茜屋(せんや)サナ
2017-01-29 00:19:26
2350文字
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『貴方に、僕が使いこなせますか?』

宗さにワンライ28回提出作品です。お題は「使いこなして」。まだ出会ったばかりの宗三左文字と女審神者のお話です。

『貴方に、僕が使いこなせますか?』

 其は、天地開闢の言祝ぎ。混沌よりかたちを作る言霊。霜の冷たさを以って、泥濘より掬われて、固められたもの。
 数多ある、されど一つしかないものから分け出づるもの。分かち奉られた端末の一。
 それが、宗三左文字が、肉体を持って顕現する前に感じたものであり、自分が「宗三左文字」という刀から分かたれた「刀剣男士」なるものであると自覚した事柄であった。
「貴方も、天下人の象徴を侍らせたいのですか?」
 目の前には、あかい双眸を持つ女が立っていた。見たことのない、あか色だった。鮮烈な色合いは血のようであり、透き通る具合は宝玉のようであり、視線の強さは炎を思わせた。
 「炎」――宗三左文字という刀にとっては、その身を二度も焼いた忌まわしいものだ。だが、己を産んだ母胎でもある。
 顕現して早々から嫌なことを思い出した宗三であるが、そのような様子をおくびにも出さず、ただじっと己を喚んだ審神者を見る。
 色気のない女性だ、と宗三左文字は端的に思う。白い着物に、薄い色合いの袴は儀式のための装束だから、仕方が無い。長い髪を頭頂部で一つにまとめただけ、というのもまあ、いいだろう。しかし、白粉を施して紅を引いたにも関わらず彼女の容貌は、色気からは程遠い。
 きっと、目のせいだと宗三左文字は考えた。強い眼差しが、彼女から女の匂いを感じさせないのだろう。
「あ、侍らせるとかどうでもいいんで、前線行ってください。お願い申し上げます」
 慇懃なのか無礼なのか判じづらい第一声を彼女から頂戴して、宗三左文字の「刀剣男士」としての生活が始まった。

「う~ん……
 宗三左文字が顕現してから七日が経過したのち、主である審神者は執務にて唸っていた。端末には彼女が所有する刀剣男士のステータスが表示されている。第一部隊の六振りのステータスを見比べながら、彼女はけったいな声を出していたのだ。上から三つ目の項目に表示される「宗三左文字」の能力値を見、アイコンをタップする。表示される戦績を見て、眉間にシワが寄る。
「中傷率が高いなー……
 元より、個体値が他の刀剣男士に劣っていることなど、百も承知である。原因として二度に渡る再刃によって、実戦刀としての耐久性が低いことが挙げられているが、ハッキリとそう断言されたわけではない。けれども、それは無視できない事実だ。
 さてどうしたものか、と彼女は緩やかな溜め息を吐いた。休息を取らせてどうにかなるものではなく、単純な練度不足だ。今いる戦域より一度引き、一つ前の時代で練度を上げようか、と決める。彼らにはやや物足りないだろうが、無駄に疲弊することもないだろう、と結論付ける。
 さて、そうと決まれば戦略の練り直しだと、審神者が前の戦域のデータを開こうと端末に指を乗せた瞬間。
「失礼します。今、お時間よろしいでしょうか」
 障子の向こうから、件の宗三左文字の声が掛かった。
「いいよ。入れ」
 静かに障子が開き、宗三が部屋に入って来る。その所作は、誰に習ったわけでもないのに、流麗だ。
「お願いの儀があって、参りました」
 頭が下げられ、上げられる。甘い絶望と、憂いを閉じ込めた青と翠の双眸が、じっと審神者を見た。常人ならば蠱惑的だと思う眼差しを一身に受けても、審神者は動じない。それは別に、彼の瞳のもつ魅了の力に抗しきる精神的な円熟さがあるわけではなかった。ただその類いのことに対する無頓着さから来る不動っぷりである。
「用件は?」
 直截的な彼女の言動は、彼女の刀剣男士たちが好むものだった。
「度重なる中傷をお詫びしますと共に、戦闘を現域に留めて欲しい、と具申します」
……どうしてだい? 中傷がこう重なると負担が大きい。前の戦域じゃ物足りないだろうが、安全に練度上げに集中出来るだろ……
「いいえ」
 力強く、宗三左文字は遮った。どこか茫洋としていた目には、隠しきれない苛烈さが揺れ動いている。
「現域の敵の動きは、すべて把握しました。次からは遅れを取りません」
……証拠は、と言っても意味はないんだよな」
 はぁ、と審神者は一息吐いて、自身の憂いを払い退ける。
「いいだろう。次でこれまで受けた傷の成果を見せろ、宗三左文字」
「御意に。有り難うございます」
 礼をして、部屋を辞す宗三左文字だが、いつもならすぐにいなくなるはずなのに、今日はどういう風の吹き回しのなのか、まだ障子を閉めずに立っていた。
「どうした?」
 やっぱり自分でも不安なのかな、と審神者は心配する。が、どこか挑発的な笑みを浮かべて、宗三左文字は言った。
「貴方に、僕が使いこなせますか?」
 一瞬、何を言われたのかと呆けた審神者だが、彼女もまた挑発的な笑みを作る。
「勿論。私はお前の主だぞ? どんと任せておけよ」
「ふふふ、楽しみです。それでは、失礼致します」
 退出する彼に、審神者はくっくっくと意地悪そうに、喉奥で笑った。
「かーわいいねぇ、天下人の刀は」
 彼女はそう呟いて、執務の続きに戻る。

 一方で、自室に戻った宗三は、安堵と不安に唇を引き結んでいた。
「はは、我ながら大口を叩いたものです。『貴方に、僕が使いこなせますか?』とは……また、大言壮語も甚だしい」
 虚飾の全てを取り払って言うのであれば、ただ怖いだけなのだ。あのあかい瞳が自分から逸れてしまうのが、怖いのだ。自分を価値のないものとして憐れんだ眼差しで、彼女のあかい双眸がこちらに向けられるのかと思うと、恐ろしいのだ。
「侭なりませんね、こうして人の身を得ても」
 彼はひとりで、己の心と向き合う。それがいつか花開く想いに繋がるとはまだ、知らない。

〈了〉