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望月 鏡翠
2024-01-10 19:57:01
866文字
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日課
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#1234 「花の咲く木」「壺」「一ヶ月」
#毎日最低800文字のSSを書く
家に帰る途中、懐かしいものを見かけた。
花びらが舞い散る木の下に、幾つもの壺が並んでいた。
学生でなくなってから長い時間が経ったが、新学期が始まるのだと私はしみじみと実感する。まだ学校が始まる前から、実習の準備をしなければいけないのだ。必要なものは、綺麗で真新しい壺。
それをまずは清めてから、蓋をする。余計な生き物やゴミや雑音が入らないように。
壺の準備ができたらそれを花の咲く木の下に置いておくのだ。できれば満開がいい。そしてたくさんの生き物を集める花がいい。約一ヶ月の間、そうする必要がある。無論、一ヶ月咲いたままの花というのは多くない。花の盛りは短いものだ。だから花が萎んできたら、次の花の下に移す必要がある。
そうして壺をおいておくと、蜜や花を求めてきた生き物の羽音や囁きが壺に集まる。うまくいけば、底の方に壺の中でしか生きられない清らかで繊細な生き物が生まれる。
それが上位精霊を呼ぶための供物になる。卒業までに必ず必要になるものだ。しかしこれがなかなかに難しい。学生はそこまでまめでもないし、熱心でもないからだ。うっかり花が散る頃まで放置したり、移動時間が長すぎたり、途中でうるさい場所を通ったり、封が甘くてゴミが入ってしまったり、本当にいるのか確かめたくて途中で蓋を開けてしまったり。失敗の原因は山ほどある。
それで、中身が台無しになってしまうのだ。
私もよくそれで苦労をした。
あの場所は静かで、しかも花が咲く気が近くにたくさんあるから、壺を次の花に移すのも楽だ。あそこを選んでいる人はきっと玄人だろう。もしくは、人から依頼を受けているのかもしれない。
得意不得意があるから、どうしてもうまくいかない人は、こっそりと人に頼んだりする。もちろん有償だ。だから上手な人は、卒業までの間にかなり儲けることができる。
あの壺もそうして誰かに頼まれた卒業前の最後のチャンスなのかもしれない。
過去の記憶を思い返し、私は微笑みながら通り過ぎた。
あの壺の中に、正しく生き物が生まれますように。
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