いを
2024-01-14 20:46:07
1963文字
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タグまとめ4

刀神。
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

4月/春雷が鳴り轟く日(久遠と畢宿さん)
 
 春雷【しゅん・らい】
 春に鳴る雷。多くは日本付近にできた寒冷前線に向かって南から暖気が流れ込み、積乱雲が発達して起こる。雹をともなうこともある。春のらい

 黒いからだが魚のように、すうっと宙を泳ぐ。
 久遠はそれをみとめて遠くを見据えた。
 ビル群と空の間。稲妻が走った。目を焼くような、まばゆい稲光だ。
 薄曇りの空。這うように、そして地面を貫くように轟く雷。
「なんぞ、あれは」
「あれは春雷だ」
 畢宿はすこし、恐々としているだろうか。久遠は心配いらない、という表情かおで畢宿を見上げた。
「あんなにも、光るものなのか」
「雷だからな。畢宿殿の雷とはいささか違うようだが」
「やつがれの雷はあれほど光らぬ」
 ドン、という音をたてて雷がまた、ひとつ。足もとがびりびりと脈打つ。
 畢宿のからだの鱗が鈍く光った。鈍色に輝く太陽に反射したのだろうか。
「自然界の雷とあなたの異能の雷。比べるようなものではない」
「春雷ということは、春がきたということだろう。人の子。自然界の役割をもつ雷だ」
 そうだなと頷く。
「あなたの役割もあるだろう。畢宿殿にしかできないことだ」
 黒い影のようなからだが、するりと再び宙を泳ぐ。
 空中を泳ぐ魚のようなからだだ。
 ――足もとに氷の粒が転がってくる。雹か。
 畢宿は空から降ってくる氷の粒を見ている。もしかすると、視線で追っているのかもしれない。
「畢宿殿。5分後、門が開かれると下緒院から通達がきた。準備をしよう」
「分かった」
 久遠はベルトに打刀、畢宿を固定して、インカムの声に耳を傾ける。
 ――雷の音が聞こえますね。声、聞こえていますか。
 緋鍔局の職員が慎重なトーンで訊ねる。
「ああ。心配はない。臨時のバディ殿も、やる気が十分のようだ」
 ――ふふ。ご武運を。
 ぷつん、とナビの声が途切れる。
「さあ、ここで仕留めようか。畢宿殿」
 黒い雷が妖刀を覆う。どれほど春雷が美しかろうと、久遠にとって必要なのは妖魔に打ち勝つ力だ。
 門が、開いた。


10月/あの子を大事にする日(菊司と定之さん)

 十月ってなんかさ、そわそわしているよね。何でだろうね。異様に街中が橙色というか……。いや、ハロウィンってのは知ってるんだけど。
 秋になるとあっという間に寒くなって、あっという間に次の年きちゃうからねぇ。

「なに飲みたい?」
 定之が自販機の前に立っていた。あまりにもじっと目線を上げていたものだから、声をかけてしまった。
「菊司サン」
 確認するように名前を呼ばれて、うん、と頷いてみせた。
「なにか飲みたいのあるのかなーって」
「神おしることか、シュークリームサイダー、て、なに? 前から、あるみたいだけど」
「あ。あー、これ。これね。俺も飲んだことないんだけど、一応人体には影響ないみたいだよ」
 定之の右目がいぶかしげに菊司を見上げる。
「まあ確かに、峰柄衆が開発したものだし名前だって怪しげだけど……。エナドリよりは全然いいと思うよ。味は保証できないけど」
「菊司サン、またエナドリ飲んでるの」
……墓穴掘っちゃったかな」
 アハハと乾いた笑いをして、首筋を掻く。自販機のそれらを見て、ネーミングセンスといい、一体どういう味なのかと好奇心が湧いた。
「買ってみる?」
「あ」
 返事を聞く前に小銭を入れて、神おしるこのボタンを押す。がこんと落ちてきた缶には、達筆な文字で「神おしるこ」と書かれていた。
 もうひとつ、シュークリームサイダーを買う。これも返事は待たなかった。
「定之くん、どっちがいい?」
「じゃあ、こっち……
 神おしるこを指差したので、素直に渡す。シュークリームサイダー。名前通りならシュークリームの味のサイダーなのだろうけれど、これが売り切れになったところを見たことがない。
「甘い……
 ぽつりと定之が呟くのを聞いて、菊司もシュークリームサイダーのプルトップをあげて一気に飲んだ。
「うーん。シュークリームサイダーって言うしかない味。ちょっと飲んでみる?」
 定之がかぶりを振ったので、ちびちび飲む。エナドリより甘い気がした。
「ねえ定之くん。あと2ヶ月で今年も終わりだねぇ。早いね」
「うん」
「トリックオアトリート! なんて、ちょっとやってみたいなぁ。定之くん仮装してみる?」
「ごうさんのほうが仮装似合うと思う」
「まー、ごうは……年中ハロウィンみたいなカッコしてるからねぇ」
「ごちそうさま」
 神おしるこを飲み干した定之は菊司に向き直った。ちょんと跳ねている髪の毛を見つけて、そっと腕をのばしてその髪を梳いた。
「ふふ、苦いの、飲みたくなっちゃったね」