🍰がとても楽しみですの話

さとう・しおさん宅のシュガ君とモリン君が一緒に居るのを見かけたアラン君とラド君。
シュガ君から彼らの関係を聞くことになったのだが…という話。

 シロガネ・紅梅御殿。アランとラドミールの座る反対側では、話題の中心となったシュガが、大きな体躯を縮めていた。
……ええええ?! それって、セフレってやつじゃないんですか」
「ラドミール、少し静かに」
 聞いて大声を上げたのはラドミールだ。あまりに大声を出せば近隣に聞こえると、アランはぽかんと口を開けたままの弟子の口にポルポローネを放り込んで黙らせた。
「それで二人でいたのか。最近知らない香りを纏っているなと思ったら、どおりで」 
 アランは縮こまる既知のナイトをまじまじと見つめる。青年から言わせれば、意外というからしいというか、なんというか、と言ったところだった。
 始まりはこうである。珍しく連れ立って街に買い物に行った帰り、既知のナイトが、知らないアウラと言い合いをしているのを見かけた。
 が、どうにもその二人の様子はおかしい。着流しのアウラの方がやたらと相手に絡んでいるし、シュガはそれをうっとおしそうに払いのけている。だが一方で本格的に追い払うような真似はしておらず、見方を変えればじゃれあっているようにも見える。
 アランはその時点で情夫か何かだろうとあたりをつけて避けようとしていたのだが、そういった空気に比較的疎いラドミールがシュガに声をかけた。するとシュガは都合がいいとばかりに着流しのアウラを放り、相手ともまともに会話をしないうちにすごい力でアランとラドミールを街はずれまで引っ張っていこうとする。これはまずい、訳アリだ、と今更ながら気付いたラドミールと共に、ひとまずアランは自分の部屋に招待したのだった。
 そうして茶を入れ、腰を落ち着けて聞いてみたところといった具合である。とにかくしどろもどろで色々と弁解を含んではいたが、オブラートをはがしてしまえば、先ほどのラドミールの叫びのまま、まさに着流しの彼は情夫だったわけだ。
 黙ったものの信じられないというような顔のままでいる弟子を横目に、アランはイシュガルドティーをゆっくりと口に含んだ。なるほど、これで色々と得心が言った。最近淡く香水をつけているなと感じたことも、妙にきれいに整えられた髪型も、その彼のおかげというわけだ。遊び人兼、己の花を売る人間であれば、そういった面にとても詳しいだろうから。
「あの人は何言っても勝手に家に入ってくる面倒な人なんです、気になってる人が居るなら素直にそこに行けば良いのにすぐ俺で時間潰ししようとするんだ
 真面目とお人好しで通ったナイトは、まるでらしくなく、いじけた子供のように目をうろうろとさせて口にする。
 ラドミールは未だ信じられないとばかりに大きくなった目を、ぱちぱちと瞬いた。
「でも、家に上がらせてるんだろ?」
「う……
 シュガがまたも小さくなる。2.2ヤルムを超える上背が、今はずいぶん小さく見えた。
「さっきの話だと、あんたもなんだかんだ、世話を焼いてるように聞こえたし。なんていうかそれじゃいいカモってやつじゃないか?」
「ううう……
 さらにシュガが小さくなった。膝まで抱えて、それはそれはもうきゅっと小さくなった。
 更に何かを言おうとするラドミールを、アランは手で制した。少年の言葉は素直すぎて、今の彼には効果てきめんすぎる。
 そんなことは当人が一番よく分かっていて、それでもズルズルと続けてしまっているのだろうから。
 青年はふう、と一息ついた。それはそれとして、この奇妙な関係のことをもう少し知りたい。
「自由な鳥が肩に止まるのをうっとおしがるわりに、世話を焼いてしまってる、と。シュガのことだから、何か理由があるんだろう?」
 何せ真面目で、お人好しすぎるほどお人好しのこのナイトのことだ。夜に生きる手練れの男に引っかけられればひとたまりもなかろうが、それにしても多少情が移っているように見える。
「あの人、酒と煙草ばかり口にしてほっといたら危なそうなので師匠の好きそうな甘味処の菓子をたまに持ってきてくれるので俺の手に入らない様な高級な物とか持って来たりしてくれるから仕方なく
眉根を寄せながらナイトの青年が言い淀む。
 アランは心中でなるほどな、と呟いた。
 つまり、これはそもそもが意中の人がらみで、さらに言えば相手の危なっかしさが彼の気を引いているのだ。
ーー情愛が彼をこうさせている。
 青年は僅かに目を眇める。どうやろうと自分が持ちえなかった感情である。目の当たりにしたそれは心にひっかき傷を作ってはいたが、さりとてそういった感情を持ったところで苦労する様を見せつけられれば、まあない方がよいのかもしれない。
 アランはそっと笑った。
「まるでその『彼』が部屋に訪ねてきていい理由を探してるみたいだな」
 肉を繋ぐとは、これほど人を情で結びつけるものかと感嘆をこぼしかけて、視界の隅でこちらを睨む弟子の目線が刺さる。言いすぎだとでも言いたげな顔だ。
 そうだなと内心で頷き、アランは感嘆を心のうちにしまう。自分が逆立ちをしても恐らく一生得られないものだとはいえ。
「でも嫌なら嫌だとちゃんと言って行動しないと、相手に伝わらないっすよぉー」
 どうやら弟子は、先ほどの言葉で惚気の類だと判断したらしい。もうやる気なく語尾を伸ばして言い、焼き菓子をぽりぽりと齧る。
 うーうーと唸る当の本人はそれに気づいていないのか、未だ『でも』とボソボソ口にしていた。