茜屋(せんや)サナ
2016-10-21 17:55:22
1603文字
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Zodiac Pisces 散文

 オリジナルファンタジー小説の散文です。思い付きでポチポチ書きました。
 今回はややグロいのでご注意下さい。 m(__)m

  まず、わたしの仕事から説明せねばなるまい。
  必要なのは、何をおいてもまず、屍体だ。
(『屍者の帝国』 伊藤計劃×円城塔)


 「法屍学(ほうしがく)」という学門がある。
 「法医学」に非常に近い学門ではあるが、研究対象となるものは「魔力を宿した遺留物」のみで、修得には魔力を感知出来る才能を必要最低限度、要する。
 とある後ろ暗いイメージのある魔術系統と密接的な関係にある学門である。そのため、好き好んで専攻する者は非常に少ないが、修得して然るべき資格を取れば、先行きは安定している分野でもある。
 法屍学博士は大抵、こう俗称される。

 ーー死操術師(ネクロマンサー)と。


 * * *

「ーー元々、『ネクロマンシー』が『死体占い』を指す単語だということを、公巷の人は知らないし、専門外の魔術師だって忘れている。
 ネクロマンシーのそもそもの目的は、占いの目的で死者を蘇らせること。物質界(アッシャー)の縛りから解き放たれた死者の霊魂は過去・現在・未来のあらゆる事象を知ることが出来る、と原初のネクロマンサーたちは考えたわけ。謂わば、降霊術そのものだったということね。
 ……なのに、黒屍病やら大戦で山ほどこさえられた屍体の処理やら、魔法狩りの最中でいつの間にかネクロマンシーとは『屍体や死霊を操り時として人を呪い殺す術』であり、その使役者は占い師などではなく、『死を操る術師』だと定義されるようになり、いつの間にか占いは医学と死後の世界の橋渡しをする学門、となってしまったわけさ。
 ……兄さん、ここまでで質問は?」
「無い。ガキの頃からずーっとお前に聞かされて耳に瘤が出来上がってるくらいだっての」
 冷たいリノリウム張りの床に、処置台がある。処置台の上には、一体の屍体が安置され、これから屍体解剖されるのを待っている。処置台の前に手術着を着て立つのは、少年のような青年だ。マスクと処置帽を被り、指先から足の爪先までを隈無く覆っているため、丸い大きな暗紫色の双眸しか窺えない。背丈は成人男性の標準に届くか届かないかくらい。目方はというと、その細い体躯では軽いだろう、という程度。
 処置室とは別の、大きなガラスを隔てた向かい側の部屋にいるのは、手術着の青年に「兄さん」と呼ばれた男性だ。皮張りの長椅子に腰掛け、ガラスの向こう側にいる弟を柘榴石色の両目でじっと見つめている。
「だーよねぇ。ガーネット兄さんならイヤってほど知ってるもんね、こんな初歩の初歩。いやさぁ、アークス医大のお医者センセに今日絡まれて不愉快な思いしちゃって。ただの外科医なんだけど、プライドだけはヒマラーヤン山脈みたいに高いヒトでさぁ」

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「大戦後に、山ほど増えた屍体を『資源』として再利用できないか? という案が持ち上がった。防腐処理さえして『清潔に』保てば、何事も問題はないのではないか、ってね。さて問題。この案が結局採用されなかったのはなぜでしょーか?」
「その発想自体が不潔だったからだろ」
「アハハ。頓知(ウィット)が利いてるけど、不正解。正解は――
「屍体を『死者』ではなく『モノ』として扱う理念に耐えることなど、出来なかったからだ。死んで全ての義務から解放されるというのに、抜け殻になった肉体にまだ『役目』を押し付けられることを喜ぶ者はそう多くない」

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 「サロメの凶刃事件」
 夜な夜な「愛するヒト」の首を求めて徘徊する狂女によって、多くの市民が残虐に殺された事件。首に加えて女は身体の一部を奪い取り「誰が私の愛するヨナカーンか?」という文言を被害者の血文字で綴る。市井の噂では死操術師の凶行ということになり、多くの死操術師が謂れのない中傷を被った。

「間違いないよ、ガーネット兄さん」
 デイヴィッドは断言する。
「この屍体は、『サロメ』によって解体されたものだ」