1. 序文
とあるアニメのとあるCP(原作はBLものではないのに男性キャラ同士の関係に夢を見る、いわゆる腐です)にドハマリして二次創作を楽しむようになった挙げ句、ネットの海を漂ううちに英語圏のファン活動という沼からすっかり出てこられなくなった、日本のオタクが書いています。
今までほぼ知らなかった沼を知ってみると、いやぁこりゃ文化の違いだなぁと、目からウロコがボロボロ落ちる局面がかなり多く。そんな日英オタクライ腐を楽しむうちに、時折見かける
「海外ファンは受攻を気にしないって本当?」
「なんで英語ではこのカップリング、こんな名称で呼ばれているの??」
などという疑問に、私の経験から答えられる何かをネットの海の片隅に書き残しておいてもいいかな、と思って書きました。
全体公開したいので、ハマっている作品やカップリング(CP、カプ)そのものについてはなるべく触れずに書いていこうと思いますが、検索などからいらしてくださってご興味のある方は、置いてある文章を見ていただけたら何のことかはわかるかと思います。
とても面白いので未履修でしたら履修をオススメします。履修済みで解釈違いの方は、どうかその辺りは薄目でスルーしつつお読みいただけたら幸いです。
直接的な表現はなるべく避けて書こうと思いますが、性的な要素も多分に含まれますので、その辺りはご理解の上でお読みください。
とはいえ基本的に、非実在性のキャラクター同士の恋愛関係や性的関係をファンタジーとして楽しむ人間の書いているものですので、現実世界の人間同士のあれこれとは重ね合わせられない部分が多く含まれることも、どうぞご承知おきください。ここにあるのは強めの幻覚。
英語はビジネスレベルで使えてますが、教育論的なところについてはほぼ何も知りません。己の経験と野生の勘でやってます。文法だとかスペルだとか細かいことはいいんだ、とにかくわかった気になって通じ合えてればいいんだ
…くらいのスタンスです。
二次創作は大好きですが、同人誌は読み専です。商業BLについてはほぼ何も知りません。見る分には絵や漫画の方が好きなタチですが、漫画にせよ小説にせよ、自分で本を作ってイベントに参加されてる方は尊敬しています。当方、二次創作的なことは細々~とネットで字書きするのが精々な限界オタクなので
…。
なお、これはあくまもで一個人の観測や経験からの雑感ですので、正確性や汎用性についてはまったく保証しません。参考文献なんかも当たれてないですし(Wikipediaありがとう
…)。個人の海外留学体験記、みたいなものだと思ってください。
2. 英語圏ファンダムとは?
さて、英語圏ファンダム、と聞くとどのようなイメージが浮かぶでしょうか。ファンダムというのは界隈といいますか、日本だと同人界という言葉に近いものといいますか、とある作品のファンによって形成されるコミュニティのことです。ファン+キングダム。概念!
色々とプラットフォームもありますが、ここではファンダムTwitterでのあれこれについて述べていこうと思います(私のファン活の範囲がほぼTwitterなので)。
と、その前に。英語圏っていうのは、海外ってこと? という疑問を持たれた方もいるかと思います。海に囲まれた島国な日本の場合は「海外」といえばざっくり「外国」といった意味合いになりますが、外国というのは別に「英語を話す人のいる国」という訳ではないことは、何となくおわかりいただけるかと思います。とりあえず近隣のアジア各国の時点で英語じゃないし。
「英語圏」というのは英語を介して交流を行う人々のコミュニティのことなので、在住地や国籍は関係ありません。日本生まれ日本育ちの所謂「日本人」でも、Twitterなどで英語を介して誰かとファン活のやり取りをすれば、もう英語圏ファンダムの一員です。
私の生息範囲の英語圏ファンダムでは、まぁ日本以外の国に住んでいるという方が大多数なようですが(北米、南米が多い? もちろん欧州もアジアもオセアニアもお見かけします)、日本に住んでいる外国の方もいるように思われます。ちなみに、これを書いてる私は日本在住です。
という訳で、ここでは「海外」というやや定義が曖昧な言葉よりも、構成する人々のステータスを確実に表せる「英語圏ファンダム」という呼称を使いたいと思います。
……CPの話どこ行った? って思ってる方、鋭いですね。こんな感じで続きますので、お付き合いいただけると幸いです。
3. CP萌え~日本編~
さて、とある作品(マンガでもアニメでも小説でもゲームでもなんでも)がありました。そしてあなたが、この2人のCPいいじゃん! って思えた男性キャラが2人いたとします(CP云々は男性に限らずの話ではありますが、今回はとりあえず男性キャラ2人の話ということで)。
彼らのキャラ名を、仮に「エンピツ」と「消しゴム」としましょう。どうぞ各自で、お好きなキャラを代入してご想像ください。
日本の界隈の場合、CP関係というものは「エンピツ×消しゴム」または「消しゴム×エンピツ」となり、以下のような発言が多く見受けられるようになるのではないでしょうか。
「エン消し中心、その他消し受で活動してます」
「消しエン専用垢作った! 消しエンの方お話しましょう」
「エン×消し一押し!! 逆は無理ですごめんなさい」
「エン受が好きです。エン右固定の方お友達になってください」
「エンピツ」と「消しゴム」のCPがいいなと思った人間は、まずは「どっち」か、所属するコミュニティを選ぶ。「エン消し」か「消しエン」か。そしていずれかに絞って、交流等を始める。
自分で二次創作作品を発表する場合も、「エン消し絵描きました」「消しエン小説18禁です。閲覧注意!」「エン消しサークル増やしたいのでイベント参加します!」といったようなスタイルになるのではないかと思います。
そして「エン消し」のコミュニティと「消しエン」のコミュニティは、基本的には別物となるように思います。そうでないジャンルもあるかもしれませんが。
「エン消し」か「消しエン」か。どっちが受で、どっちが攻か。これは結局のところは、キャラ同士でのゲイセックスを考えた場合の挿入の方向性で決まるものだ、という共通認識で捉えられているものだと思っています。関係への積極性や、能動的/受動的、支配的/従属的な部分での判断というものもあるかとは思いますが、広く共有されている判断基準は挿入順、マイルドに言うなら(?)棒と穴の関係というやつでしょうか。
そして、棒と穴が出てこない話の場合でもどっちが「受」なのか「攻」なのか、作り手が恣意的に左右を決めて、キャラ同士の恋愛関係やロマンスを考えていく場合が多いように見受けられます。
「受」と「攻」の関係を決めてからのやおい作品(あえて黎明期の呼称で)、というのがいつ頃から確立したのか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%84%E3%81%8A%E3%81%84
Wikipedia「やおい」の項を見ると、1980年代半ばからのようです。ですので、その後に参入してくる描き手・書き手にとっては、「同人界と言えばそういうものだ」という意識で、日本の界隈に受攻スタイルは広く浸透していき、それがそのまま現代のネット上でのファン活動にも受け継がれているのではないかと思います。
とはいえ2000年代初頭くらいから(?)、「エン消しエン」的な、リバ関係も含んだCP表記が見られるようになってきたような。近年では「消しエン同軸リバ推し」「エンと消しが好き。 相手固定で左右非固定」「左右概念なしエン消し」といった表明も散見されるように見受けられます。
…これらはあくまで私の通ってきた日本の界隈の印象をまとめたものなので、「違うかな?」「そうじゃないよ!」って部分もあるかもしれませんが、全て「※個人の感想です」が付いていると思ってください。
なお次節に行く前に、ゲイセックスに限って言えば英語でも「top」「bottom」という呼称があることを確認しておいていただけると幸いです。
これらはシンプルに挿入する側/される側を定義する用語なので、日本語の「攻」「受」とは意味合いが少し違いますが、区別をしたい場合には有用です。「攻≒top≒棒」、「受≒bottom≒穴」とお考えいただければ良いかと思います。
4. CP萌え~英語圏編~
さて英語圏のファンダムの場合。こちらについては私の知識はほぼ、2020年代の某ジャンルについてしかありませんので、歴史や背景については特に語れることはありません。昨今の己の体験をベースに感じたこと、考えたことを述べていきます。
英語圏ファンダムのCP萌え、まず入口は「エンピツと消しゴムのシップ、いいね!」というような意識です。
シップというのは日本で言うところのカップリング(カプ、CP)とほぼ同義で、船のshipと綴りは同じです。シップはあくまでもこの場合は「エンピツ」と「消しゴム」、特定の2者間に恋愛または性的な関係性(×であって&じゃないもの)があること、のみを指すものです。
性別だとか、どちらが積極的だとか支配的だとかいった要素とは関係がありません。また、棒と穴の関係性についても問題にはなりません。日本で言うところの「左右概念なしCP」の、更なる上位概念と捉えて貰ったらいいかと思います。
シップは(冗談で)「船」の意味で使われることもありますが、元々は「relationship(関係性)」「friendship(友情)」などの語尾の-shipから来ているもののようです。-shipは中英語のschipeが由来で、特性や状態を表す名詞を作る接尾辞だとか。なので「A×B好き」「●●クラスタ」みたいな「特性」を表す言葉として使われるのも妥当なんですね。閑話休題。
現代ファンダム英語のshipは、動詞であり名詞であり。派生語としてshipper(シッパー:二次創作をする・しないに関わらずシップに基づいたファン活動を楽しむ人。CP厨というか腐というか)、shipping(シッピング:動名詞形。こう書くと発送や輸送といった単語と一緒にもなりますが、シップを応援したり、シップ作品を楽しむ活動の意味です)などがあります。
I'll ship Enpitsu and Keshigomu!(エンピツと消しゴムで腐的妄想すると思う!)
などというのが、シップへの目覚めの宣言です。そして、シップには通称ができていきます。ファンダム内で誰かが気の利いた名称を言い出し、それが広く周知されると一般化していく、という感じのようです。
日本語のCP名と同じく「EnKeshi」など、キャラ名をくっつけて、というものが多いですが、抽象化されやすい概念を備えた2人だと、イメージが通じやすい言葉が広まって定着するようです。具体的に説明するなら、「エンピツ」と「消しゴム」のシップは「PenCase」になります、というようなことです。
とはいえ「EnKeshi」が好きという人はそっちを使い続けますし、特に合わせなければいけないものではないようです。
PenCaseを楽しむ人、つまりペンケースシッパーの発言はこんな感じです。
「エンピツがリードする形で関係が始まるけど、そのうち消しゴムtopに変わっていって、それでたまらなく幸せになるエンピツっていいよね」
「読むのはどっちもいけるど、私はエンピツtopしか書かない。好きだから」
「消しゴムtopが読みたい。最近はPenCaseの小説読んでても、sexシーンでエンピツtopだとわかると閉じちゃう」
「sex描写のない作品でtopとbottomを区別するのって、意味わかんない。どっちがtopって、そんなの単に、その時々の好みの問題じゃん?」
「私はエンピツがトランスジェンダーの設定で書く方が好き。設定に深みが出るから」(注)
「消しゴムがアセクシュアルだったとしても、エンピツは寄り添えるんだろうな」
「PenCaseだけでもとってもいいけど、マーカー(※第3のキャラ)の入ったのも大好き!」
「ハサミ(※同様)の入ったPenCaseもいいよね!」
「定規(※同様)とか、文房具いっぱい入った(※マルチの極み)PenCase最高!!」
(注)(男キャラの)トランスジェンダー設定というのは、日本の用語のカントボーイの場合もありますが、リアルなFtMに近い描写をされていることもあるように思います。とりあえず棒は付いておらず、前の穴がある。胸は手術の痕があったり、元から無い設定だったり。この辺りもそうは詳しくないので、何か気になる点があればご指摘ください
…。
うん、自由だな!!?? こういう発想で書かれた作品を見たり読んだりしていると、日本基準であんなに可愛い消しゴム受のエン消し成人向け絵(※挿入的な意味で)を描いていた絵師さんが、普通に消しエン絵(※同様)を続けて掲載してたりします。Fanfic(二次創作小説)でも2人がsexしようかという段で、「俺がヤる? お前がヤる? 俺はどっちもイケるぜ!」、「僕はあなたに抱かれたい、そしていつか、あなたを抱きたい」みたいな会話になったりもします。
5. 自由の理由
シッピングで描かれる世界、日本の基準から見てみると自由過ぎる
…。しかし逆に考えてみれば、日本の界隈における棒と穴の関係というものは、あくまでも作者による恣意的な宣言(同時に、価値観を共有したい読者による選択の基準)だった訳だから、キャラの視点に立ってみると、そんな作り手・読み手の事情を考える必要はないんじゃないだろうか?
「受」と「攻」を定めて、その枠から逸脱させずに動かすというのは、作り手・読み手側の都合であってキャラの都合ではない。キャラの心情や行動に「受だからこんなセリフ」「攻だからこんなムーブ」といった制限を取り外して考えれば、シッピング世界のあれこれだって十分に実現可能(いや架空のお話なんですけどね!)なんだよな、と
…。
シッピングの自由さに触れると、日本の界隈にはどうしてこの種の自由さはないんだろう? という疑問が浮かんできたり。受攻を定めてからCP萌えを楽しむ、というのには、単に「昔からそうしてきたから」「(特に同人誌即売会のようなリアルイベントでは)そうすることでサークル配置の区分け、別カプの棲み分けができて便利だから」以上の理由はあるんだろうか?
もし理由があったとしても、結局のところのCPの受攻の判断基準は、挿入の方向性に集約されてしまうんだろうか? 棒と穴の関係で左右を定義し、己の属性を「どちらか」に決めてからCP萌えを楽しむ、「そうしなければならない」合理的理由とは??
…もしかして
…特に
…ない
……のでは
……!??
棒と穴を基準に成り立つ関係をずっと考えて、そういうものだと思っていたけれど、キャラ自身は別に、棒と穴を基準に生きてはいない気がする(作品やキャラによっては基準に生きているかもしれませんが、全てについてではないということで)。
さらには性別操作の試みなんかも考えてみると、棒と穴だけでは説明しきれない状況も生まれてくるのではないだろうか。棒がないこともある
…穴にも前後の別がある
…そしてマルチな展開を考える場合は、棒と穴の組み合わせの幅も広がっていく
…。
現実世界で男性と女性、2種類の性別のみしか考えられていなかった時代から、多様で複雑なセクシュアリティの存在が広く共有されるようになってきたのと同様に、架空のキャラクターを描く空想の話であっても、トランスジェンダーやアロマンティック、アセクシュアルといった比較的新しい観念についてまで考えを広げてみると、単純な二元論では収まりきれなく
…なっているのかもしれないなぁと。
現代の英語圏ファンダムに広がるシッピングというものは、受攻だけでは判断しきれないキャラ間の関係をも説明できる、包摂的な呼称と捉えても良いのかもしれません。
6. みんなたちはどう生きるか
さて、ここで序文で取り上げた(覚えておられるでしょうか)、「海外ファンは受攻を気にしない?」、という話に戻りましょう。
ここまでお読みいただいた方には、2人のシップである「PenCase」と、受攻スタイルの「エン消し」には共通部分が多いものの、一致する訳ではない、ということはもうお分かりかと思います。
確かにPenCaseが好きな方の中では、日本的な意味での受攻、棒と穴の関係をあまり気にしない、左右を固定しない、というのが主流ではあります。しかし、シップの観念が広く共有されている英語圏ファンダムでも「左右固定」「エンピツ右」が好きといった風な主張をして活動されている方も見かけはします。
そりゃあ皆、同じキャラやCP好き同士であっても、細かい好みのツボは千差万別ですよね
…。にんげんだもの!
(なおエン消しが好きな場合、日本だと消し受を主張する方が多い気がしますが、英語圏だとエンtopの主張の方をよく目にします。判断基準が違うのは単純に興味深いなぁと)
どこの誰であろうが、
「エン消しが大好き。消しエンは目にしたくないし、消しエン好きな人とは話したくない」
「2人のsexは消しゴムtopしか書きたくない」
こうした思いはあくまでも個人の好みであり、そういった考えを抱く自由は誰にでもあります。もちろん、エン消しが好きだからという理由で、消しエンやらエン定規の作家さんに嫌がらせをしに行ったり、無差別にヘイトを撒き散らすのは言語道断ですが。
他人の「好き」を尊重してこそ多種多様なファン活、インクルーシブなファン同士のコミュニティが成り立つのではないかと思うので。
そして二次創作なんて特に、書き手が書きたいものを書くのが一番! ではないかと思うので、己の心に嘘をつかず、無理をせずに「好きなものを好き」と、楽しめる範囲で楽しんでいくのが良いのかなと思っています。何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ! っていうあれですね。
受攻スタイル、左右固定の作風が好きだ、と思うならそれでいいし、左右にこだわらず単に仲の良い2人が見たいな、というのならそれでいい。リバが似合うと思うならもちろん、そういう関係もあり。2人だけでなく他キャラも絡めた恋愛模様を見たいというのなら、それもまた良し。みんなちがってみんないい。
好きな基準、ここまでいけるな、という基準は、様々な解釈に触れる中で変化していってもいいし、しなくてもいい。何がどう好きか、何をどうやって表現したいのか。それらは己の心に問うことで導き出されるものかと思います。
そんなこんなで、最後まで読んでくださってありがとうございました。皆様楽しいオタクライフを!
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