梶間
2019-05-30 00:51:27
1269文字
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チェスをする二人

診断の今日の二人は何してる?より。カブルーは定石とか理詰めを踏まえた上での心理戦が得意で、ライオスはある程度の知識を持ちつつ勘が良いので腕前は上なんだけど心理戦に弱い。そんな二人。

お互い譲れない主張がありそれが平行線を延々とたどるときは、ゲームを一戦行い勝者の言い分を通すと決めていた。
だいたいはその日捕った魔物を食べるか否かでチェスをやることが多い。
今日賭けられた食材はワームだった。魔物を食べることに葛藤はあったものの、ある程度は乗り越えられるようになった。なったが、それはそれこれはこれ。誰かの食べたい物が自分の食べられる物になったとしても、積極的に食べたい物になった訳ではない。

「砂漠地帯で捕れた竜属のワームだから味は竜に近いはずなんだ。虫っぽさはまったくなくて例えれば獣肉が近い。それにこのワームは大人しくて人を襲うことなんて滅多にない。いつも食べてるものは同じ砂漠に住む巨大な昆虫類なんだ」

だから安心、とでもいわんばかりに満面の笑みと瞳孔の開いた目を向けてくるが論点はそこではない。

「気分が向かなくて食べたくないんですけど」

食材の安全性ではなく、口らしき穴から生えた牙とか全体的に芋虫のようなシルエットが食欲を減退させる。
げんなりしていても事態は好転しない。話し合いが解決しないときは新しい手段を取り入れるのが近道だ。

「どうしても気分が向かないんで、今日はこれで決めましょう」

仕舞い込んでいたチェス盤を取り出す。
そうすると相手も素直に席に着いたので盤の用意を整え、白と黒の駒を1つずつ手に握り込む。
普通の人間相手なら、あちらが先手でもなにをしたいのかすぐ分かるので勝てるのだが、ライオスは正直チェスですらなにを考えているとか分からないことが多い。
愚直に駒を進めているかと思えば、思いがけない方向から刺客が飛んでくる。読んでいたつもりがまったく宛にならないことが多いので、先手をとりたかった。

目の動きさえ追っていればどこに注目しているかはすぐ分かるので、ライオスが後手を選ぶように誘導した。

「黒か」
「俺が先攻、そっちが後攻で」

そうしてゲームに有利な先手を取り途中までは好調だったものの、終盤に差し掛かると相手は急に攻勢に出てきた。
勝てると思っていたが、これは引き分けになる可能性が高い。引き分けのときは、お互いの主張を半々くらい呑むことにしている。今回だとワームの煮汁くらいは飲むことなるだろうか。絶対嫌だ。まだ時折痙攣している活きのいいワームなんて煮汁でもぜっっったい嫌だ。
仕方ない。

「ライオス」

集中してじっと盤を見つめていたところに声をかけると顔を上げる。
こちらを見てはいるが意識はまだゲームに集中しているようで瞳はぼんやりと遠くを見ていた。
まだこちらに意識が向かないうちにキスをする。首の後ろに昨晩つけたキスマークの辺りをそっと指でなぞると、ようやく意識がこちら側に向いたようで肩が跳ねた。

「すみません、ゴミが付いてたんで」

ニコリと微笑むと、ライオスは耳の先から首まで赤くなって首の後ろに手を当てた。
場外の心理戦も立派なゲームの内だ。思った通り動揺が抜けきらないライオスの手番は総崩れとなり、今晩の夕食の平和は守られた。