2024-01-10 00:20:43
2437文字
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あの子の素顔

落とし所が分からなくなったので供養

 いわゆる根暗と呼ばれるようなヤツが、かれこれ二年は同じクラスにいる。猫背で、無口で、野暮ったい前髪をしていて、野暮ったさを加速させるようなデカい眼鏡をつけているヤツだ。
 名前はエレン・イェーガー。初めて知った時は名前負けしてるんじゃないかと、少しだけ思ってしまったのは俺だけじゃないと思いたい。
 そんなイェーガーは、今日も今日とて教室の片隅で本を読んでいる。あんな野暮ったい視界じゃ文字は見えにくいだろうに。
「なぁにリヴァイ。また眼鏡くん見てるのかい?一体、彼の何が貴方を惹きつけるんだろうね?」
「俺が知りたい」
 どうしてか目で追ってしまう。あいつが次に何をするのかが気になってしまう。何故だと自問自答を繰り返しては、結局いつでもどこでも姿を探している。
 まるで恋じゃないかと揶揄われた言葉がすとんと胸に堕ちて、しかし恋をする理由が分からないから恋と言っていいものかと戸惑っているのが現状。
「片思い歴は一年だっけ?」
「一年と半年だ」
「まぁまぁの長さ」
「ちなみにイェーガーは今、欠伸を噛み殺したぞ」
「なんで分かるの気持ち悪い」
 お前からドン引きすることがあるのかと頭の片隅で思いながら、口には出さずに手を出す。痛いじゃないか!と喚くハンジに気を取られたのか、こちらを向いていたらしいイェーガー。と、合っていたような気がした視線が逸らされた。
「顔が見たい」
「なんなんだよ突然」
「イェーガーの顔が見たい。今、猛烈に、あの野暮ったさの下がどうなってるのか知りたい」
 気になる、とても。知りたい、すごく。
 どんな顔をしているのだろうか。どんな眉でどんな目の形と色をしているのだろうか。一重か、二重か。もしくは奥二重だろうか。まつ毛の長さがどれくらいかも知りたい。顔の下半分のパーツが整っているのは、とっくの前から知っている。
「やっぱり気持ち悪いよ、リヴァイ……
「ワクワク言葉か?」
「チクチク言葉だよ」
 だって気になるだろ普通と言ってしまいたいが、それでハンジまで興味を持ってしまうと困る。俺だけがイェーガーことを知っていたい。なんならイェーガー以上にイェーガーのことを知っているレベルになりたい。
「心配すんな、れっきとした純愛だぜ」
「愛ほど歪んだ呪いもないらしい」
「俺が純愛って言ったならそれはもう純愛だろ。俺の愛に関しては俺がルールだ……どうした、そんな頭痛が痛いみたいな顔して」
……誰のせいだと思ってるんだ」
 気になり出したら止まらない性格なおかげか、この後の授業もずっとイェーガーの素顔について考えていた。部活中も、帰宅中も、夕飯の時も風呂に入っている時も。なんなら眠る直前まで。
 日々ハンジに気持ち悪がられ、その度に口ではなく手を出しながら考え続けたおかげなのか、俺の熱い想いはどうやら実ったらしい。
 考え始めてから早くも一週間が経ったある日の昼休み。人通りの少ない管理棟の曲がり角で思い切りぶつかった相手が、見覚えのある柔らかなブルネットの髪をしていたから。
「いってぇ………ぁ、すみません、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……」 
「えぇと、眼鏡……どこだ、眼鏡……
 きょろきょろ、と言うよりはおろおろと眼鏡を探す姿をしばらく目に焼き付けた後、俺の手元まで飛んできていた眼鏡を拾い上げる。
「なぁ、これ」
「え、あっ、眼鏡……ありがとうございます……
 差し出された手に、確かに眼鏡を乗せようとしていた。していたのに、髪の隙間から目が見えた次の瞬間には、イェーガーの前髪をそっとかき上げていた。
「な、なんです……………あれ?えっと、お前、アッカーマンだよな?」
…………そうだ」
「その、やめて欲しいんだけど……眼鏡も返して欲しい」
…………めがね、あぁ、眼鏡な」
「え、ぃや、ちょっ!?わぁー!?!?」
 眼鏡を持つ手をぐっと握り締めれば、ぱきりと小さな高い音が鳴る。開けば案の定、レンズにヒビが入っていた。
「ちょ、は、はぁ!?なんで、いやなんで!?」
「なんで眼鏡なんかしてるんだ?」
「目が悪いからだよ!!」
「じゃあ前髪伸ばしてるのは?」
「切るのが面倒だっただけ……つか!!眼鏡!!」
「弁償するし、しばらくは俺が面倒見る」
…………は?」
 ぱかりと開いた唇に思わずキスをしそうになるのを耐え、もう一度露わにしたイェーガーの顔を見つめる。
 眉はどちらかと言えば薄く、しかしきりりとした意志の強さがあった。目は猫目というのか、跳ね上がった目尻が可愛い。色が蜂蜜色なせいで、もっと可愛い。ぱっちり二重と、長くて密度のあるまつ毛。もしかしたら眼鏡に当たっていたかもしれない。それはそれで見てみたい気もしてきた。
「だ、いじょうぶ……いらない……
「それは困るな。罪悪感でどうにかなっちまいそうだ……だから、なぁ、良いだろ?」
「っ、いらな、いたっ!?」
「良いよな、エレン?」
「ひっ、ぃ、いい、いいから……!痛い……!!」
 あんまりにも強情だったせいで思わず掴み上げた髪から手を離し、乱れてしまったところをゆっくりと整える。猫っ毛なのか、細くふわふわとした髪は指通りが良かった。
「手を貸せ、立つだろう」
……いや、っぁ…………悪い」
「気にするな、眼鏡を割っちまった俺が悪いしな」
「そ、う、だな……
 手を繋ぐ。恋人繋ぎじゃなくて、普通の繋ぎ方で。まだ俺の片想いでしかないから、恋人繋ぎは付き合うまでのお預けにしておこうと思うのだ。
「明日からよろしくな、エレン」
……よ、ろしく、アッカーマン」
「リヴァイでいいぞ」
「じゃ、ぁ、リヴァイで……
ふるふると手から伝わってくる震え。ぼやけた視界というのは怖いものだろう。生憎、視力に問題のない俺では共感してやることが上手くできない。
「壊した俺が言えたことじゃないが……安心しろ、ちゃんと助ける」
……う、ん」