Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
迎賓館
2024-01-14 00:43:36
1375文字
Public
TW7
Clear cache
漂着
佐伯(と六宮)。ああ、生き残ってしまった。
目が覚めたとき、「これは夢なのだ」と思った。
「おい、大丈夫か? 立てる?
……
てか聞こえてる?」
少しクセのある青年の声に導かれるようにして、意識が浮上した。上体を起こしてげほ、と咳き込めば、飲み込んでいたらしい海水が吐き出される。
……
それから。砂浜に手をついているはずなのに。その手が、見慣れないものであることに気がついた。
「
……
これは」
手の甲や指を覆う金属の板。目線を下げる。腕も同様だ。膝を見る。案の定だ。見えるのは、無機質な金属。
「これは、いったい。俺は、死んだはずでは」
……
言葉を発する喉に、違和感はない。けれど、己の声にどこか似た、奇妙な声色が発せられた。視界も何故だか鮮やかで
――
今までよりもずっと、鮮明に見える気がした。
顔を上げる。かがみ込んだ男と視線が合う。
……
奇妙な、鳥の嘴のようなマスクを被った青年だった。
その背中には、巨大な白い翼が生えている。それを見て俺は、ああ、ここが天の国というものかと思った。
信じてなどいなかった。元はといえば、俺は神道を信仰していた。だから、流れ着いた先が異教徒の国であるということにただただ、驚愕していたのだ。
「
……
もしかしてお前、記憶がないとか?」
問いかけてくる男が仮面を外す。金髪に赤い目をした青年だ。その青年に俺は、まだ曖昧なままの意識の中、それでもどうにか返事をしようとした。
「
……
ここは
……
」
「うーん
……
じゃあまずは名前」
「名前
……
。
……
佐伯、啓志だ」
「お、日本人? じゃちょっと話早いかも。ここは「新宿島」だ。その様子だと
……
お前、死んだんだろ」
そう言われて、俯いて思い返す。新宿島、という不可解なワードに疑問符を浮かべたまま。
……
確かに俺は死んだ。だが、詳細が思い出せない。
けれど
……
滲む視界の中に、星空を見た。それだけは確かに、覚えていた。
目の前の青年にそれを言う気にはなれなかった。だから俺はただ、彼の言葉の続きを待っていた。
「復讐心はあるか」
彼の不意の言葉に、また顔を上げる。彼は淡々とした様子で、ただ俺を見ていた。
復讐心。
――
そうだ。俺は。
俺は、「敗北」したのだ。
砂を握りしめる。敵わなかった。あの怪物たちに。我々は精鋭だった。数多の戦いを潜り抜け、新たに現れた戦力と交戦していた。だが
……
俺たちは。
……
目が、覚めた。
「答えろ。
……
あるなら、俺はそれを歓迎する」
青年はただ、そう言って俺を見ている。表情は変わらないが
……
それは確かに、俺を気遣う様子だった。
……
もし、俺がここで「ない」と言えば。彼は俺をどうするだろうか。わからない。だが俺は、ゆっくりと頷いた。
「
……
ある」
「そうか」
青年は立ち上がると仮面を嵌め直してから、俺に言う。
「お前みたいなやつがよく流れ着くんだ、ここは。そして、そういう奴らはみんな復讐を誓ってる」
それは、まるで。
……
そう、世界の秘密を囁くような言い方だった。
仮面の奥で目が細まるのだけはわかった。それから彼は、俺に向かってその手を差し伸べたのだ。
「歓迎しよう。新たなる「ディアボロス」。
……
オレの名前は六宮・フェリクス。ようこそ、新宿島へ」
……
そう名乗る彼の、その手を。
俺は躊躇いながらも、取った。
広告非表示プランのご案内