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ぶんどき
2022-06-16 17:19:13
2017文字
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朝はニ度来る
ロトあだ リヴィングアーツ 未通過✕ 紅桜リヴィングアーツその後
──目を閉じても、幾度と重ねた口づけの感触は忘れられない。
*
目を覚ませば見知らぬ部屋の見知らぬ寝台で隣には風眉紅鷹が眠っていた。明らかに自分の家ではないことに少し動揺しつつも、彼を見遣る。真紅の髪が無造作に布団から覗いている。彼の寝顔をこんなに間近で見るのは初めてかもしれない。
「
……
風眉さん、起きてください。ここ、どこです
……
?」
上体を起こし、彼の肩に手を添え軽く揺する。彼は薄く目を開けたかと思うと、
「
……
るせェ」
そう言って徐ろにこちらに腕を伸ばしてくる。咄嗟のことで避ける隙も与えられず、自分はそのままその太い腕に絡め取られた。抱き寄せられたのだと脳が理解した瞬間、気恥ずかしいような居心地の悪さに駆られたが、不思議と嫌ではない。それでも居てもたったもいられず口を開く。
「な、何するんですか
……
!? 離してくださいっ
……
!」
腕を掴み、拘束を解こうとすれば彼は更に腕に込める力を強めた。結果、更に抜けられなくなった。非力な自分では純粋な力で彼には到底敵わないのだ。彼は再び目を閉じたまま返事をしない。寝てしまったのだろうか。この状態で眠られても困るのだが。
「ちょっと、風眉さん
……
起きて、」
声をかけても全く返答がない。聞こえるのは寝息のみだ。腕に締めつけられ、どれだけ足掻こうが彼の胸に顔を押しつける形になってしまう。彼の匂いが目一杯鼻腔をくすぐれば、脳内がくらりと痺れた。
彼の鼓動が、聞こえてくる。安心しているような、そんな穏やかな。色々なことがありすぎて、お互い疲れているのは確かだ。どうすることもできず、しばらく彼の腕の中で微睡んでいると再び強い眠気が襲ってくる。
抜け出すことは叶わないし、ここがどこだかもわからないが、きっと、
「
……
もう、私も寝てしまいますからね
……
?」
彼が隣にいるのなら、大抵の危険はどうにかなってしまうのだろう。だからなのか、不思議と安心してしまうのだ。そんな確信にも近い楽観的な予感。最も危険なのは隣にいるこの男かもしれないというのに。
きゅ、と彼の服を掴む。瞼を閉じれば夢の世界に誘われるまで、そう時間はかからなかった。
*
小桜が眠りについたのを確認すると紅鷹は薄らと目を開けた。それにしても、と自身の腕の中に閉じ込めた小桜を見遣る。主張するような長い睫毛に、すっと綺麗に通っている鼻筋、絹のような美しい桜色の髪がシーツに散らばっている。こうして大人しくしていればツラだけは悪くない。──相変わらず肝の据わったヤツだな。どこだかわからない場所にいて仲の悪いヤツに抱き締められていて、その状況でこんな呑気に寝ていられるなんて。日頃から思っているが危機管理能力が足りてねェんじゃねえかコイツ。しかし、その図太さだけは認めざるを得ない。
かと言って紅鷹は小桜を解放する気はなかった。自分の手元に置いておきたかった。起きたらきっとすぐに帰ってしまうから。くぁ、と小さく欠伸をする。再び瞼が重くなってきた。自分ももう一眠りしようか、そう思って目を閉じた時だった。
「兄貴! おはようございます!」
ガラリとドアが開いて、数人の舎弟が挨拶をしに来たのだ。彼らが見たものは眠そうな若頭と、彼に抱き締められて眠っているえらく美しい男だった。紅鷹は彼らに見せつけるように目配せをする。舎弟たちは「失礼しました!」と頭を下げて部屋から出ていった。
さすがの紅鷹にもわかっていた。この後、組の中で小桜がどういう扱いをされるのか。わかっていて敢えて見せつけたのだから。小桜はそこそこ顔も名前も売れている。加えて、よく一緒にいる姿を見たことがある者は少なくないだろう。そしてこの状況である、小桜は紅鷹の愛人だと勘違いされ、その噂は有りもしない尾ひれがついて組全体に広がるのも時間の問題だろう。
風眉紅鷹は欲しい物は必ず手に入れるのだ、そうまずは外堀から。
*
「で、結局ここはどこなんですか?」
小桜は布団の中で身を縮こませながら問う。
「俺の家だよ。逆になんでテメェがいんだよ。入ってきたのかァ?」
その言葉を聞くと小桜は一瞬目を見開いたがすぐに気を取り直した。
「
……
え。あぁ、あなたの家でしたか。いえ、私は目が覚めたら既にここにいたので勝手に入ってきたわけでは
……
まあでもそれならよかったです。知らない場所だったらどうしようかと思ったので」
「よかったって
……
ここ組の拠点だぞ。安全だと思わねェこったな」
「あなた若頭なんでしょう? あなたを連れていれば別になんてことありませんよねぇ?」
相変わらず小桜は涼しい顔をしている。街に幅を利かせているヤクザの拠点の中心地にいるとは思えない図太さだ。
風眉紅鷹は独占したい。
鹿島田小桜は支配したい。
互いの思惑を知らないまま、今日も二人は肩を並べ街へと繰り出すのだった。
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