迎賓館
2024-01-14 00:43:36
1375文字
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漂着

佐伯(と六宮)。ああ、生き残ってしまった。

 目が覚めたとき、「これは夢なのだ」と思った。

「おい、大丈夫か? 立てる? ……てか聞こえてる?」
 少しクセのある青年の声に導かれるようにして、意識が浮上した。上体を起こしてげほ、と咳き込めば、飲み込んでいたらしい海水が吐き出される。
 ……それから。砂浜に手をついているはずなのに。その手が、見慣れないものであることに気がついた。

……これは」
 手の甲や指を覆う金属の板。目線を下げる。腕も同様だ。膝を見る。案の定だ。見えるのは、無機質な金属。

「これは、いったい。俺は、死んだはずでは」
 ……言葉を発する喉に、違和感はない。けれど、己の声にどこか似た、奇妙な声色が発せられた。視界も何故だか鮮やかで――今までよりもずっと、鮮明に見える気がした。

 顔を上げる。かがみ込んだ男と視線が合う。……奇妙な、鳥の嘴のようなマスクを被った青年だった。
 その背中には、巨大な白い翼が生えている。それを見て俺は、ああ、ここが天の国というものかと思った。
 信じてなどいなかった。元はといえば、俺は神道を信仰していた。だから、流れ着いた先が異教徒の国であるということにただただ、驚愕していたのだ。

……もしかしてお前、記憶がないとか?」
 問いかけてくる男が仮面を外す。金髪に赤い目をした青年だ。その青年に俺は、まだ曖昧なままの意識の中、それでもどうにか返事をしようとした。
……ここは……
「うーん……じゃあまずは名前」
「名前…………佐伯、啓志だ」
「お、日本人? じゃちょっと話早いかも。ここは「新宿島」だ。その様子だと……お前、死んだんだろ」
 そう言われて、俯いて思い返す。新宿島、という不可解なワードに疑問符を浮かべたまま。……確かに俺は死んだ。だが、詳細が思い出せない。
 けれど……滲む視界の中に、星空を見た。それだけは確かに、覚えていた。

 目の前の青年にそれを言う気にはなれなかった。だから俺はただ、彼の言葉の続きを待っていた。

「復讐心はあるか」

 彼の不意の言葉に、また顔を上げる。彼は淡々とした様子で、ただ俺を見ていた。
 復讐心。――そうだ。俺は。

 俺は、「敗北」したのだ。
 砂を握りしめる。敵わなかった。あの怪物たちに。我々は精鋭だった。数多の戦いを潜り抜け、新たに現れた戦力と交戦していた。だが……俺たちは。

 ……目が、覚めた。

「答えろ。……あるなら、俺はそれを歓迎する」
 青年はただ、そう言って俺を見ている。表情は変わらないが……それは確かに、俺を気遣う様子だった。……もし、俺がここで「ない」と言えば。彼は俺をどうするだろうか。わからない。だが俺は、ゆっくりと頷いた。

……ある」
「そうか」

 青年は立ち上がると仮面を嵌め直してから、俺に言う。
「お前みたいなやつがよく流れ着くんだ、ここは。そして、そういう奴らはみんな復讐を誓ってる」

 それは、まるで。……そう、世界の秘密を囁くような言い方だった。
 仮面の奥で目が細まるのだけはわかった。それから彼は、俺に向かってその手を差し伸べたのだ。

「歓迎しよう。新たなる「ディアボロス」。……オレの名前は六宮・フェリクス。ようこそ、新宿島へ」
 ……そう名乗る彼の、その手を。
 俺は躊躇いながらも、取った。