清華
2016-04-29 22:51:43
2272文字
Public
 

休日模索

#へし燭版深夜の真剣60分一本勝負
第1回お題:『休日』

五十余りも刀剣男士がいれば当然出陣や内番の任に就かない者も多い。しかも今は政府の用意した演習場で顕現したばかりの刀達の育成に重きを置いている為、古参のある程度実力のある者達は戦時中とは思えぬ日々を過ごしていた。
しかしそんな中でもあくせく働く者はいる。その筆頭はやはり審神者の右腕を自認し政府に提出する書類仕事から戦術・戦略の検討を行う長谷部であろう。織田と黒田という軍略に長けたところにいた所為か、争いのない平和な世にいた審神者にとってはよい教師役でもあるようで、何かにつけては彼と今後の戦について教示を受けている。
それと双璧をなすのが厨で腕を振るう者達だ。歌仙と燭台切がその主たるところで、彼らだけで本丸に住まう者達の胃袋を三食分満たしているのだ。手伝い好きの短刀などを中心に補佐に入るものがいるとはいえ指揮を執るのは彼ら二振りだ。なので歌仙と燭台切はどちらかが必ず出陣をしないように審神者は割り振りを調整し、日々美味い食事にありつけるように苦心していた。
だから幾振りかから上申されるまでちっとも気付いていなかったのだ。彼らが余暇を過ごす暇なく働いているということに。集団で訴えられ、初めてその可能性に思い至った審神者は素直に頭を下げ――その際に好きでやっているから、と長谷部だけでなく歌仙と燭台切も慌て宥めている光景は滑稽であったという――彼らに三日間の休日を与えることを宣言した。
「三日間、食事はどうするんだい」
「それくらいならばお前達抜きでも厨は回せるはずだ」
「主、月末に提出する報告書がまだ途中で……
「いつまでも長谷部に頼り切りじゃお前達の主として情けないだろう」
この通りだ、と頭を下げられてしまえば審神者を主として仰いでいる彼らは逆らうことが出来ない。仕方がない、と受け入れはしたものの、はていきなり休みを与えられても何をしようか、と頭を捻ってしまう。
「歌仙君はどうするんだい」
「僕は折角だから歌を詠んで過ごそうかと思うよ」
「まさに雅だねえ。長谷部君は?」
……何も思いつかん。そういう燭台切はどうなんだ」
「僕も長谷部君と同意見さ。歌を詠むのも得意ではないし」
幅の広い肩を竦めた燭台切に長谷部の藤色の瞳が二度三度と瞬かれた。どうやらその返答が意外だったらしい。その理由が気になりはしたけれど、それよりも問題は明日からの余暇をどうすごすか、だ。うんうん二振りで考えてみるも妙案は出てこない。
「他の子達に聞いてみようか」
「そうだな」
どこか傲慢そうに見える長谷部であるけれど、他者からの意見というのは積極的に取り入れる柔軟さを持ち合わせている。良い将というのは例え諫言であろうとも耳を傾ける度量がなければただの独裁者になってしまう。ただそれが理に反していたりすると受け入れられないだけであるが。
そうして暇そうな同輩達に聞き込み回ってみたものの、これといって二振りともやりたいと思うようなことはなかった。童子がする遊びも歌詠みや茶道などの芸事もあまり興味はない。その合間合間に長谷部が「お前はいいのか」と問い掛けてきたのも不思議であるが、どちらかといえば道楽よりも手習いに思えて休まる気がしないのだ。そう簡単に説明すれば、なるほど、と納得してくれたのでおそらく長谷部も似たようなことを考えていたのだろう。
「どうしようかねえ」
「仕方がない。主に頼んで書物でも取り寄せてもらおう」
「そんなことが出来るのかい?」
「ああ、書庫にないものも賃金で購入出来るらしい」
刀剣男士達は本丸での衣食住を保障されているほか、その働きに応じて給金も貰っている。戦働きだけでなく長谷部のような細々とした作業も燭台切のような裏方の仕事もその評価の対象になっているらしく、何度となく貯めてばかりじゃよくないよ、と審神者から苦言を呈されていた。そうは言われても燭台切が欲しいものは主に厨で使う審神者の時代の調理器具で、そういったものはそもそも経費として計上される為に燭台切個人で支払うことはないのだ。同じく厨番の歌仙は茶器だ掛け軸だ香炉だなんだと浪費しているようであるが、生憎燭台切はその手の目利きが不得手であった。
「俺も書庫のもので事足りていたのだが、読書をしてすごすというのも立派な休日の過ごし方ではないか」
「そうだね。書庫にあるのは余暇に読むようなものじゃないしね」
兵法書や主に書類作成で使用される機械の手引書などに目を通していたらば「やっぱり休んでないじゃないか」と審神者に指摘されそうである。しかし全く架空の物語を描いた書物ならばそれは好きで読んでいるものだと判断されて何も言われないだろう。しかしどんな類いの本があるのか。出来れば前の主に関した軍記物が読んでみたいと思う。
「長谷部君はどんな本を頼むんだい」
「さあな」
そう口にしながらも長谷部は既にどんな本を頼むのか決めてしまっているようだ。だが燭台切へ教えるつもりは毛頭ないようで、普段から勝ち気な表情を更に不敵なものとし、先に頼んでくる、とばかりにすたすたと審神者がいるだろう部屋へと向かってしまった。どうしても刀種ゆえに機動に差があるのでもう追いつけないだろう。何故言いたくないのだろうか、と首を捻った燭台切であるが、結局それはどんな本を審神者に頼むか、という目先の悩みに押し流されその後考えることはなかった。
後日、長谷部が取り寄せてもらった本を参考にし、燭台切へ迫るようになるということを、この時の燭台切は全く思いもしなかったのだった。


清華
https://x.com/l_seika
https://x.com/l_seikagi
https://marshmallow-qa.com/l_seika