昔々あるところに、家のない一人の娘がいました。娘は村や森を渡り歩いて生きていました。村では時おり人から石を投げつけられたりもしましたが、森に入れば優しく食事を分け与えてくれる動物もいて、安全な暮らしとは到底言えないものの、娘はおおむね幸せに過ごしていました。
娘はある時、一人の王子さまと出会いました。王子さまは娘の境遇を哀れに思い、自分と共に来るように誘いました。
「私はあなたにふさわしい姫ではありません」
娘はそう言って、王子さまの誘いを断りましたが、王子さまは娘を愛しているのだと、上手く言いくるめて、白馬の後ろに乗せてしまいました。
馬になど乗ったことのない娘は、戸惑い何度も落ちそうになっては、王子さまにしがみつきました。王子さまは、始めのうちこそ優しく手をひいてくれましたが、次第に娘を煩わしく思うようになりました。
しかし、王子さまは自ら誘ったという責任をとるため、娘を下ろすことはしません。娘はたくさん怪我をして、いつしか口を開くこともなくなってしまいました。
ある時王子さまは高い高い塔を見つけました。その塔には、それはそれは美しいお姫さまが王子さまを待っているのだという噂を娘は知っていましたが、何があるのか知りたい、だから塔に登りたいと言う王子さまを止めることはしませんでした。
高い塔を登り切った王子さまは、はたしてお姫さまに出会い、そしてお互いに愛し合うようになりました。そして王子さまは娘のもとへやってきて、「塔には何もなかったけれど、いい機会だから、私ときみはここで別の道を歩き出そう」と言いました。
娘はただ一言だけ、「お姫さまはいたのですか?その方を愛したのですか?」と聞きました。王子さまは、「そんなことはない」と答えました。娘はそれ以上何を欲するでもなく、自らの足で村や森を流れる暮らしに戻りました。
こうして、王子さまはお姫さまと幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
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