冬の朝は、寒い。起きるのも億劫でずっと毛布に包まれていたくなる。寝起きは悪くない方だが、こればかりはどうしようもなかった。自身を守るように、殻にこもるように、布団にくるまって再び目を閉じた。
しばらくそうしていると、甘い香りがどこからか漂ってくる。きっと蘇芳が台所で何かを作っているのだろうとすぐにわかった。布団のぬくもりは恋しいが、好奇心に勝てずに布団から頭を出す。そのままずるずると這い出れば、素足の裏から伝わってくる床の冷たさに思わず体が震えた。ピンクのガウンを羽織り、台所へと向かう。
そこには予想通り蘇芳が立っていた。フライパンで何かを焼いているようだ。
「蘇芳おはよ。なーに焼いてんの?」
横から覗き込めば、油が敷かれたフライパンの上には卵液が染み込んだ食パンが並べられていた。
「フレンチトースト」
「朝から洒落たもの焼いてんね」
「いい匂いだろ?」
話しながらも蘇芳は手を止めない。フライ返しを食パンの下に滑り込ませる。そのまま勢いよくひっくり返せば、きれいな焦げ目のついた面が露わになった。じゅわ、ぱちぱち、と油が弾ける音がする。
「まあ、うん。そだね」
「……最近、お前なかなか起きてこないから」
顔色一つ変えず蘇芳は口を開く。
「え?」
「こうすれば匂いにつられて起きてくるかもしれないなって」
ふ、と僅かばかり口角をあげ、フライパンの上にバターを一切れ落とす。熱い鉄板の上であっという間に溶けていくバターの香りが広がる。
「……な〜るほどね。ええ、ええ、蘇芳の目論見通り起きましたとも。もぉ、あたしのことなんだと思ってるわけ〜?」
「食い意地が張ってるやつ」
「ぐぬぬ、否定できない……はっきり言うじゃん」
焼き上がったフレンチトーストを皿に移し、上からさらに砂糖をまぶす。
「ほら、できたぞ」
フレンチトーストを乗せた皿を渡される。テーブルまで運べということだろう。
ナイフとフォークをテーブルに並べ、マグカップに二人分の温かい珈琲をいれる。その間に蘇芳は手際よくサラダまで作っていたらしく、テーブルの上に鮮やかな野菜が彩りを添えている。朝食の準備ができれば席につく。
「いただきまーす」
メープルシロップをたっぷりかけたフレンチトーストにナイフを入れる。その甘い甘い一切れを口に運んだ。思わず顔がほころぶ。心の底から美味しくて、嬉しくて、以前の空っぽな笑顔を浮かべる自分とは違うのだとわかる。
一生かかっても消えないであろう心の痛みは確かにある。しかし、こんな温かな気持ちになれるのはきっと蘇芳がいるからだろう。いつでも私のそばに。
「おいし〜い! やっぱ蘇芳天才!」
冬の朝は、寒いから。二人寄り添いあって息を吐く。蘇芳と過ごす、季節が巡る。
窓の外を見れば、雪がちらほらと降り始めていた。
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