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望月 鏡翠
2024-01-10 16:47:17
904文字
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日課
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#1231 「落ち葉」「姫」「粥」
#毎日最低800文字のSSを書く
朝の内に玄関の前の落ち葉を掃き清める。あの頃と同じ箒を握っていると、昔のことを思い出す。
あの頃の屋敷は広すぎた。端まで掃き終わったと思ったら、もう最初の方には落ち葉が積もってきていた。だから、使用人もたくさんいて一日中箒で落ち葉を集めている役目のものと、屋敷を掃除するものが別にいたし、食事を用意するものだって別だった。
懐かしい。
身の回りの道具を持ち出すことを許されたのは、幸いだった。屋敷で使っていた箒は、上等なものだったのだろう。どれだけ長く使っても壊れなかった。だから、玄関の前を掃く道具はあの頃のままだ。
それ以外は何もかもが変わっている。
今は三十分もかからずに掃除を終えて、そのあとから食事の用意をする時間がある。使用人は私しかいないから、全てを一人で賄わないといけない。
姫君は十分に陽が上ってから起きてくる。今日も食事は粥だ。毎日変わり映えがない。時々付け合わせのものを変えられるくらいだろうか。だから準備に時間はかからないのだ。
火を起こして焦げないように煮込む。お湯を沸かし、火鉢に炭を入れて部屋全体を温める。
そうした頃に、タイミングを見計らったように、姫君が起きてくる。彼女を見て、かつて姫君だったと思う人はいないだろう。
良くて通う男のいなくなった愛人か、旦那の残した遺産で暮らす未亡人。
着替えを自分でする。髪の毛を自分で結う。入浴を自分でするし、場合によっては洗濯をすることさえある。質素で飾り気がない。だが、所作の端々に品が滲み出ている。
この生活にもっと拒否反応を示されるかと思っていたが、姫君は驚くほど短期間に己の手で全てをする生活に順応した。
「今日もこのようなもので、申し訳ありません」
私は姫君に頭を下げる。
帰ってきたのは、笑い声だった。昔は口元を隠して品よく笑っていたのに、口を開けて笑うことを隠さなくなった。
「そんなこと謝る必要ないのに。私は今の生活に心の底から満足しているのよ」
姫君は微笑む。
「飢えることはない。それは素晴らしいことだわ」
彼女は高貴な人だった。一体いつ飢えについて知る機会があったのだろう。
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