突然の雨に降られて、私は万屋の軒下で溜め息を吐いた。さっきまでは突き抜けるような青空が広がっていたのに、今や灰色の暑い雲が広がり、大粒の雨を降らせている。
用事を済ませて後は帰るだけだったと言うのに。
ち、と舌打ちしたいのを堪えた。近侍の宗三左文字は、茶屋で小夜と江雪さんへのお土産を買っているはずなので、迎えに行かなければならない。
予定外出費になるが仕方なく、傘を一本買ってざんざん降りの中を歩き出した。
一雨のなか、雨粒によって出来た厚いベールを掻き分けるようにして、足早に茶屋への道を進む。雨は冷たくて、濡れた足元は冷えてしまった。
嗚呼、早く宗三に会いたい。あの細くも逞しい腕に抱きついて温かくなりたい。
ばしゃばしゃと水しぶきを跳ねさせて、道を急ぐ。雨粒のベールの向こうに、愛しい桜色が見えて、より急いだ。入り口に入った私を見て、宗三は溜め息を吐く。
「ああもう、こんなに濡れて」
宗三が濡れた裾や袖を吹いてくれているけど構わないで、その腕に抱きついた。
「どうしました?」
「温まりたくて」
「はぁ。子どもですか? ……まあ、いいでしょう。一服する暇はありますから」
中へ促されて、座る。運ばれてきた熱いお茶を啜りながら、隣の体温に寄り掛かる。
……ああ。こんなにもいとおしい。
瞑目して、この温かさに酔いしれた。
〈了〉
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.