夜。
「うわ、まだエラー吐いてる!!」
「少しだけ
……
少しだけ仮眠してくる
……
」
「ちょっと、そっちが終わらないとこっち進まないんだけど」
「夜食、おにぎり貰ってきました!!」
「あー!ここも古いデータに戻ってるじゃん!!」
有り体に言って、現場は地獄になっていた。慌てて現場に駆けつけてから20時間以上が経過して、時刻はとっくに夜の8時過ぎ。龍水の誕生日は後4時間で終わりを迎えようとしている。
傍に置いた時計がやけにカチカチと慌ただしく聞こえる。これは、もう間に合わないか
……
。そう覚悟を決めて、もう何回目かも忘れてしまったため息をついた。
「
——
はー、こっち終わったよ
……
」
「あとどこだ!?」
「こっちは全部終わりました!!」
「こっちももうすぐラストですー!!」
それから、さらに2時間後。ついに誰かが最後のデータを保存した。
ゆっくりと進むデータ転送中の表示を、全員、不安な気持ちで見つめて数十分。全てのデータをどうにか、世界中と繋がる共有サーバに送信した。
「
——
おわったー!!」
「はぁ
……
やっと眠れる
……
!!」
「ハード面の強化も、今後の課題だよなぁ」
「
□□
ちゃん、後の処理はやっておくから。先に帰って良いよ」
「本当? じゃあお言葉に甘えようかな
……
」
まだ少し作業が残っていたが、同僚の申し出をありがたく受ける事にした。今から帰れば、龍水が寝てしまう前に、おめでとうくらいは言えるかもしれない。
少しだけ早足で龍水のいる住居までの道を歩く。半分ほどまできた辺りで、丁度、反対側から歩いてきたゲンくんに出会した。
「あれ、
□□
ちゃん。今日は休みじゃなかったの?」
「休日出勤って実はストーンワールドにもあるんだよ」
「ついに復活したのね
……
」
「本当、しなくていいのにね」
二人で顔を見合わせてため息をつく。
「じゃあ、そんな
□□
ちゃんにはコレ!」
「お花
……
」
思い付いた様にゲンくんが言って、何もない空中から取り出された(ように見えた)のは、一輪の小さな花だった。
「なんか、ゲンくんのお花マジックも久々に見たな
……
」
「冬はなかなか花がなくってねー。これもドライフラワーだよ」
花か。花といえば誰か何か言ってたな。えっと。ああ、そうだ、花束
……
!
「ゲンくん!! 私、このお花買い取る!!」
「はい?」
「今日、龍水の誕生日なんだけど、プレゼント何にも用意できなくて
……
」
「ああ、そう言う事」
私の言葉に、ゲンくんは合点がいったと言う風に、ぽんと手を叩いた。
「んじゃあ、はいコレ。リボンもおまけしちゃう」
ゲンくんは、これまたどこからか取り出した赤いリボンを器用に花の茎に結びつけて、私に手渡してくれた。
「3万ドラコになりまーす」
「たっか!!」
「なにせ、こんな時間じゃどこも店開いてないからねー。買うのやめとく?」
「いや、買うけど!!」
慌てて財布からお札を取り出す。あ、良かったギリギリ足りる。にっこにこのゲンくんに、しっかり3万ドラコを支払った。
「毎度あり〜。じゃあ、気をつけて帰ってね」
「うん、じゃーねゲンくん。
……
どうもありがとう」
【3】
ようやく龍水の家に着いたものの、扉の前でしばらくうだうだと悩む。連絡手段が限られているとはいえ、そういえば遅くなるの連絡ひとつもしていない。
随分と待たせてしまった。怒ってるだろうか。待ち飽きてもう眠ってしまっているかもしれない。
いや、悩んでいても仕方がない。そっとドアノブに手を掛けて、意を決して扉を開けた。
「龍水!」
「
□□
、随分遅かったな」
「えっと、あの
……
?」
誕生日おめでとう。遅くなってごめん。仕事が長引いて
……
。言おうとしていた事は沢山あった筈なのに、いつも通り家でくつろぐ龍水の顔を見たら頭から全部、抜け落ちてしまった。
「
……
誕生日、色々準備しようと思ってたんだけど
……
」
言うべき言葉が思い付かずに、ゲンくんに作ってもらった小さなブーケを、押し付ける様にして龍水に差し出す。
「間に合わなかったから
……
これ、あげる。」
反応が怖くて目を逸らしていると、何も言わない龍水に軽く頭を撫でられて、部屋に入る様に促された。
「とりあえず座れ。夕食にしよう」
「
……
もしかして待ってた?」
そう言って椅子を引かれて、私は龍水とテーブルを挟んで向かい合う。
随分と待たせた上に、結局、料理はフランソワに全て用意させてしまった。ますます申し訳ない気持ちになって椅子の上で縮こまる。
「貴様がこのひと月、ずっと何やら練習してきたと聞いたぞ」
「
——
ッ誰に聞いて
……
あ、普通にフランソワか」
思わず顔を上げると、龍水とバチリと目線が合った。ようやくこっちを見たなと言われて、何故だか楽しそうに笑われた。私は反対に、ますます困った様な顔になる。
「随分頑張っていた様だが?」
「結果がこれじゃあ、意味ないよ」
結局私は仕事を優先してしまったし、あんなに練習したハンバーグは作れず仕舞いで、今日のご飯もフランソワの美味しい料理だ。
おっきな花束はたった1本のドライフラワーになってしまったし、しかも私は徹夜明けのボロボロの格好で、今日の天気は曇りときている。
おかしいな、こんなはずじゃなかったのにな。あ、やばい泣きそうだ。
「結果は関係ないだろう」
「
……
龍水って意外と欲がないよね」
「ム
……
? 流石にそれは、初めて言われたな」
フランソワが2人分の料理を運んで来て、美味しそうな香りが鼻をくすぐった。落ち込んでいても疲れていても、フランソワの料理は美味しい。
「はぁ。やっぱり、慣れない事やってもうまくいかないね」
温かいスープを飲んで一息つくと、ようやく心が落ち着いてきた。
「ごめんねフランソワ、せっかく手伝ってもらったのに」
「いいえ、お気になさらず」
そう言いながらフランソワが、新しい皿を私と龍水の目の前に置いた。
「こちら、本日のメイン。白身魚のポワレ、バスク風でございます」
「あれ、お魚なの?」
なんだかかっこいい名前の料理が出てきたが、どうやら魚料理だったので首を傾げた。龍水、誕生日はお肉食べたいって言ってるんじゃなかったっけ?
「肉料理は、貴様が作ってくれるのだろう?」
「ええ、冗談でしょ。今日はもう間に合わないもん」
「
□□
様、明日は休みと伺っております」
「えー
……
。明日はもう誕生日じゃないじゃん
……
」
「それを言うなら、そもそも石化した時点で数日から数ヶ月の誤差が発生している」
「
……
確かに
……
?」
なんだか言いくるめられた気がしたが、私は観念してため息をついた。まあ、せっかく練習したんだし。明日休みだし。仕方ない。
「ところで、肝心な言葉をまだ聞いていないが」
「
……
ん?」
突然、そんなことを言われて首を傾げた。肝心な言葉? なんだろ。ええっと。
「
……
ああ、完全に忘れてた」
「オイ、」
「冗談だよ」
少しだけ改まって、龍水に向き直る。なんとなく照れくさいのを我慢して、しっかりと視線を合わせた。
「龍水、誕生日おめでとう!」
言った途端に柱時計がひとつ鳴って、慌ただしく明日がやってくる。一瞬だけぽかんとして、思わず二人で目を見合わせて笑った。
「
……
誕生日、終わっちゃったね」
「ハッハー!! ギリギリ間に合ったな!!」
「
……
やっぱり龍水って欲がないよね」
私は、今まで「仕事人間」という奴だったのだが、「恋人の誕生日」に生まれて初めて、それはもう、自分なりにめちゃくちゃ悩んで頑張ったのだ。
だから、まあ、今回はギリギリセーフということで。
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