若いときの苦節は、その男に悪い影響はもたらさなかった。金のない男は、画家だった。丘の上に建てたバラックを長くアトリエ兼住居としていた。先がどうなるかわからないような絵描きに貸せるような家は、そこくらいしか無かったからだ。
男はどこに出かける金もないから、そこから見た景色を描き続けた。そこから見える丘の風景が彼の人生を変える一枚となった。
四季の全てを描いたが、その中でもとりわけ秋や冬の景色が、世間で受け入れられた。寒い季節の絵が最も寂しかった。孤独と絶望と死の臭いがした。
その暗い感情が、現代の人間が求めるものにぴったりだったのだろう。
男の絵は売れた。次第に評価も高まり、高値で売れるようになった。
金が手に入った男は絵の具とキャンバスを買って絵を描いた。更にそれを売り、絵の具やキャンバスでは消費できない程になると、引っ越した。
もう隙間風が吹き込むことなく、冬の寒さで指先が凍えることもない家を手に入れた。男はますます集中して絵を描くことに打ち込んだ。
何度かの転居を経ても、男の題材は相変わらずあの丘であり、冬の景色だった。何度かの絵柄の変遷。画材の変更があったが、モチーフだけは変わることが無かった。
やがて人々が男の絵に飽きて、一部の愛好家の間で取引されるだけになっても、それは同じだった。もっと別の絵を描けというものもいた。
男はそれを聞き入れなかった。黙々と丘の絵を描き続けた。売れようと売れずともかまわなかったのだ。
この男の心にはずっと一つのものしか無かった。最後まで木枯らし吹き荒ぶ寂しい丘の景色があった。花の咲く庭も、命集う池も、描くことはなかった。周囲に集う賑やかな人も、目に入ってはいなかった。
バラックにいた頃と、何一つ変わってはいなかったのだ。
孤独と絶望と死。
世間から見捨てられて再び貧乏になってから、男の絵はますます切れ味を増して言った。
死後、見つかった絵は男が最も評価されていた時代よりも更に高額で取引された。
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