茜屋(せんや)サナ
2020-02-29 23:00:59
2190文字
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軽装小咄

祝! 宗三左文字軽装実装! という事で記念SS です。軽装を着るにあたってもだもだする宗さにのお話です。

「旦那さま、軽装だそうですよ」
「うん、そうだな」
 薩摩国の某本丸の執務室で、色気のない会話が終わった。再開する気配すらない。会話を振られた審神者は黙々と作業に没頭する。あまりの素っ気なさに傷付いた宗三左文字は、旦那さまに詰め寄った。
「旦那さま」
「ちょっ、なに」
 机に向かい書類仕事と格闘していた女審神者はビックリして目を丸くする。彼女は政府へ年度末に提出する書類を端末で作っている最中で、宗三への返事がおざなりにしていたことを反省した。
 しかし、時すでに遅し。
 可愛い嫁は柳眉を逆立てている。審神者こと圭花は容貌の整ったものが怒ると常人の倍恐ろしく見える経験則を思い出した。
 あちゃあ、やっちゃった。後の祭りだ。
「旦那さま」
「はい」
 異彩の瞳が、伴侶をじっと見詰める。審神者はここが分水嶺だと察した。対処を誤れば事態は悪い方へ転がってしまう。
「軽装だそうですよ」
「すごく楽しみです」
 テイクツー。神妙に頷く主に、宗三ははんなりと微笑んだ。判定はセーフ。審神者は見事にやり遂げたのである。
「そうですよね、楽しみですよね」
 噛み締めるように首を縦に振る宗三にならって、審神者もこくこくと頷いた。まだ完全に窮地を脱したわけではない。油断してはならぬ。
「どんな軽装なの?」
 至極当たり前で当たり障りのない質問をする。すると、純粋な好奇心は怪しげな笑みで報いられた。宗三の目元はゆるりと優しくなり、けれども口元は不気味に弧を描く。能面の万媚(まんび)が笑ったらきっとこんな顔だろうなと彼女は思った。
「知りたいですか?」
 いつの間にか、審神者の両手は宗三に捕まっていた。けれども審神者は驚かない。気付いたら彼に触れられていることなど日常茶飯事だ。
「知りたいです」
 うん、と小さく頷きをひとつ。
「そうですか、それは重畳」
 ふふ、と上品に笑む宗三。彼のしなやかだが力強い手指は審神者の柔らかい両手をしっかり掴んで離さない。
 あ、間違えてないけど正しくなかったな、と審神者は直感した。
「教えて差し上げますから、ついて来てください」
 宗三にさあ、と促されて立ち上がり、執務室の隣にある審神者の自室へと連れ込まれる。
 夕餉は遅くなるなと審神者は諦めた。

***

 軽装を見て、審神者は感嘆の息を吐く。軽装は蒼と桜色の地に木瓜の花が咲いた瀟洒な浴衣だった。帯は半幅で柄は刃紋を模している。身を焼かれても実戦刀であろうする宗三らしさを感じるものだ。帯留めと思しき長さの紐は濃い紫色。差し色として全体をすっきりと纏める色合いだ。
 そこで審神者は首を傾げる。これって女物のように仕立てた浴衣だろうか、と。宗三が着るにはやや丈が長い。おはしょりをすれば丁度いいくらいの長さだ。しかし、おはしょりをするのは女物の着物だけだ。男物の着物ではしない。
「さ、旦那さま。手伝ってください」
「わっ!」
 宗三は混乱する審神者の手を取って、自分の内番着の帯を握らせる。たすきは既にほどけていた。
「え……私が脱がせるの?」
「はい。あ、着るのは僕ひとりで出来ますから」
「そうして。私、自分より背が高いひとには着せられないから」
 ではお願いしますね、と囁いて宗三の手は審神者から離れる。脱がせるのはあくまでも審神者の意思で宗三がさせているのではない、ということだ。
 尻込みするのは一瞬、審神者は勢いよく宗三の帯をほどいた。少し力が強かったのか、宗三の腰が揺れる。まあ戦場を駆ける刀剣男士にとって大したことはないのだが。
「もう旦那さまったら性急ですねえ。もっと優しく扱ってください」
「うるさい。何てことないだろ」
 くすくすと笑って宗三は圭花をからかう。対する彼女は頬に朱を昇らせながら嫁を脱がせていく。しかし、その脱がせ方の雑さと言ったらなかった。着物を脱がせていると言うより雪山を崩していると言う方がしっくりくる。羞恥心を消すためとはいえ、あまりにも色気がなくて乱雑だ。
「ちょっと、旦那さま」
 両手首を掴んで待ったを掛ける。宗三はなるべく緩く手首を持った。男の身体というのは思ったよりも難儀で、大して力を入れていないにも関わらず女子どもには強く感じることがあるからだ。
「色気がありません。やり直しです」
「やり直し?」
 鸚鵡返しに尋ねる審神者に宗三はそうです、と返した。乱れた着物をささっと着直し、帯も綺麗に結び直す。
 一方の圭花は、やって来た宿題にペケを食らった小学生のようにしょんぼりとした。いつもの凛々しさはどこかへ遊びに行ったようだ。
……なんかごめん」
 しゅんとうなだれる圭花にいいえ、と宗三は笑って返す。頬に手を添えると子犬のように擦りつく姿はなんとも愛らしかった。
「お仕事を頑張っていたのに急に連れ出して、すみませんでしたね」
 謝る宗三に、圭花は首を横に振る。
「私も素っ気なくてごめん。宗三の軽装姿、綺麗に決まってるのにちゃんと聞かないで……
 宗三は翳る紅蓮色の双眸をいとおしげに眺めて、瞼に唇を落とした。審神者は照れ臭そうに肩をすくめる。
「いいですよ、許してあげます。続きをしましょうか、旦那さま?」
「うん」
 圭花は宗三の首筋に吸いつきながら、ゆっくりと焦らすように帯へと手を伸ばした。

〈了〉