茜屋(せんや)サナ
2017-01-08 00:15:23
1740文字
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視線から始まった恋

宗さにワンライ25回提出作品で、お題は「自惚れても良い?」です。宗三との結婚前で、女審神者が恋を自覚するお話。

『視線から始まった恋』

 突然だけど、私は現世で異性と付き合った経験は少ない。片手で足りるか、足りないかのぎりぎりの数で、キスが関の山。デートは数回。甘いどころか、雰囲気は割と淡白。友人から「付き合ってる? 大丈夫?」と心配されること、数多し。
 なので実のところ、男女の機微という奴には疎い。付き合った男の子たちとの関係だって、友人たちから「○○くん、あなたのこと好きなんじゃない?」と言われて、それを自覚してから始まった。
 でも、本丸にはそんな友人たちはいない。いるのは、私を主と慕い、忠誠を尽くしてくれる刀剣男士たちだ。それと、たま~に伝令にやってくるこんのすけと、いけ好かない政府の役人数名が訪れるくらい。
 私は、自分で自分の気持ちに気付かなければならないんだ。何故、こんなことを考えているのかと言えば、いま私には気になる相手がいるからである。そいつは、宗三左文字という打刀男士だ。何でも、第六天魔王織田信長が今川義元との戦で得たお気に入りの戦利品で、豊臣家、徳川将軍家と転々としてきた由緒正しい刀、の付喪神さま。
 ゆるく波打つ桜色の長髪に、青と翠のオッド・アイ、細く靱(しな)やかな体躯の持ち主で、所作は美しく穏やかで気品がある。本体の刀の刀身を見るとものごっついのに、人間の身体で顕現した彼の容姿はどうしてあんなにも細いのかが謎だ。ウチでは男士が顕現したあと、私が刀本体を見る習慣があるのだけれど、彼を見て驚いた。
 え、男士の方、めっちゃ細い。え、なんなの、付喪神じゃなくて刀の妖精さんなの?
 ほんとにそう思った。
 あと、「傾国の刀ってどんなかな~へー」という感想も持った。傾国の美女、なんて言葉は書籍ではよく見かけるけど、「傾国の刀」、というのは聞いたことが無かったから。機会があれば、ずーっと宗三を見ていた。美人は三日で飽きると聞くけれど、意外と宗三は三日でも四日でも一週間でも飽きなかった。
 気位が高いのかなと思ったけれど、意外とそんなことはない。むしろネガティブ気味。まあ、それは修行先で見たから知ってる。でも、修行中は自分のことで精いっぱいな部分が多くて、男士一振り一振りの性格について事細かに覚えることは出来なかった。それに、個体差だってあるからお手あげだ。
 なーんてことをぐるぐると考えつつ執務室から、庭先で花を愛でる宗三を、私は見ている。
 彼の穏やかな眼差しを注がれている花はカスミソウだ。たくさん咲いていると、そこが雪景色だと錯覚してしまうから、私は好きだったりする。故郷の大好きな雪景色を思い起こすからだ。
 対する宗三は、髪や服装の色から桜を連想する。ほーう、雪と桜の共演ってワケですか。故郷は冬が長いせいで、桜が咲いてるのに雪が降ってるなんて景色を見たらないわー、とげんなりする。
 でもまあ、宗三とカスミソウならいいや。風情がある。うん。
 すると、宗三がこちらに気が付いて、見返して来た。遠目でも、彼の瞳がしっかりと分かる。甘い絶望と憂いが籠った青翠の双眸が、長い桜色の前髪を通して、私の紅蓮色の目を見る。お互いに、声を掛けることはない。ただ、じっと相手の目だけを見る。視線が絡む。それだけで、何故か十分だった。
 綺麗で、美しくて、艶やかな目。男士たちの目は、色鮮やかで美しい。
 でも私の目は濃褐色だ。つまらない、地味な色だと思う。だから、目の色を変えた。霊力制御の一環として、虹彩を紅蓮色に染めた。遠目でも私だと分かる鮮やかな色にすることにした。本当の色は、ここでは誰も知らない。
 意識が数秒だけ、宗三から逸れた。もちろん、視線も逸れていて、もうこちらを見ていないだろうと想像した。けれども、宗三はまだ、私を見ている。
 ああ、ねえ。あのさ、きっと私、誤解してるんだと思う。幸福な勘違いをしているんだと思ってる。私とお前の視線がここ最近、妙に合う気がする。見合ってから目を逸らすまでの時間が、長いように思う。
 きっと、私はお前が好きなんだ。
 それで、お前も私が――――
 どうしよう。きっと、自惚れだ。でもさ、今だけでも自惚れでもいいよな? だって、お前と私の視線がまだ、絡み合ってる。


〈了〉