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茜屋(せんや)サナ
2017-01-22 00:10:28
2427文字
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『妬きもちの神さま』
宗さにワンライ27回提出作品です。お題は「逃げ場のない」、今週の刀剣男士の大包平がちょっとだけ出てきます。神さまの妬きもちは怖いお話です。
『妬きもちの神さま』
長かった、と審神者は述懐した。
とてつもない苦行であった、と宗三は思う。
およそ一か月に渡る連隊戦が終了した。薩摩国某本丸の一同は、疲れを癒すための中期休暇に入った。連隊戦に出陣した男士たちは各自、布団との蜜月を楽しんだり、相部屋のものと遊戯に興じたり、ひたすら食にのめり込んだり、修行に打ち込んだりと好きなように過ごしている。
「あぁ~、もう玉なんか一つも見たくない!!」
「全くもって同意ですね
……
!」
本丸の中枢こと、執務室にて審神者とその伴侶である宗三左文字が机に突っ伏して叫んだ。報告書などの残務処理を終えたふたりは燃え尽きていた。真っ白だった。審神者は乱暴に端末をシャットダウンし、宗三は机に山と積まれた書類をぞんざいに退ける。
「玉って何だよ。丸いのがどうかしたのかよ。四角い玉があっちゃいけないんかい!」
「四角いたまというか、もう『ぎょく』でいいのではありませんか?」
「あー、小烏丸任務も控えているんかと思うとゾッとするわ」
「むしろ、僕はゾッとしませんね」
はぁああああ、と同時に大きな溜め息が漏れる。早くも、今年最大級の溜め息だった。
「そう言えば、大包平はどうしてるっけ?」
「
……
嫁の前で他の男士(おとこ)の話をするんですか、貴方?」
宗三の声が、半音低くなった。本丸のヘラ女神の顕現に、審神者はバレないように息を呑んだ。
「いやさぁ。だって、あいつのために苦労しまくったんじゃん、私ら。その成果がどうしてるか気になるくらいは、管理者として当たり前というかさ」
「それはまあ、合理的な判断ですね」
宗三から発せられていた剣呑さは、あっという間に引っ込む。いつどのタイミングで宗三の妬きもち地雷が炸裂するのかをイマイチ理解できない審神者は、戦々恐々であった。
彼の妬きもちは別段、今に始まったことではない。審神者に粉掛け程度で送られた恋文でも、見つければ取り上げて火にくべたり、大して親しくもない男性が近寄れば近くで牽制したりなど、よくあることだ。後から知ったことであるが、審神者と宗三が恋仲になる前は、他の男士を随分と牽制したという話もあった。
お気楽気まぐれ猫かと思いきや、ドーベルマンかウルフドッグの類いなのだ。宗三左文字という「男」は。
いや、孔雀か軍鶏だな。
おおよそ「かごの鳥」とは似ても似つかない鳥を想像して、審神者は失笑する。
「どうしましたか?」
「いや、別に」
そこまで誰かに執着されることなど人生において一度も無かった審神者は、とても驚いた。自分にそこまでの価値があるんだろうか、とまで思う。誰かに好かれることはあっても、そこまで強い「愛」を感じたことはない。最初は、彼の強い愛を受けるのが自分で相応しいのかと戸惑った。
けれども、その葛藤を乗り越えた証が、彼女と宗三の左薬指で輝いている。
「
……
宗三」
「はい、何です?」
「膝枕してくれよ」
「『鶏ガラ』とか言われた僕の細い足で良ければ」
そう呼んだのは、審神者であったりする。ついうっかり「うっわ、ほっそ。鶏ガラじゃん、足」と呟いたのを運悪く宗三に聞かれてしまったのである。以降、かなり根に持っているのだ。
「悪かったってば。ほら、お疲れの旦那さまを労わっておくれ」
調子よく拝み手をする審神者に、これ見よがしに溜め息を吐く傾国の刀。
「あとで僕に付き合ってくださいね」
「いいぞー」
了承を得たと思うや否や、審神者は宗三の膝に頭を乗せる。
「うふふふ。傾国の膝枕最高」
「こんなことをさせて、歴代の主の上を行ったつもりですか?」
「さぁ? 上か下かはどうでもいいけど、されたことはないんだろ」
膝の上でくつろぐ主の、無防備な耳に宗三は薄い唇を近付ける。
「さぁ、どうでしょう? 天下人くらいなら僕が見えていてもおかしくないとは思いませんか?」
「え」
びしっと音を立てて、審神者は固まった。紅蓮色の双眸が、大きく見開かれる。
「え。え、え。え、待って。待った! まさか織田信長とか豊臣秀吉とか、徳川家康とかも、もう体験済みなわけ? この傾国膝枕?」
勢いよく起き上がろうとする審神者を素早く、宗三は押さえこむ。如何に細身であろうとも、カンスト間近の刀剣男士の膂力に、審神者では敵うべくもない。宗三はとても楽しそうにくっくっくと笑っていた。
「えぇー!? 私が初めてじゃないのか!? お前騙したのか!?」
「ひと聞きの悪いことを言いますねえ。『さぁ、どうでしょう?』とちょっとからかっただけじゃありませんか」
「『だけ』じゃねええええ。そこめっちゃ重要! なあ、どうなの、真相は!?」
「真相はお昼寝の後で」
「焦らすな! 寝れないっつーの!」
粘りに粘ったが、審神者は結局寝ることにした。昼寝をしなければ教えない、の一点張りに屈したのである。
安らかな寝息を立てる主の長い髪を梳いたり、顔のパーツを一つ一つ丁寧になぞったりと、宗三は眠る伴侶を存分に堪能していた。たわむれに鼻を摘まむと「ふぐっ」と変な声を審神者が出したので、ちいさく笑ってしまう。
「ねえ、貴方は僕だけの貴方ですよ」
審神者の頭は宗三の右側にあり、身体は彼の左側にあった。彼は袈裟を広げて、審神者が他から見えないように覆い隠す。格子を思わせる柄の袈裟が、鳥かごを想起させた。
「誰にも、渡してやりません」
先日、顕現した大包平はこう言ったのだ。
「好い女だな」
と。「いいおんな」ではなく「好ましい人間」の意味合いで言ったのだろう。それでも、宗三の心にさざ波が立つには十分だった。審神者も悪いのだ。大包平の見た目は好み、などと言うから。単純な感想だとしても、伴侶の前で言って良いことと悪いことがある。
「僕だけの貴方。僕だけの主」
歌うように呪いを口にして、宗三は伴侶の唇を何度も奪った。
〈了〉
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