望月 鏡翠
2024-01-14 12:03:01
918文字
Public 日課
 

#1238 「昆布」「神」「遺跡」

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#1238 「昆布」「神」「遺跡」
 神官見習いたちは、焚き火を囲んで震えていた。神殿勤めというと、世俗のあくせくした労働から自由になっていると考えられがちだが、実はそんなことはない。立場が上ならいざ知らず、見習いなど下働きの子供と変わらない。水を汲んできたり、祭壇の周りを掃除したり、外の落ち葉やゴミを掃いて綺麗にしたりしなければならない。
 そして食事は質素だった。一番美味いものを食べられるのは、神と神官だ。捧げ物でもないのに、敷地の中で生き物を殺めて食べることが許されているわけもなく、育ち盛りには物足りない味付けの食事だけが、全てだった。
「俺、いいものを見つけたんだ」
 ある日そう切り出したのは、海沿いの街からやってきた少年だった。
「どうした?」
 特に興味があるわけではなかったが、仕事を終えた少年たちは退屈していたので続きを促した。
「俺たちの飯って、味が薄いだろう」
「そうだな。肉もほとんど入ってないし、塩も入ってないから薄味だ」
「だからこんなのを持ってきた」
 取り出したのは墨をぶちまけた木の板にしか見えなかった。
「なんだそれ」
「昆布だよ」
「知らない……
 少年曰く、湯につけておけばほんのりと塩味と旨みがでるのだという。内陸の人間からすれば、それは生のときはデロデロとして、乾けば木の板になる不気味極まりない存在で、進んで食べようとはしない。
 だから神殿で見習いをしている少年にも、買える金額で内陸まで持ってくることができた。初め、好奇心からそれを口にした。海の匂いを受け付けないものもいた。
 だが次第に慣れ、その旨みに気づいた少年たちはこぞって昆布を買い求めた。ベッドの下を捲れば、昆布が大量に出てくるし、場合によっては食べ物に見えないのをいいことに書庫に紛れさせておくこともしばしだった。
「許されるのかな」
「忠実な僕たちがうまい飯を食べるくらい、許してくださるだろう」
 かくしてこの街で、昆布を食べる文化が花開いたのである。
 後、とある神を祀る神殿に発掘調査が入った。この遺跡からは大量の昆布が発見された。きっと彼らの信仰に関係しているだろうというのが、研究者の見解である。