茜屋(せんや)サナ
2016-12-11 00:04:43
2374文字
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リンゴと赤 二

宗さにワンライ22回提出作品です。女審神者あり。ムキになってリンゴの皮を剥く審神者と、楽しそうな宗三のお話。

リンゴと赤 二

 某本丸の審神者の私室で、部屋の主である審神者本人が唸っている。
 右手には果物包丁、左手には瑞々しいリンゴがあった。それなりに慣れた手つきで包丁を使い、皮を薄く切っているのだが。
「あ」
 こたつの天板に敷いていた紙の上に、ぱさっと音を立てて、リンゴの皮は途切れて落ちた。
「またかー」
「失礼しますよ」
「はい、どーぞー」
 入室を許可する共に、部屋の襖が開いて宗三左文字が現れる。両腕には五つほどのリンゴを持っている。
「言われた通りに追加分を持ってきましたけど、どうするんですか。もうこんなに」
 宗三の視線の先、天板の上にはかなり大きめのボウルもあった。中には綺麗に皮を剥かれたリンゴがまるまる五つ、塩水に浮いている。その横に置かれている小さめのボウルの中には、赤い皮がこんもりと入っていた。
「えー、だってー。包丁藤四郎原案の次回レクリエーションが『リンゴ皮むき大会』なんだもん。優勝したいもん。でも歌仙が出るから猛練習しないと……
「光忠が『みんなで練習するから、どうやってこの大量のリンゴを捌けばいいの!?』と半泣きしておりましたが」
「あー……光忠ごめん。悪気はない」
「参加選手でない男士も『お八つのリンゴは食いあきた』と。ついには鳥のエサにまで混ぜています」
「あー……鳥さんも喜んでんじゃない?」
……それ、本気で言っています?」
「まあ、半分くらい」
 連続で剥ききれなかったリンゴの皮を全部剥き終えた審神者は、そのままリンゴを八つに切り分けて食べ始めた。
 宗三は呆れつつもリンゴを天板に置き、自分もこたつに入る。
「勝ちたいから頑張るー。めっちゃ頑張るー」
「別にいいんですけどね、そんなに欲しいんですか? 優勝賞品の純米大吟醸酒」
「ああ、欲しいよ。めっちゃ欲しい」
「でも貴方、あまり日本酒は得意ではないでしょう? どうして欲しいんです?」
 次のリンゴを口に入れようとして、審神者の手が止まる。
……うるさいだまってくえ」
「んむっ」
 審神者は問答無用で、宗三の口に、持っていたリンゴを押し込んだ。頬には、やや赤みが差している。それが部屋の温かさによるものではないことを、宗三は重々承知していた。
「むふふ」
「食べながら喋るな」
「もう食べ終わりました」
「早っ」
 彼女は次のリンゴを手に取るが、宗三の口に入れる前に、彼にそれを取られてしまった。
「どうして碌に飲めもしないお酒が欲しいんですか? その理由、聞かせて頂きたいです」
「知ってるくせに。いじわる」
「すみません、察しが悪いので」
 そう言いながらも微笑む宗三が、憎たらしい。
彼女は、わざとガリッと音を立てて、大げさにリンゴを食べて見せる。それでもアルカイック・宗三・スマイルは崩れなかった。むしろ先ほどよりも微笑みの輝かしさが増している気がする。
……知りたいか」
 大人げないとも思うが、やや勿体ぶって審神者は言った。
「ええ」
 微笑む宗三。心なしか、とても楽しそうだ。甘い蒼碧の双眸から絶望成分がいくらか引かれ、代わりにいたずら心精神が充足されている、ように審神者には思える。事実、その通りなのだが。
「そんなに知りたいか」
「知りたいですねえ、僕の可愛い旦那さま」
「うぐっ」
 この本丸では審神者が「旦那」、宗三が「妻」と呼ばれている。それは審神者が「私が世帯主で責任者で、あと響き的にカッコいいから、私が『旦那さま』な!」と発言したことによる。ちなみに、この本丸にいる刀剣男士は、前二つが建前で、最後の「響きがカッコいい」が本音であるとみな知っているのだが。
「この察しの悪い、貴方の可愛い妻にひとつ、ご教授してくださいませんか?」
 可愛らしく、くいっとちいさく顔を右側に傾げる宗三。柔らかい桜色の髪の毛が、さらりと頬に落ちる。
 こうかはばつぐんだ。
……。性格悪い、お前」
 ジト目で睨んでくる旦那の視線を、妻は動じることなく微笑みで躱した。
「何とでも。教えてくださいな、僕の可愛い旦那さま」
 ふふふ、という宗三の笑声が耳をくすぐっているかのように審神者は感じた。
「良いだろう、教えてやる。よーく聞け。私はな、優勝して、お、お前に……っ、だ、大吟醸をプレゼントしてやるんだ! どうだ! 嬉しいか!」
 前半はやけくそと照れ混じり、後半は開き直り全開だ。
「ええ、やっぱりそうでしたか。楽しみにしていますね」
「~~っ、お前ー! やっぱり性格悪い!」
 ムキになってぎゃあぎゃあと騒ぐ審神者の口に、宗三はリンゴを押し込んだ。
「む!」
「言葉にしてくれて、ありがとうございます」
 ふわっと笑う宗三に、審神者は負けを悟った。もう頬と言わず、耳まで真っ赤になっている。もにょもにょと口の中で何やら喋っているが、声にはならなかった。
……じゃあ、その酒注いでやるから、こっちが惚れ惚れするくらいの飲みっぷりを見せろよ」
「はい。しっかり見ててくださいね。ふふふ、貴方にしては珍しく、子どもみたいにムキになっていますね」
「決まってるだろ。好きなヤツの前ではカッコ付けたい」
「まるで男性みたいな台詞ですね」
 ふん、と審神者がそっぽを向く。
「嫌いか」
「いえ、大好きですよ」
 恥ずかしさと嬉しさで居たたまれなくなった審神者は、まとめていた髪を解き、長い髪で顔や耳を隠した。だが、いつの間にか、すぐ隣に移動していた宗三に抱きすくめられてしまう。
「離してよ」
「いやです。こんなに可愛いのに」
 彼女は、身体がかーっと熱くなるのを感じた。同時に、愛しさと嬉しさがこみ上がってくるのも分かる。
 宗三は髪という御簾を上げて、潤む紅蓮の瞳を眺めながら、その甘い紅唇を味わった。

〈了〉