茜屋(せんや)サナ
2016-10-23 00:05:13
1129文字
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無防備な横顔

 女審神者と宗三が、お月見をするお話。SSです。

無防備な横顔

 真夜中の本丸にて、女審神者はふと目を覚ました。寝返りを打って、何気なく障子の方を向くと、白い紙で出来た扉の向こう側は、とても明るい。
「むぉう……
 おかしな掛け声と共に身体を起こし、寝巻きの上から上着を羽織って、縁側へと出た。
 すると彼女の視界に、中空にぽっかりと浮かぶ、見事な満月が飛び込んでくる。
「お月さま、おっきい」
 彼女は思わずそう呟いて、金色に輝く月に見入った。月の輝きは、冴え冴えとして、透徹とした無機質なものであると審神者は常々、思っている。だが、今日の月は、どこか温かく柔らかいもの感じられた。それは、中庭にて色付いた紅葉のせいなのかどうか。そこまでは、分からない。
 不意に、鼻先を甘い香りが掠める。爽やかだが甘い、春の香り。桜の匂いだ。この審神者は、神気や霊力を嗅覚で知覚する、ちょっとした特技を持っている。
 匂いから遅れて足音が聞こえ、足音の主が、建物の角を曲がって現れた。
「こんばんは、宗三」
「おや。こんばんは」
 いつもはハーフアップに結っている桜色の髪を解いた、宗三左文字だった。白い寝巻きの上から、淡い桃色の羽織を掛けている。
「どうした、寝られない?」
「いえ。ふと目が覚めてしまいまして。……貴方は?」
「私も同じ。せっかくだから、お月見しよう」
 審神者は自室に引っ込むと、座布団二枚とフリース地の膝掛け二枚、半纏を二着を引っ張り出してきた。
「さささっ、どーぞー」
「では、ありがたく」
 審神者から渡されたお月見セットを、宗三は有り難く受け取る。
「今日のお月さま、きれいだねー」
「ええ。十五夜に優るとも劣らない美しさですね」
 座布団を並べて、月に見入る審神者を、宗三はじっと見詰めた。彼女の紅蓮色の双眸は、月光を受けてきらきらと輝いている。
「もしもし。ああ、そのままで」
 声を掛けられて、左を向こうとした審神者を宗三は制した。
「ふと思ったのですがね。……月の表裏だなんて、誰が決めたんでしょう?」
「え?」
「異邦の国では、月は女性の横顔を映している、などと言うのでしょう? ならば、いつも僕たちが見ている月だって、横顔でもいいと思いません?」
……はははっ! そりゃあ、いいや。うん。確かに。コインみたいに平べったいんじゃなくて、球体なんだから、別に横でもいいよね!」
 宗三ナイスー、と言いながら、審神者はくっくっくと笑う。どうやら、ツボに入ったらしい。
 そも、何故急に宗三がこんなことを言い出したのか、というと。
 一心に月に見入る彼女の、無防備な横顔から、そう思ったのだ。その横顔が愛しさに満ちていたことを、生憎ながら審神者は、知らなかった。

〈了〉