茜屋(せんや)サナ
2017-02-05 19:37:38
2092文字
Public
 

僕の愛する紅蓮色

宗さにワンライ29回提出作品です。使用お題は「愛より深い色」で、審神者が宗三を癒すお話。会話文多めです。遅刻しまして、失礼しました。

僕の愛する紅蓮色

「傷心したので癒してください、旦那さま」
「良し良し。ほい、おいで」
 ある日の夜に、宗三左文字が審神者の私室を訪れた。どこかくたびれた様子の嫁に、旦那である審神者は己の膝を提供する。バタッと倒れ込むように宗三は彼女の膝へと、頭を置いた。
「どしたー、急に?」
「頭撫でてください。お風呂上りなのでツヤツヤです」
「はいはい」
 言われた通りに、審神者は宗三の頭を撫でる。結われていない桜色の髪はツヤツヤで、指によくなじむ感触がした。ふわりと巻き上がる洗髪剤の爽やかな香りと、宗三自身から放たれる神気の桜の匂いが混ざって、ふたりの周囲に漂う。
「シャンプー、変えたのか? 前と匂いが違う」
「こっちの方が、艶が出るので。貴方も使います?」
「いや、いいや」
 人の身を得た刀に、どれほど人間用のものが効くのかは知らないが、まあ効くのだろう。案外、プラシーボ効果のようなものかもしれないが、と審神者は内心で笑った。
「で、『傷心』とはどうしたのかな、可愛い嫁さん」
……貴方だって、聞いたでしょう?」
「何だっけ?」
 首を傾げる彼女を、宗三は首を回(めぐ)らせてひと睨みする。桜色の間から覗く青と翠の眼差しは、どこかいじけた子どものようだ。
「演練の、負けた相手です」
「ん? ああ、あれか。あんなの、敗者の遠吠えだろう? 『へぇ、その程度の事しか言えないのか、かわいいなあお前』と慰めてやるのが勝者のたしなみじゃないか。お前らしくもない」
 けろりとしている審神者に納得がいかないのか、宗三は彼女の太ももに顔をぐりぐりと押し付ける。すると、審神者はくすぐったさのあまり、笑いだした。
「ひひひっ、ひゃ、はははっ! ちょっ、こら宗三! 止めろよ、くすぐったいじゃないか! あははっ!」
「全然、笑えません。あの女、貴方のことを酷い言葉で侮辱しました」
 低くなった宗三の声に、審神者は笑うのを止める。
「そうだな、お前のことも悪く言った。だから言ってやったじゃないか。『お嬢ちゃん、言霊が過ぎて返って来るぞ』ってさ。向こうの男士たちも可哀想だったなあ、品のなってない主というのが私らにバレてしまったわけだし」
 悠然とした声音で、審神者は宗三の頭を優しく撫でてやった。顔を伏せている宗三には、彼女の紅蓮の双眸が柔らかく微笑んでいる様は見えない。それは、「品のなっていない主」を見遣った、紅蓮の烈火を思わせる苛烈な視線と同じ目だとは到底思えないような慈愛に満ちていた。
「なーんだ、そんなことに傷付いてたのかぁ? かすり傷も病めば腫れるぞ、忘れてしまえ」
「僕を悪く言われることなど慣れっこです。でも、貴方がそんなことを言われるのは、嫌なんですよ」
「私だって、同じだ。私がとやかく言われるのはどうでもいいけど、お前が悪し様に言われるのは我慢ならないね」
……はい」
「おいぃ~。そこは『そうですか、僕たち両想いですね』だろ。調子出ないな~」
 審神者はうりうり、と宗三の頭をつつくが、宗三の反応は薄い。
「僕がもっと強ければ、あんなこと、言わせなかったのに……
 あー、こりゃ思ったより根を張ってるな、と審神者は内心で嘆息した。誰しもコンプレックスがあり、いつもは何でもないが、ふとした瞬間にそれは膨れ上がって己を圧迫する。彼は今、圧迫感を味わっている最中なのだ。
「宗三ー、それはお前の強さ弱さの問題じゃないぞ。それにな、私はお前が強くても弱くても、愛していて、大好きなことに変わりないんだ。それじゃ足りないか?」
……足りないです」
「マジか」
「だから、口吸いしてください」
「ん、良かろう。頑張った嫁を労うのも良い旦那の務めだ」
 まるで少年のように朗らかに笑ってから、淑やかな女性の表情で口づける女など少ないのでしょうね、と思いながら宗三は伴侶の口吸いを受ける。温かい粘膜が触れ合う感触は、何度味わっても、味わい足りない。彼が満足してようやっと唇を離す頃には、審神者の息が上がっていた。
「ぷはぁーっ! お前、本当に長い。私、息持たないって!」
「ごちそうさまでした」
  宗三はぺろりと唇の端を舐めた。
「ちょ、お前いっぺん膝から下りろ。足痺れてきた」
「おや」
 畳にごろん、と下ろされた宗三は上体を上げて、乱れた髪を手櫛で梳く。一方で審神者は、痺れた足を撫でていた。
「う~、この砂が足の中を行き交っているような感覚、ほんと嫌いだな」
「おや、すみませんね。それでしたら、按摩しましょうか」
「お願いするわ」
 審神者の意を受けて、宗三は布団を敷き、彼女を寝かせる。
「さて、まずは」
 彼女が異変を感じる頃には、もう遅かった。再び、宗三の長い口吸いが始まる。
「~~っ、ちょ、こら! 宗三!」
「按摩ついでに、夫婦を愉しみましょう?」
「っ、ええい! お前という奴は!」
「ふふふ」
 優しい口づけが、審神者の瞼に落ちる。
 僕の愛しい紅蓮。決して枯れることなき紅蓮。僕だけの紅蓮。
 了承の溜め息に、宗三は微笑んだ。

〈了〉