一度焼けたことのある刀だからなのか、燭台切に所縁のある、特に伊達組と審神者に括られている大倶利伽羅と鶴丸国永は大層過保護だ。特に馴れ合うつもりなどないと言っておきながらも燭台切が構うのを好きにさせている大倶利伽羅は恐らく何かあった場合、己のを身を呈することすら厭わないだろう。
だから彼といわゆる恋仲になったと報告した際――相談に乗ってもらったからきちんとけじめをつけたいと言い出したのだ――殴られるか手合わせを申し出られるか、と覚悟をしていたのだが、その予想は大きく裏切られた。
「そうかそうか、光忠のことをよろしく頼むぞ」
ばしばしと鶴丸に叩かれた背は痛いが、それでも加減がされているのはわかるし、涙混じりの声音は温かい。大倶利伽羅も握った拳を震わせながら深々と頭を下げている。当然、光忠も長谷部も慌てふためき二人を止め、改めて互いを大事にすると誓ったのだった。
「まさかあそこまで喜ばれるとはな……」
「散々僕が心配かけたから、かな」
「そこまで思い悩むほどに俺のことを好いているのか」
「……言わなせないでくれないかい」
拗ねたように唇を尖らせ頬を染める様は欲目を多分に含んでいると理解していながらも長谷部には可愛く思えて仕方がない。周囲に誰もいないことを確認し、そっと引き寄せれば素直に身を任せてくるのがより一層愛おしさを募らせる。
「すまない、柄にもなく浮かれているようだ」
「それなら許そうかな」
伏せられた瞼が何を望んでいるのか察せられない程に長谷部は鈍くはない。顔を傾け唇が今まさに触れようとした。
「なんばしよっと?」
「は、博多?!」
「いつのまに?!」
突然の知己の割り込みに咄嗟に燭台切と距離をおいてしまう。確かに短刀で隠蔽が得意だろうと平和な本丸内でわざわざ気配を消す必要は全くない。だから燭台切の台詞はもっともである。
しかし博多はけらけらと笑いながら廊下の角を指さし。
「歩いとったら二人の声ば聞こえてな」
「そ、そうか……」
「ごめんね、うるさかった?」
「せからしくはなか、ばってん、いちゃつくのはやめや」
本丸の中でも低い位置からこちらを見上げて首を傾けられたら正論であるだけに素直に頷くしかなかった。素直に謝罪の言葉を述べれば、「よかよか」と許してもらえたようだ。
「なんだ、狭え廊下で固まって」
「日本号……」
「いや、なんでもないんだ。行こう、長谷部君」
紆余曲折あって奴が顕現した当初は険悪そのものであったが今は長谷部との仲も改善はされている。しかしそれでも強制的に黒田のことを思い出させる彼と顔を合わせるのはなるべく避けている長谷部であるのでそれを知っている燭台切は早くこの場を立ち去ろうと長谷部の手首を掴んだ。
「おいおい、たまにゃ黒田にいた面子で昔話するのもいいんじゃねえか?」
なあ、と酒瓶に触れてそれを揺すりながら言う日本号に博多が満面の笑みで同調している。長谷部としてはお断りだ! と言ってやりたかったが、燭台切が伺うようにこちらを見やる所為で即答が出来ない。何度目かの出陣で奴に本音を漏らすことになるまで彼が長谷部達のことを気にしていたのを、結ばれた際に告げられているのだ。それは妬心による誤解ゆえだったが、なので尚更主に日本号とわだかまりが消えるのならば、と考えているようである。
「日光がいねえのは残念だが、厚と小夜も誘うか」
「厚と小夜は出陣中だろうが」
「じゃあ夜だな。飯のあとにでも飲もうぜ」
その誘いに頷きたくはなかった。何故なら折角恋仲になって初めての夜なのだ。そういったことを期待していないといえば嘘になるし、そうでなくとも燭台切と二人きりですごしたい。だが行ってきなよ、という眼差しを向けてくる彼の気持ちも無碍には出来ない。迷った末に長谷部は。
「少しだけなら付き合うのもやぶさかではない」
という妥協案であった。よっしゃ、と喜ぶ日本号と、へへへ、と足にまとわりついてくる博多の様子に、もしかして長谷部一人がずっと意固地になっていただけなのだろうか、とすら思えてくる。それもこれもきっかけを与えてくれたのは安堵の色を浮かべる者のおかげで、礼を言う代わりにそっとその手を握った。しかもきゅっ、と握り返されたものだから幸せなことこの上ない。
「じゃあ夕食のあとでな」
そう言い残し去ろうとしたところで、「あんまりいちゃつくなよ」と野次が飛ばされ、反射的に振り返って睨めつけようとした。
が、てっきりからかうような表情だと予想していたのに日本号は長谷部を折りたいといった時のような不機嫌そのものな顔をしていた。何故だ、と思いながらその隣の博多へ問うような視線を向けたものの、彼もやはり眉を顰めて渋い顔をしている。
「日本号? 博多?」
「おう、詳しいことはあとでたーっぷり話してやるよ」
ひらひらと手を降った日本号の意図が全く読めなかったが、まさか飲みの席で黒田の刀総出で交際を反対されることになるとはこの時の長谷部が予想できるわけもなかった。
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