茜屋(せんや)サナ
2016-11-27 00:13:45
2407文字
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忠義の形と愛の形

宗さにワンライ20回の提出作品です。山姥切国広から主への忠義の形と、宗三左文字から主への愛の形について。

『忠義の形と愛の形』

 薩摩国のとある本丸では、主である女審神者からの信頼が最も篤い刀剣男士は、陸奥守吉行である。彼と彼女との関係が「戦友」や「親友」と評される一方で、「純粋な主従」だと評される関係にある刀剣男士もいた。その男士は、山姥切国広――主から「切国(きりくに)」という愛称で呼ばれている。

 大阪城制覇記念の宴で沸く、夜の本丸。切国は、宴会のどんちゃん騒ぎに疲れたので、一時離脱して、縁側で涼んでいた。季節は初冬になっているため、夜間は雨戸がつけられている。そのため、調度良い涼しさになっている。
「騒ぎ過ぎだろう、全く……
 ついには日本号が腹踊りを始めたが、あれは脂肪のある腹でやってこそのものだと彼は思った。酒気を帯びた空気と熱気が絡み合えば、呼吸はいささか苦しくなるし、そもそも喧噪を好まない切国には、宴の席はやや不向きだ。それでも出席するのは礼儀と付き合いの良さ、第一部隊の一員としての義務感によるものだ。この山姥切国広は、義理人(刃)情に重きを置く、漢気のある男士なのである。
 ふと、視線を左の方に遣ると、何か赤い塊が廊下の隅でもぞもぞと動くのが見えた。
 なにものだ、と切国は警戒する。この本丸の主は術師のはしくれでもあるので、結界の精度はそこそこ良い。不浄のものなど、本丸の建物にすら触れさせないはずなのだが、そこはやはり人の子、万全とはいかない。
 まずは、あの赤い塊が何なのか確かめねばなるまい、と緊張して、されど臆することなく彼は不審物に近付いて行く。宴会ゆえに丸腰ではあるが、いざとなれば自慢の足で回避して見せる、と気配を殺して接近すれば――
……くぅー」
…………おい、あんた」
 それは、審神者だった。赤いフリース地の大きなひざ掛けにくるまり、上半身を縁側に、下半身を空き部屋に投げ出して、心地良い寝息を立てている。
 俺の緊張を返せ、と言いたいのを堪えて、切国は主を揺さぶった。
「おい、こんなところで、寝るな。風邪を引くだろうが。あんたは手入れが効かないだろうが」
……すぅ」
「寝息で返事をするな」
 恐らく、酔い覚ましに涼しいところに来たはいいが、そのまま寝入ってしまったのだろう。このままでは風邪を引いてしまうので、自室に返してちゃんと布団で寝かせねばなるまい。
「珍しく世話を掛ける」
 俵抱えにして運ぶか、と手を伸ばしたところで、声が掛かった。
「おやまあ、帰って来ないと思いましたら」
……宗三左文字か」
 主最愛の刀剣男士、宗三左文字が声の主だった。数いる刀剣男士たちの中でも指折りの美貌は、夜陰の陰りで更に美しくなる。
 正直、切国は審神者が宗三を恋人に選んだのが意外だった。もっと男らしい男士を好むかと思いきや、それとは正反対にたおやかな彼を選ぶとは思わなかった。
「『ちょっと夜風に当たって来る』と言って帰ってきませんから、どこに雲隠れしたのかと思いまして。主催のひとりですから、部屋に下がったわけではないとは思いましたが、こんなところでうたた寝していましたか」
 宗三の視線の先、長い黒髪を首元でゆるく束ね、黒一色の着物の彼女は、気持ちよさそうに寝ている。いつも煌々と光る紅蓮の双眸も、今はまぶたの下で見えない。
「起こしてもいいですか? まだ宴の席に居たいでしょうし。『今日はトコトン付き合うぞ~』と息巻いていたので。寝かすにしても、訊くだけはしておかないといけませんから」
……その前に一ついいか、宗三左文字」
 白い布の下で、切国の蒼い双眸が宗三をじっと見詰める。
「はい、何でしょう?」
「あんたは、こいつの何を『好き』になったんだ?」
……今、それを訊くんですか?」
 驚く宗三に、切国は構わない。
「酒の席の余興のようなものだと思えばいい」
「そう来ましたか」
 くすくす、と艶っぽく笑う宗三。凛々しい女審神者と、たおやかな刀剣男士の組み合わせは、なるほど、と思う一方で、何故だ、とも思う。
「彼女はね、『望んでいい』と僕に言ってくれたんです。かごの鳥で、ただ従うだけのこの、なまくら刀に。そこが気に入りました」
……それだけ、なのか?」
「おや。気に入りませんか? あなたの望む回答でなかったのは、仕方ないとは思いますが、つまり、あなたと僕の見解の相違ですよね。この方のどんな資質に魅力を感じるのか、という」
 無言で、切国は宗三を見る。彼の主が褒め称える男士の、桜のような美貌を。人を惹き付け酔わせる美しさの下で、死体から養分を吸い上げる妖木や妖花――妖刀。
 それが、山姥切国広から見た宗三左文字の美しさ、だと思う。色恋に疎い主は、妖花の魅力に酔っているのではないか、と彼はつい思ってしまうのだ。
「あんたは……ただこいつが好きなのか、それとも愛しているのか、どっちかは知らないがな」
 知らず知らずの内に、棘が口調に含まれる。
「こいつのためにならないのなら、こいつを後ろから刺すのも辞さない覚悟くらい、持っておけ」
「急に、何です?」
 微笑みで、棘を躱されてしまう。それでも、切国は言葉を紡ぐ。言霊使いの主の口癖は「言葉は現実を引き寄せる」なのだから。
「ただ愛するだけなんて、きっとだれでも出来る。だが、男女の恋愛は特別だ。あんたがしっかりこいつの手綱を掴んでなければ、こいつが最後に後悔するんだ」
 すまん、酒に酔った戯言だ、と言って、山姥切国広はその場を辞した。
……誰も彼もが、道を違えれば刺せ、という」
 宗三は、眠る主の唇に、そっと口づける。
「共に外道に堕ちることの、何がそんなにいけないのでしょうね」
 そうなれば、もう彼女に立ち上げる力など残ってはいないのだろう。ならば、地獄の褥に寝かせて楽にさせてやれば良いではないか。
 数呼吸ののちに、審神者は目を覚ました。

〈了〉